第7話 厄災女が変なので謝りがてら様子を見に行ったら、寝言を言って手を伸ばして来たので掴んだら、思いっきり張り倒されました

それから、俺達は馬車で飛行船の隠してある森まで帰った。


飛行船『アマテラス』号は森の中に魔術で偽装して隠してあった。

『アマテラス』という名前は気になるが、東方の国の神話から取ったらしい。やっぱりこの世界は前世のゲームの世界なんだろうか?


『アマテラス』号の現在の乗員は6名。俺と厄災女に執事のダニー、侍女のエイミー、機関士のリックに会計士のトムだ。

ダニーは60を超えているし、リックとトムは40前後だ。

エイミーと厄災女は30前後か。

28の俺が一番若いはずだ。


そして、驚いたことに、馬車の中でも厄災女は静かだったが、なんと食事時にも食堂に来なかったのだ。あの食い意地の張った厄災女が食事時に顔を出さないなど信じられなかった。


「セド、買い出しに行った時にお前がお嬢に何かしたのか?」

トムが聞いてきた。

「なにかされたのは俺だろう! 俺が顔を腫らして帰ってきたんだぞ」

俺がムッとして言い返すが、

「お嬢は悪くもないのに、頬を引っ叩いたりしないぞ。お前がよほど酷いことをしたんじゃないのか?」

逆にトムに言われる始末だ。


「俺はそんな酷いことはしていないぞ!」

「この変態男がお嬢様をビッチと言ったのよ」

エイミーがいきなり言ってくれた。


「な、何だと!」

「お前、お嬢にそんな酷いことを言ったのか!」

「セド、流石にそれは酷いのではないですか!」

エイミーの言葉に男連中が皆で俺を非難してきた。


「いや、俺はそんな事は言っていないぞ」

俺は否定したが、

「生娘ではないってお嬢様に向かって言ったでしょ」

エイミーの言葉に全員唖然として俺を見てきた。


「なんて、鬼畜なことを」

「セド、お前、それは最悪だな」

「お嬢様は大人びていらっしゃいますが、まだ20になったところなんですよ。おそらく男と女が何をするかなんてご存じないのに……。よくそんな酷いことが言えましたね」

男たちがまじで怒って俺を睨みつけてくれた。


「えっ、あいつまだ、20歳なの」

俺は驚いた。この傭兵バスターズのボスだし、俺に対してもとてもふてぶてしい態度だったから、俺はてっきり30近い年齢だと思っていたのだ。

俺より8歳も若いとか、信じられなかった。


「お前はそんな年下の純情な子にその言葉は酷くないか」

トムが更に言ってくれるんだが、


「どこが純情なんだ」

トムの言葉に俺が文句を言うと、

「お嬢は背伸びしているんだよ。男の傭兵団の中で生きてきたからな」

「どう見てもこの中でお嬢が一番純情だろう」

トムとリックが言ってくれた。この二人は完全に厄災女の味方だった。


「そんなお嬢様にビッチだなんて言うなんて」

「俺は言っていない」

「変わらないことを言っていたじゃない」

俺は皆に集中砲火を浴びてしまった。完全に四面楚歌というやつだ。

さすがボスなだけあって厄災女はチーム内では人気が高い。


そんな純情なお嬢様に酷いこと言うなんて最低だ、と皆に白い目で見られて、俺は仕方無しに、謝りに行かされることになったのだ。


まさか、あいつが20だとは思わなかった。確かにそれなら俺の言葉に少しは傷ついて……いや、あいつが傷つくなんて絶対に嘘だ! 俺の眼の前で紙をわざと落として拾わせたキャロラインを思い出していた。あんな酷いことが出来るのだから絶対に純情なふりをしているだけに違いない。


そう俺は心に思いつつ、何故か手にはダニーから渡された一輪の薔薇を持たされて、どこからダニーがバラを持ってきたかは不明だったが、俺はキャロラインの部屋に向かった。



俺は悪名高い『傭兵バスターズ』のボス、キャロラインの噂について思い出していた。


キャロライン・オールドリッチ元公爵令嬢、帝国のオールドリッチ公爵家の前妻の娘。実母が幼くして死んだ後はその後妻にブランカ王国の王女が輿入れしてきて、その継母と折り合いが悪くて、家を出てこの傭兵団を作ったと噂されていた。


