第4話 光るヒモ

 朝起きてご飯を食べてから、僕は畑で土を掘り返している。

 いや、たがやしている方が正確だな。


 あ母さんに頼まれたからやっているんだけど、かなり深く掘るように言われたのは、この畑には土の中で育つイモなんかを植えるのだろう。


 汗をかいて一息入れている時に、ふと考えてみると、僕は足を悪くしたお父さんの代りをやらされているんだと思う。

 困っていた時に、ちょうど良いタイミングで僕が現れたから、頼られているんだ。

 僕にも〈サト〉ちゃん一家にも、これは幸福なことだったんだろう。


 それは良いとして、僕の体力は貧弱だったはずだから、こんなに力がいる仕事は半日も続かないはずなのに、お母さんが驚くほど耕すことが出来たらしい。

 平均的な農夫の仕事量なんて知らないけど、どうも僕の今の身体はかなり力があって、耐久力も豊富にあるようだ。


 どうしてこうなったかは、分からないけど、これは一種のチートじゃないのか。

 勇者でも剣聖でも賢者でもないから、目立ったものじゃないけれど、僕がずっとあこがれていたものだ。

 〈お前はダメなやつだ〉と言われ続けていた僕が、すごいって驚かれて頼られてのいるのは、夢のようなことなんだよ。


 だからお母さんのリクエストに応えて、もっと畑を耕そう。

 何か月後にはイモが食卓に乗るのを期待しよう。



 昼食を食べた後に、畑を耕しながら、あることに気がついた。

 〈サト〉ちゃんのお家は、集落から一軒だけ離れて、ポツンと建っている。


 僕の悲しい経験から紐解ひもとくと、〈サト〉ちゃん一家は、この村の人から仲間外れにされているらしい。

 何が原因か分からないけど、他の村人との交流がまるでないぞ。

 近くを通りがかった村人に、僕が会釈えしゃくをしても、完全に無視されてしまう。

 その間お母さんは、ずっとうつむいて畑の土を見ていたと思う。


 村って言うのは人が少なくて、そのため必要以上に濃密な関係を求められガチじゃないか。

 僕が優しい人が多そうな田舎へ行きたいと、ネットを検索した時にそう書いてあって、「わぁ、都会よりコミュニケーション能力が必要なんだ」と驚いたことがあったぞ。


 それが挨拶程度のコミュニケーションも無いんだ、異常なことだと思う。



 「えーん、いやだ。 いやだ。 お友達と遊びたいよ」


 僕が井戸からんだ水で身体をいていると、〈サト〉ちゃんが玄関でお母さんに抱き着いてぐずっていた。

 大きなお尻に手を回して、お母さんを玄関から外へ押し出そうとしていたんだろう。


 〈サト〉ちゃんの友達と遊びたいって言う叫びは、いつも僕が思っていたものだ。

 お母さんは、〈サト〉ちゃんの頭をなぜているけど、お母さんの顔も泣いているように僕には見えた。


 可哀そうに身体が弱いから、友達と遊べないんだな。


 そうだ。

 飴がまだあったから、これを〈サト〉ちゃんにあげよう。

 甘いものを食べたら、少しは楽しい気持ちになるかもしれない。


 僕が〈サト〉ちゃんの部屋に入ると、泣き疲れたのか、〈サト〉ちゃんはベッドの上にあお向けの状態で寝ていた。


 カーテンが閉じられていたため、部屋の中は薄暗かったのだが、〈サト〉ちゃんのお腹がぼんやりと光っている。


 はぁー、どうしてお腹が光っているんだ。


 ここは異世界だから、〈サト〉ちゃんはほたるの獣人だったのか。


 いやいや、そんなバカな、蛍は獣じゃない昆虫だよ。


 〈サト〉ちゃんに近づいてみると、〈サト〉ちゃんのお腹の中に、蝶々結びで結ばれた光るヒモが存在している。

 すごく不思議な事であります。


 お腹の中に光るヒモがあって、僕がなぜそれを見ることが出来るのだろう。

 変な夢を見ているんじゃないのか、それとも僕がロリコンへと転落してしまい、少女のお腹を触る奇怪きっかいな理由を作ってしまったのだろうか。


 うーん、お腹に光るヒモがありましたので、お腹をフニフニと触りましたでは、誰も納得しないし、犯罪者へ一直線だな。


 でもだ。


 あのお腹の中の蝶々結びを、どうしてもほどきたい。

 解けば、すごくスッキリしそうなんだよ、心の奥がムズムズしてしまう。


 言っておくけど、股間じゃないぞ。


 ちょっとだけなら良いだろう。

 ちょっとだけなら、犯罪じゃないはずだ。

 三秒だけなら、触っていないのと何の代わりも、あるはずがあるもんか。


 僕は〈サト〉ちゃんのお腹の中に手を突っ込んで、光っている蝶々結びをグィッと引っ張った。

 お腹の中に手を突っ込めるはずがないから、たぶんそう見えただけだと思う。


 「あっ、いやっ。うぅーん。あぁん、らぁめ、もうやめてー」


 〈サト〉ちゃんが少女らしからぬ色っぽい声を出して、目覚めたようだ。


 真っ赤に染まった顔で、僕をジトッと見詰めている。

 やべぇ、僕が触ったのがバレている感じだ。


 「あははっ、〈サト〉ちゃん、飴食べる」


 僕は慌ててポケットの中の飴を、〈サト〉ちゃんへ差し出した。

 頼みます、これで誤魔化ごまかされてください。


 「〈ゆいと〉お兄ちゃん、〈サト〉にエッチなことをしたでしょう」


 わあぁぁぁ、酷いよ、〈サト〉ちゃん。

 エッチなことじゃなくて、お腹の中のヒモを解いただけだよ。


 「えっ、そんなこと絶対にしていないよ」


 「ふぅーん、そう言うことにしておいてあげる。 すごく気持ちが良かったし、身体がすごく楽になったから、誰にも言わないであげるね。 ふふっ」


 〈サト〉ちゃんが、悪女の様に薄く笑っているけど、約束を破らないことをお兄ちゃんは信じているからね。


 きっとだよ。


 お兄ちゃんは、異世界の牢屋ろうやは経験したくないんだ、たぶん衛生環境が劣悪れつあくだと思うんだ。

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