第15話 勝利をもぎ取る方法
知っているさ。
フールの言葉を寝る寸前まで聞いていたアレクは、静かにそう心の奥底で呟いた。
アレクは対話による勝利も選択肢のひとつに最初から入れていた。
だがそれは楽しくない。
戦いの中に勝利を見出したい。
そんな感情が常にアレクの頭の中には存在している。
そしてそれを実現するために自分の技術を高める必要がある事すら知っている。
アレクは前世やっていたゲームを思い出す。
そのゲームは失われた魂と失われたリングの欠片を探し求めるゲームだった。
そのジャンルは死にゲー。僅か三発で死にいたり、持ち物を全て失う通称鬼畜ゲーと言われるジャンルだ。
アレクの中の人は、そのゲームが好きだった。
特になにかの武器を極めて勝利するのではなく、あるもの全てを使って相手をねじ伏せるという戦い方をよく好んだ。
そのゲームには最強武器は山ほどあった。だが彼は全てを使って完全なる勝利を目指す事をよく行った。
「勝つことは誰にだって出来る。だが、完全に完璧に何もかもを無力化して勝つ事はかなり難しい」
そういう度に彼の周りの人間は"不可能"や"無理だろ"と侮る。
───無理?不可能?馬鹿?
はは……あのさ、ひとつ尋ねるが。だからなんだ?自分の趣味に勝手に文句を言うんじゃあない。
行ってるのは俺だぞ?それをこなしているのは俺だ。
プレイヤーは俺だ。操作をするのは、神様は俺だ。
対話による勝利?それが完全なる勝利だと言うのならばそう思うがいい。
それ自体は俺は否定などしない。だが、肯定はしない。
それは君にとっての勝ち方なのであって、"俺の勝ち方"では無い。それだけだ。
故に俺は対話等では勝利を選ばない。選ぶ意味を見出す前にまずは戦ってからだ。
無理ゲーに挑んでいる訳では無い、実際先程の戦いで既にダメージ自体は与えられた。
なので殺せる。ダメージが無いなら勝てないかもしれない。
だがダメージが出る。
それだけで殺せる。
倒せるのだから。
これはそう言う話なのだ。
静かに、虎視眈々とアレクは牙をとぐ。何度も、幾度の敗北を得ても……否、敗北ではないか。
届かない勝利を手に入れるために。その命を限り無く燃やすだけなのだ。
◇◇◇◇
「……風が邪魔だ。風をどうにかしないと、多段判定で死ぬ」
次の日の勝負では、5回攻撃を当てきれたアレク。しかしその後風の竜巻と雷に阻まれて勝利をもぎ取ることが出来なかった。
避ける方法がない訳では無いのだと、アレクは思ったが……だがどうやって?その疑問が常に頭に残る。
当たれば確実にこちらの
それをどうやって凌ぐべきだ?
アレクは再び考える。
風のダメージは鎧などで無効化出来ないのか?
そう考えたアレクは直ぐさま近くに落ちていたボロボロの鎧を纏う。
重くて少しカビ臭かったが、洞窟の中に落ちていたそれを装備して挑む。
「まずはこれで様子見だ」
◇◇◇
「なるほど、違ったか」
静かに反省の文言をフールに告げるアレク。
だが別に間違いではない事をアレクは理解した。
───だが問題があった。確かに風自体はある程度鎧を着ることで無力に出来たのだ。
しかし雷は鉄の鎧に当たる度に中で跳ねて余計なダメージを生み出してしまっていた。
……そして雷の熱により、腐食した鎧は風をうけて直ぐさま壊れてしまったのだ。
とはいえ、鎧自体は数を増やせる都合上なんとでも纏うことが可能だ。
だが時間がなかった。そんな余裕を見いだせる程嵐の古龍は甘くない。
なので予め鎧を数多くまとってみる。そうすることでマトリョシカのように戦えるかもしれない。そう考えたのだ。
果たして────。
「この勝負は流石に貰ったか」
妙な奢りと共に挑むアレク。
◇◇◇
「ダメだったか。まさかしっぽを使って攻撃してくるあれがあそこまで痛いとは」
何とか風域を超えることには成功した。しかし次の瞬間に尻尾を使った回転攻撃を受け、鎧ごと粉砕されてしまったのだ。
よく見ると鎧には耐久値が設定されており、その数は……【10】つまり10回までは1つの鎧で耐えられるということをアレクは理解する。
なので2つ重ねで20。3つ重ねて30。
とはいえ限界まで纏うと動く事が逆に不可能になる。それは困る。
なので動ける限界値を探すことにするアレク。
……駄目だ。4からは動作がにぶりすぎる。
なので3枚まで鎧はまとって良いことを理解するアレクなのであった。
そうして幾度と重ねた経験の果てに、ついにアレクは竜に明確なダメージを与えることに成功したのだった。
最も、そこまでの工程はあまりにも無駄が多く、隙も多く、それ故にここから勝ちに繋げるにはリスクがあるほどではあったのだが。
「……だが負けるイメージはしなくなってきた。そうだな、次は攻撃の方法について模索するとしよう」
◇◇◇
だが雷が痛い。そう、雷が痛いのだ。
鎧を革製のものに変えて、耐久値を5にする代わりに雷の与ダメを喰らわないようにしたのに、それでもなお雷があまりにもランダムかつ回避の邪魔だ。
……何か雷を防ぐ方法さえあれば…………ん?
そう言って俺は目の前、セーフティゾーンを形成していた槍を見た。
多分だがこの槍は"鉄"製だ。所々錆びているからな。
……使えないかコレ。
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