傭兵団を作るくらいだからとても気の強い我儘令嬢だとも……

あった感想もそのとおりだった。


どこに純情そうな女の子がいるのだ? 俺の目には全くそうは見えなかった。彼奴等が騙されているのだ。


まあ、確かに帰りの馬車の中では、物想いにふけってどこか昔を思い出すような遠い目をしていたが、あれはパフォーマンスに違いない。


そもそも、生娘ではないと俺が叫んだ時は怒って俺の頬を引っ叩いてきたが、そのときはとても元気だったのだ。

それが食事が食べられないほどショックを受けるなんて考えられない。


「あの場は明るく振る舞っていらっしゃいましたが、お嬢様は子供心にとても傷つかれたのです」

とまで、エイミーが言ってくれたが、また良からぬことを企んでいるのではないか?


俺はそう、疑っていたのだ。


しかし、キャロラインの部屋の前に行くと、いつもは真っ先に食べ終わる食事の盆が何も食べずにそのまま置かれたままになっていた。


飯を食えないほどのショックだったのか?

いつもは大口を開けて食べていたのに!


さすがの鋼鉄の面の皮を被った俺の心も少し痛んだ。


ちょっと言い過ぎたかなと反省したのだ。


でも、なんて話そう?

こう見えても俺もあんまり女の子と話した経験なんてない。

孤児院で喧嘩して、女の子に謝ったこともあったが、はるか昔の話だ。

流石に20の女に小さな女の子にするように謝るのはおかしいだろう。それなりのやり方があるはずだ。

しかし、剣聖になってからは女どもに追われた経験はあったが、女たちに付き合うとうざいという感覚もあって女と真剣に付き合ったことなんてなかったのだ。


どう声をかけていいか判らなかった。


どうしたものかと俺はキャロラインの部屋の前で腕を組んで考えたが、良い案は思いつかなかった。


もう、こうなったら、仕方がない。当たって砕けろだ!


どのみち今も女王様と下僕の関係だし、これ以上悪くなることもないだろう。


トントン


俺は思い切ってノックをしたのだ。


しかし、返事はなかった。


もう一回する……


やはり返事はない。


どうしよう?


俺はとりあえず、ダメ元でドアノブを回してみた。


すると開いたのだ。


許しもなく令嬢の部屋に入ってはいけないのだが、俺はキャロラインのことが気になっていたので、ドアをすうーっと開けて中を見た。


そこにはベッドに横になったキャロラインが寝巻き姿で布団を蹴飛ばして寝ていた。


こんなところを周りにも見られたら、また何を言われるかわからないし、俺はすぐに立ち去ろうとした。



「……て!」

でも、その時、キャロラインの口から何かかすれた声がした。


「えっ?」

俺は仕方無しに、聞き返した。

仕方無しに近づく。


「助けて!」

今度はちゃんと聞こえた。


キャロラインは夢でも見ているのか助けを求めていたのだ。


「えっ?」

そして、手を俺の方に伸ばしてきたのだ。


俺は眼の前に手が出てきたので、思わず掴んでやったのだ。


「白馬の騎士様!」

俺は昼間のように、また、キャロラインの口から同じ言葉を聞いたのだ。


「白馬の騎士様ってなんだ?」

俺が聞き返すと、その声に呼応するようにキャロラインが目を開けたのだ。


「それはって、何?」

「えっ?」

その瞬間俺達二人は目を合わせたのだ。


そして、キャロラインは自分が寝間着なのと俺がキャロラインの手を握っているのを見ると


「キャーーーー」

いきなり大音声で悲鳴を上げてくれたのだ。


「えっ、いや、これはお前が手を出し……」

俺は必死に言い訳しようとしたのだ。


「変態! 何してくれるのよ」

しかしその前に、キャロラインの張り手が俺の頬を直撃して、俺は張り飛ばされたのだった。

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ここまで読んで頂いてありがとうございます。

張り飛ばされたセドの運命は?

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