第16話 パリィスキル

槍に手をかけるが、やはり抜けることは無かった。

当然と言えばその通り。

だが僅かにぐらぐらと揺れたのをアレクは目視する。


「成程な。頑張れば抜けるやもしれないけれど、それをこの槍自体が拒んでいると言った所か」


───ならば次だ。


アレクはすぐに辺りを散策して鉄の槍等が落ちていないかを確認する。

すると案外大量に見つかった。


その中でもかなり頑丈そうなソレをアレクは拾い上げた。

何に使うのかと言われれば、避雷針代わりに使うとしか言えないのだが。


風に関しては鎧を着込む事で最小限に抑えれる。

だが雷をどうするか?ランダム性を持ち、接近を拒む雷をどうにかしないと行けない。

だから雷を誘導するための避雷針を設置することにしたのだ。


最もその避雷針程度であれば風で簡単に破壊されてしまうだろう。そうでなくとも何度も当たれば溶けてしまうかもしれない。


だがそれでも構わない。

なぜなら俺は今回の勝負で勝つつもりは無いからだ。

雷のランダム性を消して、風による継続ダメージを無力化したとして……それはあくまでも環境を自分のやりやすい形に変えているだけであり、そしてその準備程度あの竜の尻尾の一振で全てご破算になる程度のちっぽけな話である。


「まあ、まずは相手の動きを全て識るところから始めないと話にならんからな」


100回程度で勝てるとはアレクは考えていない。

食料は無限に作り出せるし、アイテムも切れることは無い。

そして99回、まあ正確には99とその時に着込んだ防具の耐久値を合わせた回数までは負けでは無い。


「ではやるか」

「───じゃあないよ全く。……君途中から私がいること無視していなかったかな?私だって無視されるのは辛いんだよ?」


ここ数日構っていなかったせいか知らないが、フールが拗ねた表情で姿を現す。

俺は悪かった、と謝りながも……今回見るモーションを選別していた。


「いいかい、君は他の選択肢があることを知らなすぎるぞ!……彼女だって別に戦いをしたい訳じゃないと私は思う────」


───尻尾薙ぎ払い攻撃、あれは予備動作はあるのか?

───奴は口からブレス系の攻撃はしてこないのか?

───爪を使った攻撃をしてくる可能性は?


多分だが、あいつの懐に入り込むと爪による攻撃をしてくるのでは無いのか?

だが爪はあまり脅威では無いかもしれないな。あまり発達していた訳ではなさそうだしな。


ならば次の防具の枚数はどこまで被せる?3枚……あれば足りるな。

……雷対策の槍はどうやって設置する?


投げるのか?ああ、それも有りか。わざわざ目の前でご丁寧に置くのではなくて……投げて攻撃している風に見せかけて避雷針として設置していく事にしよう。

しかしそれだけだとバレるかもしれん。

ならば〈愚者の矜恃〉を織り交ぜて、槍を槍で吹き飛ばしたりして撹乱するのも作戦のひとつにしてみるか。


「───聞いているのかっ!君は!!」


おっとどうやらまだ話している所だったようだ。


「すまないフール、俺は割とこんな感じの人間なのだ。夢中になると周りが見えない……やっぱりそこは異世界でも変わらないようでね……ごめんね」


「神様の話を聞かないとか、あまりにも不遜すぎるよ?まあ私は完璧で究極な偶像アイドルだからね☆許して差し上げよう!……ハッハッハ!偉大なるこの私に感謝するんだな!」


「神様らしいね。まあいい。ところで愚者のスキルは他には無いのか?必殺攻撃とか、パリィとかあればいいんだが……」


「パリィはあるぞ?でもあんまり使い心地が……」


「あるのか、ならば使う他ないな」


なんと、パリィがあるのか。それなら尚の事モーションの把握が重要になってくるな。


「それでやり方は?」

「あーえっとね、久しぶりに使うからちょつと待って……んーと……あ!コレコレ……そう、『弾く』って心の中で祈るとパリィが出来るんだよ。……でもこれハイリスクハイリターンの極みだよ?」


コイツがそういうということは、かなりのリスクがあるのかもしれない。


「……ちなみにどんなリスクが?」


俺は心配しながら尋ねた。すると。


「……パリィできないと30%分のダメージをくらう。しかも硬直して動けなくなるおまけ付き」


……三割、マジで?しかもミスするとデバフ付き?マ?


なるほど上手くいかないのだな。そう俺は呆れながらリターンを尋ねた。


「リターンは……30%分の割合ダメージ」


なるほど、リスクとリターンが同じか。

……ダメ押しに使うぐらいしか今の所使いようが無い。そんなふうに俺は思うのであった。










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