第2話 女の子
「お嬢さん、僕は怪しいものじゃありません。 幼女好きでも、もちろんないのです」
んー、幼女好きは言わなくても良かったな。
大人の女性が、好きだと言っておくべきだったか。
「…… 」
女の子は立ち止まったまま、じっと無言を
こんな森の中で、知らない人に出会ったら、それは警戒するよな。
僕だから警戒しているとは、思いたくない。
「そうだ。
〈すごく甘いよ〉という言い方が、自分ながらかなり怪しいヤツだな。
幼児専門の犯罪者が言いそうなことだよ。
「くれるの」
おぉー、反応してくれたぞ。
この飴は、隣のちょっとボケ始めたお婆ちゃんが、毎朝、待ち構えたように僕へ押し付けてくれるんだけど。
僕は正直〈嫌だな〉と思っていたんだが、今となっては感謝しかない。
ありがとう、〈れいこ〉お婆ちゃん。
「もちろん、あげるよ。 三個あるんだ」
女の子はトコトコって感じで近づいてきて、僕の手の平から飴をそっと一粒摘まんだ。
三個全部取らないのが、何ともいじらしいな。
「本当に食べて良い」
もう手に持っているのに、〈今さら聞くなよ〉とは言わない。
この子と仲良くなって、この後の展開を有利に進める必要があるんだ。
ゲームでもそうだろう。
それに言葉が通じるんだな。
嘘みたいだけど、お手軽すぎて、何ともバカみたいじゃん。
「うん、食べて良いよ」
「うわぁ、あまーい」
女の子は目を見開いて、甘さに吃驚しているようだ。
この世界は、砂糖とか甘い物があまり流通していない想定なんだな。
それにしても近くで見ると、この子は吃驚するくらい可愛いな。
こんな可愛い子が、一人切りでいるなんて、危なすぎるぞ。
僕だから良かったものの、変質者と出会ったらどうするつもりなんだ、育児放棄している親の顔が見て見たいよ。
「お嬢ちゃん、お兄ちゃんは
「ふふっ、大きいのに迷子なんだ。 情けないな。 良いよ、〈サト〉が案内してあげる」
飴と僕を
僕の勘は大したものだけど、町じゃなくて村だったんだな。
ポツポツと平屋の家が建っているだけで、少しテンションが下がってくるな。
畑ばっかりで、簡単な木の
失礼な事を考えてしまったけど、始まりの村ってことで重要な場所の可能性もある。
女の子は、畑で作業していたおばさんに声をかけたぞ。
このおばさんも、かなり大きいお尻をお持ちだけど、きっとこの子のお母さんなんだろう。
「〈サト〉、悪い子ね。 家から出たらいけないと、あれほど言ったでしょう」
お母さんは一人で外へ行ったから、カンカンに怒っているけど、幼い女の子なんだから怒られるのは当たり前だ。
「お母さん、ごめんなさい。 でも、ずっと家の中にいるのは嫌だったの」
「嫌でもダメなものは、ダメよ。 〈サト〉も分かっているでしょう」
女の子は結構強情だな。
不満そうにお母さんへ反論しているぞ。
幼くても女の子は、口が立つからな。
僕の妹も同じだ。
僕の事を明らかにバカにした口調で、舐め切った反応をされるから、お兄ちゃんとしては悲しくて嫌になっちゃうよ。
「あなたは誰ですか」
お母さんが明らかに警戒した口調で、僕へ問いかけてきた。
それはそうだろうし、僕も望むところではあるけど、どう言ったもんだろう。
「お兄ちゃんは、〈サト〉に飴をくれたんだよ」
僕が悩んでいるうちに、女の子が良いアシストを決めてくれて、大変ありがたい。
「まあ、そうですの。 ありがとうございます」
話しやすくなったから、本当に良い子だよ。
「いえいえ、大した物じゃありません。 僕は〈唯人(ゆいと)〉と言います。 それと、ここはどこだが教えてください」
現在地の把握は重要だよな。
「ここは〈ジョンガ村〉です。 タリメ教皇国(きょうこうこく)の西の外れにあります」
全く現在地の把握は出来なかった。
全くこの世界の地理を知らないのに、僕の考えが根底からバカでした。
「タリメ教皇国、〈ジョンガ村〉? 」
「〈ゆいと〉さん、あなたは〈神隠し〉にあったのですか」
〈神隠し〉ってあれか、村とかで人が
人智(じんち)を超えた現象だから、神が
「そうです。 お母さんの言う通りです。 僕は大変困っているのです」
「やっぱり。 〈ゆいと〉さんの着ている服は、とても上等の物ですから、きっとどこかの国の貴族様か、大商人のお子様なんでしょうね」
「えぇっと、父は東京都国立で
「まあ、私は学がないので分からないのですが、お父様は〈トキョト国〉でお商売をされているのですね。」
かなり違うのだけど、父親は小さな青果商の単なるサラリーマンで、毎日こき使われてヒィヒィ言っているだけだ。
「えぇ、七千人分もの果物を、毎月売り買いしていると言っていました」
「うわぁ、月に七千人ですか。 信じられない人数です。 それで、上等の服が着られるのですね」
この世界の人口は、文明の発達がそれほどでもないので、人口がかなり少ないんだな。
「お母さん、まだ。 〈サト〉はちょっと疲れたよ」
「あっ、ごめん。 直ぐ家に帰りましょう。 汚いから申し分け無いのですが、〈ゆいと〉さんもお困りでしょうから、一緒に来られますか」
「えぇ、よろしくお願いします」
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