第20話 私に抱きつこうとした皇太子の髪の毛を燃やしてやりました

そんな私も15歳になった。

学園に入学する歳だ。

私は学園に入っても仕方がないので、適当に誤魔化そうとしていたのだ。

だって勉強はもう終わっているし、おそらく私に魔術を教えられる先生なんて学園にはいない。

今後、貴族として生きていくつもりもないので、コネとかも作る必要はないのだ。

何よりも学園には皇太子がいる。まあ、私は皇太子の婚約者にならなかったから断罪はないとは思うが、ゲーム補正とかが起こって断罪されたらたまったものではない。

学園には絶対に行くつもりがなかったのだ。



しかし、だ。


「お嬢様。旦那様から書面が届きました」

持ってこなくてもいいのに、執事のダニーが父からの書面を持ってきた。


「えっ、お父様から?」

私は嫌そうな顔をしていたと思う。

今までほとんど連絡もしてこなかったのに、連絡してくるなど碌なことではないはずだ。

私は書面を開けてみて、想像通り、碌でもない事が書かれている書面を読んだ。


「最悪よ」

私はダニーに書類を投げ返した。

「何と書かれておりました?」

「学園に通えですって」

ダニーの質問に私はうんざりして答えた。


「それはよろしうございました。お嬢様は公爵家のご令嬢でございます。今後、どのような世界で、生きていかれるにしても、貴族のつてを作っておくのは大切でございます」

ダニーは胡散臭い笑みを浮かべて言ってくれた。

「それに出来ましたらお嬢様にはこの公爵家を継いでいただければ、公爵家は安泰でございますから」

ダニーは今度は不敵な笑みを浮かべてくれるんだけど。


どのみちダニーは私が領主になれば魔物退治の費用が、少なくなるからその分を領地の運営等に回せると思っているのだ。私は領地専属の魔術師になるために領主になんかなりたくない。

それよりは世界を股にかけて皆の役に立ちたいのだ。


まあでも、まだ15歳だ。この国の成人年齢は18歳だ。まだ、自分の自由にできる年ではないのだ。

私は仕方無しに学園に通うことにした。




私はいやいや学園に通い出した。


貴族社会は領地と違って本当に面倒くさかった。


貴族言葉で話さないといけないし、女同士のいがみ合いとか、マウントの取り合いとか本当に最悪だった。


まあ、私は公爵令嬢で基本的にはそんなとは無関係と思っていた。


でも、そこには皇弟の息子のハルムントがいたのだ。


クラスの令嬢の面々は早速ハルムント目指して群がった。


私は馬鹿らしくて全く無視していた。


でも、それが、却ってハルムントの興味を引いたようだった。


「キャロライン。たまには食事でもいかがですか」

「お断りします」

私はハムルントの誘いをにべもなく断ったのだ。


それを見てハルムントは唖然としていた。

「な、なんて不敬な!」

「あなた、殿下のお誘いを断るの?」

「たとえ公爵令嬢と言えども、許されないのではなくて」

取り巻きの令嬢たちがきっとして私を睨みつけてきたのだ。


「はっはっはっはっ」

それを見てハルムントが笑い出した。


「ごめん、ごめん、そうまであからさまに断られるとは思ってもいなかったよ」

ハルムントは首を振っていってくれた。

「私も、そこまで人気がないとはな」

そう言うと、

「でも、いつか必ず、こちらを振り向かせてみるから」

そう、小声でささやくとハルムントは去っていったのだ。二度とこちらを気にしなくて良いから! 私はそう言いたかった。


そんな時だ。私は皇太子のジークフリートから呼び出しを受けたのだ。

こちらは出来たハルムントと違って、最初は招待状を側近が持ってきた。


「忙しいので無理です」

私は側近にあっさりと断ったのだ。

「き、貴様は皇太子殿下のお誘いを断るのか」

伯爵家の嫡男が思わずそう言ってきた。

「ああら、そう言うあなたは伯爵令息よね。私、伯爵令息風情に貴様と言われる筋合いはないのですけれど」

私の言葉にその伯爵令息は青くなった。

「いや、私は皇太子殿下の側近であるからして」

「皇太子殿下の側近が公爵令嬢の私に貴様呼ばわりしてもいいの?」

私が睨みつけると

「も、申し訳ありませんでした」

そう言って謝ると伯爵令息は飛んでいった。

「上が女たらしなら、下はしたでどうしようもない無能ね」

私は一人ごとをのたまった。

「お嬢様。あの様に追い返して言ってよかったのですか?」

「だって面倒なんですもの。皇太子殿下はいろんな女を侍らせて喜んでいるそうだわ。そんな相手をするくらいなら、私は訓練室で魔術の練習をした方がましよ」

エイミーの苦言に私は笑って答えたのだ。

でも、私はもっと適当に相手をしておけばよかったと後で後悔したのだ。


その日の放課後に帰ろうとして歩いている所に皇太子がやってきたのだ。

「き、貴様がキャロラインか」

私を見つけるなりジークフリートが私を指さして叫んできた。


初めて実物を見たが、確かにゲームの主人公になるように見た目は麗しかった。

最も皇弟の息子のほうが人間としては出来ているようだったが……


「はい、皇太子殿下。キャロライン・オールドリッチでございます」

一応頭を下げた私を褒めてあげたい。


「ふんっ、俺からの呼び出しを断るなどどれだけあばずれ女かと見れば、まともな顔をしておるではないか」

笑ってジークフリートが言ってきた。

私はうんざりした。とさか頭の女たらしとあんまり話している時間はないのだ。

「どうも、ありがとうございます」

そう言うと、私は帰ろうとしたのだ。


「待て! どこに行こうというのだ」

ジークフリートは私の手を掴んでくれたのだ。

このキャロライン様の手をだ。

この瞬間燃やさなかった私は褒められてしかるべきだ。


「殿下。お離しください。未婚の女性の手に触れるなどどういうつもりですか」

私は自分の感情を辛うじて隠して言った。

本来ならば振り払っても良かったのだが、ここは我慢したのだ。


「何を格好をつけて言っているのだ。ニーナによると領地では遊び歩いていたそうではないか」

下ひた笑いをして、皇太子は言ってくれた。


あの女、何を皇太子に言ってくれているのよ。私が外に出歩いていたのは魔術の訓練とかダンジョンに潜るためで、男遊びをするためではないわよ。

私は余程叫びたかった。


「その様に遊び歩いているのならば、俺の第二夫人としてやろう。将来帝国の第二夫人になるのだ。名誉なことだろう」

私はこのバカが何を言っているのか全く判らなかった。同じ公爵家から第一夫人と第二夫人を出すなど聞いたこともないではないか。派閥の関係等考えて、第二夫人は別勢力、あるいは他国から娶るのが基本だろう。この皇太子は本当に馬鹿なのか?


私の唖然とした表情を見て皇太子は勘違いしたようだ。


「ニーナはあれはあれで可愛いのだが、なかなか、書類仕事が出来なくてな。教師によるとその方は頭の方も優秀だそうではないか。俺の第二夫人ともなれば夜な夜な可愛がってくれようぞ」

そう言って皇太子は私を抱き寄せようとしてくれたのだ。


私の我慢の限界だった。


私は皇太子の頭の髪の毛を次の瞬間燃やしたのだ。

「ギャーーーー」

皇太子の絶叫が響いた。

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