第9話 大司教視点2 厄災女は全然謝りに来ないので、罠を張って待つことにしました

傭兵バスターズの面々を大司教名で破門した。

まあ、端役の面々は問題ないかもしれないが、公爵令嬢だった厄災女のキャロライン・オールドリッチ公爵家令嬢は困るだろうと俺は思ったのだ。


「助けて下さい、大司教様!」

と涙ながらに謝りにくれば許してやろうと思っていたのに、待てど暮らせど許してほしいと接触しては来ない。


いい加減にしびれを切らして、帝国のオールドリッチ家に娘の破門の件を伝えたら

「娘は勘当しているから、我が公爵家とは何のつながりもない。その件で連絡いただくのはやめて頂きたい」

と慇懃無礼な返事が返ってきた。


傭兵バスターズは我が方の聖騎士団と衛士に対しての攻撃とフィンズベリー司祭の殺人犯として手配した元剣聖、セドリック・バースを匿った罪で、全員の破門した。

聖教会の敵と全世界の教会に手配書を張り出したのだ。

当然聖教会の敵を使うような者はいまい。


仕事がなくなれば、当然困るのはバスターズの面々だ。

セドリックの身柄を我々の所に引き渡して、泣きついてくると思ったのに、こちらも全く音沙汰がなかった。


何でも、教会の情報網で色々調べたところでは、傭兵バスターズは金の亡者の集まりで、依頼主の財産の半額を窃取しているので、少しくらい仕事がなくても十二分に生きていけるらしい。


これでは埒が明かない。


セドリックが生きていると今後何かと不都合だ。


聖騎士団の面々は既に金で抑え込んだ。

言うことを聞かない面々は地方に左遷した。

後はセドリックを処分すれば終わりなのだ。


俺はもったいないとは思ったが、セドリックの首に懸賞金として金貨千枚をつけたのだ。

情報提供者には金貨1枚だ。生死は問わないと書いたが、基本、殺してくれたほうが手間が省けて良い。


しかし、セドリックの方もなかなか情報さえ入って来なかった。

情報部の奴らが言うには懸賞金が安すぎるというのだが、あのセドリックにそれ以上の懸賞金を払う道理がない。情報部こそもっと働けと俺は叱責してやったのだ。

しかし、叱責しても事が済むわけではない。


仕方無しに、俺は次の手を考えた。


フィンズベリーの家族を捉えて、魔女裁判にかけることにしたのだ。

元々セドリックがフィンズベリーを殺したのは、教会の横領の件で金の按分のいざこざが原因としていたのだ。


ついでに二人を不信心で魔王を信じる悪魔の一族の末裔ということにして、フインズベリー司祭の家族をひっ捕らえて、魔女裁判にかけることにしたのだ。

セドリックは正義感が強いと報告を受けていたので、自分の失態からフィンズベリーが殺されたことには自責の念があるはずだ。ここで家族も処刑するとすれば、絶対に助けに来るはずだ。


傭兵バスターズの面々もセドリックと一緒に現れれば、一緒に捕らえれば良い。

まあ、捕らえずとも殺しせば良いのだ。大聖堂にする聖騎士団で十分に対応できるだろうと俺は思ったのだ。


俺は早速、騎士の一部をフィンズベリーの家族捕縛に向かわせた。

俺も捕まえた家族の顔を確認すると息子はどうでも良かったが、その家内と娘は結構きれいだった。

事が終われば秘密の地下牢に監禁しても良いかもしれない。


俺は泣き叫んで助けを求める母娘の顔を思い描いて、ほくそ笑んだ。


しかし、その前にセドリックと傭兵バスターズだ。

襲撃の可能性があるから聖騎士団に警備体制の強化を命じたのだが、新しい騎士団長は難色を示してくれた。

「大司教様。傭兵バスターズの厄災女は大魔術師です。それに元剣聖が加わわれば、下手したら我が聖騎士団は全滅する可能性があります」

俺はそう言う騎士団長を白い目で見た。


「騎士団長。何を言うのです。相手は魔王を信じる異端者です。当然女神様のご加護があるあなた達聖騎士団が勝つに決まっているでしょう」

俺はこう言ってやったのに、


「大司教様。我が聖教会の大義名分はたしかにそうでしょうが、奴らは常識が通用いたしません。最悪、我らが殲滅されれば大司教様といえども奴らに殺られる可能性もあります」

そこまで騎士団長が言い張るのでさすがの俺様も放っておくわけにはいかなかった。


仕方がない。聖教会の持っている戦闘用飛行船を4隻を警備に呼び寄せるついでに、各地から聖騎士を集めさせると同時に、傭兵ギルドから魔術師も10名ほど借り受けた。

これで、通常よりも騎士の数は倍になった。いくら何でも取り逃すことにはなるまい。

俺がそう言うと、それでも騎士団長は不安そうにしていた。


「貴様が出来ないというのならば他のものにでもやらせようか」

俺がしびれをきらせて言うと

「いえ、判りました。その戦力で対処させて頂きます」

騎士団長はやっと頷いたのだ。

本当に金だけ使わせよってからに! 魔術師の支払いの一部は騎士団長の給与から引いてやろう。俺はそう思いついたのだ。


「そうだ。騎士団長。出来たら厄災女は生きたまま捕まえよ」

俺は騎士団長についでに命じたのだ。


「えっ!」

騎士団長が困惑した顔で俺を見てきた。


「なんだ、出来ないのか?」

俺が不満そうに聞くと


「善処します」

そう言って騎士団長は慌てて出て行った。


俺はその態度が許せなかった。


まあ、騎士団長の替えはいくらでもいるのだ。流石に剣聖をすぐに作ることは出来ずに、とりあえず、副騎士団長だった男を騎士団長にしただけだ。役立たずの騎士団長は閑職にやって、若手で役に立ちそうな者をこの件が終わったら騎士団長の任に就かせてやろう。

俺は心に決めた。


フィンズベリーの母娘と厄災女、この3人を秘密の地下牢に縛って転がせば、3人共命乞いをしてくるだろう。

それをいたぶってやるのも楽しみだ。


「はっはっはっはっ、厄災女め。俺様に逆らったことを心の底から後悔させてやるわ」

俺は高笑いが止まらなくなった。

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