第8話 傭兵バスターズの設立の目的はなんと伝説の魔王退治でした

それから俺は大変だった。

厄災女の悲鳴を聞いて皆飛んできたのだ。


そして、激怒している厄災女と張り倒された俺を見て、エイミーは

「信じられない。寝ていたお嬢様を襲うなんて」

けだものを見るような目で俺を見てくれた。


「いや違う、俺は寝込みを襲ったりしない」

「でも、私の手を掴んでいたじゃない」

俺の言い訳に興奮した厄災女が叫んできて、俺はますます窮地に追いやられた。


「いや、それはお前が手を出して来たから掴んだだけで」

「そんな訳ないでしょ」

「いや、事実だって」


俺は必死に言い訳したが、結局言い訳はだれ一人信じてもらえず、顰蹙をかって女二人からは最低のゲス野郎の称号をもらった。

「セド、いくらお嬢がきれいだからって寝込みを襲うのは良くないぞ」

「それも謝りに行ったくせに」

男連中からも呆れられ、


「無理矢理はいけませんな」

優しいダニーですら軽蔑してくれた。


「でもセドは幸運だったな、生きていて! 前にお嬢に夜這いかけた男は雷撃食らって丸焦げになっていたからな」

トムが物騒な事を言ってくれたが、誰が好き好んで厄災女のキャロラインを襲ったりするものか!

俺は心の中で叫んでいた。


俺は二度と寝ている女の部屋には入らないようにしようと心に誓ったのだ。



それからしばらく俺は針の筵の上だった。

元々エイミーは俺を汚物のように見てくれていたのが、さらに酷くなったし、厄災女の俺に対する当りも更にきついものになった。


「ほら、下僕、ゴミが落ちているわよ」

そう言ってゴミを拾わせたり、目の前にゴミをわざと落としてくれるのだ。


「おい、今お前が落としただろうが」

「酷い、私を襲おうとしたくせに」

「だから襲っていないっ、お前が寝言で苦しんで手を出して来たから握ってやっただけで」

俺が言い訳したら

「何言っているのよ! そんな下手な言い訳しないで」

厄災女が叫んできた。

「言い訳じゃない! 『白馬の騎士様』ってなんだ?」

「いや、それは何でもいいでしょ」

俺がそう聞くと、厄災女は目に見えて狼狽した。

こんなに狼狽した厄災女は始めて見た。


「お前の好きな奴なのか?」

「な、何を言うのよ。そんな訳ないでしょ」

「でも、手を伸ばして、『白馬の騎士様、助けてくれてありがとう』って泣いていたぞ」

「嘘つかないでよ! そんな訳ないでしょ」

俺の言葉に厄災女はきっとして噛みつかんばかりに俺を睨みつけて来たのだ。


「余計なこと言っていないでここをさっさと掃除して」

そう怒ると、厄災女はスタスタと去って行ったのだ。



「ほっほっほっほっ」

後ろからダニーの笑い声が聞こえてきた。

「相も変わらず、セドはお嬢様と仲が宜しいですな」

「どう見て仲が良いというんだよ!」

ダニーの言葉に俺が噛みつくと


「お嬢様が素の自分を見せる事はほとんどないのでずか、セドには良く見せているではないですか」

「そうか?」

俺はダニーに言われても良く判らなかった。


「それよりもあいつの言う『白馬の騎士様』ってなんだ?」

「『白馬の騎士様』?」

少しダニーは考えていたみたいだが、

「昔、お嬢様が小さかった頃、領地にいらっしゃった時に、その村が魔物の群れに襲われたことがあるそうなのです。私は丁度その時はお嬢様の傍におりませんで、お役に立てなかったのですが。その時に白い鎧を着た騎士に助けてもらったそうで、それがお嬢様には白馬に乗った騎士に見えたのではないですかな」

ダニーが教えてくれた。


「ああ、なんか俺も昔聞いたことがあるぞ。どこかの女の子が『白馬に乗った王子様が私を向かえに来てくれるの』っていうやつだろ」

誰だったかは忘れたが……

「それで鎧を着た俺が白馬の王子様に見えたってわけか」

俺はやっと納得がいった。

「ほおーーーー。お嬢様はセドが白馬の騎士様に見えたと」

俺を生温かい目でダニーは見てくれるんだけど、


「鎧を着たら皆同じに見えるからな」

俺は一顧だにせずに言った。

「キャロラインは変なところで少女趣味なんだな」

俺は呆れていった。

「少女趣味とはなんですかな?」

ダニーが聞いてきた。この世界ではないのか? そうか、ダニーが年寄りで知らないだけなのか

「ロマンチストということだよ」

「まあ、左様ですな。お嬢様はロマンチストでしょうな。でないとこんな傭兵団を率いてなどいらっしゃいませんからな」

ダニーが言ってくれた。


「お嬢様がこの傭兵団を率いている目的ってなんなんだ?」

俺は思わず聞いていた。

「何でもいずれ現れる魔王を退治するためだそうですよ」

「魔王を退治するため?」

俺は唖然とした。魔王なんて伝説上の人物じゃないか。何でも太古にこの世界を支配したっていう魔物の王様だ。

まあ、この世界がゲームの世界だったら可能性はない話ではないが、公爵家のお嬢様が目的にすることではないような気がした。


「まあ、我々には信じられませんが、お嬢様は信じていらっしゃるようで」

笑ってダニーが言ってくれた。

魔王の復活を信じているお嬢様と使用人たちか……


俺は少し頭が痛くなってきた。


悪魔のように怖れられているこの傭兵バスターズの設立の目的が伝説の魔王を退治するためだって誰が信じるんだよ。


そう俺が思った時だ。


「大変だ。大司教の野郎、フィンズベリー司祭の家族を捉えて、魔女裁判にかけるそうだぞ」

そこにトムが飛び込んできたのだ。

「何だと、魔女裁判だと。そんなの滅多にやらないだろうが」

教会が自分の権威を確立するための生贄裁判だ。大司教の野郎、自分が都合が悪くなったからってそれで誤魔化すつもりか。


「直ちに皆を集めて、作戦会議よ」

向こうからやってきた厄災女がダニーに命じていた。



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