第14話 嵐の古龍との戦い②

 どういう事だ?まさか私のあれだけあったはずのHPの1%をこんな雑魚が持っていっただと?


 は……ははは……ありうる訳が無い。あってはならないはずだ。はずなんだがな?


 嵐の古龍オールティヌスは静かに獲物の品定めをするのであった。

 実に約500年振りの行動である。



 一方アレクも又すぐに相手の動きを観察するために武器を構え直す。

 先程蹴りを入れた際に自分がダメージを受けてしまったことを鑑みてアレクは武器による攻撃に切り替えることにしたのだ。


「……まずは様子見の一本!!」


 俺は直ぐにアイテムボックスから剣を取り出すと、それを下手したてに構えて投げつける。

 強化された俺の身体能力から繰り出されたアイテム投擲による攻撃。

 それを相手がどうやって対処するのかを確かめるためであった。


『──────ゴァァァァ!!』


 それを竜は叫ぶだけで壊した。

 即座に〈愚者の矜恃〉の効果による爆発が発生するが、やはりレベル差によりダメージは1%のままであった。


「……バケモン……だろ」


 まさか鳴き声だけで武器を破壊されるとは思わなかったので、俺は改めてコイツが正真正銘化け物である事を再認識した。


 再び俺はアイテムを取り出す。今度は属性ダメージを与えられるアイテムだ。


 しかしアイテムは着弾する前に風圧で砕かれてしまった。


『我を舐めるなよ小僧!!』


 そんな風に声が聞こえた気がした。そして次の瞬間、肉体が遥か彼方に吹き飛ばされた。

 そして空中に浮き上がった俺目掛けて竜は雷と雨と風のダメージをそれぞれ纏めて叩き込む。


「────ヤバっ!!」


 アレクはすぐに〈仕切り直し〉を発動し、事なきを得るのであった。


 ◇◇◇◇


 挑戦者が目の前から居なくなったことで、再びオールティヌスは考えをし直す必要を得た。


 先程のあの挑戦者、確かフールのやつが言っていたやつだな。

 奴は理屈は分からぬが、自分のあの膨大なHPを一つ削り取ったのだから……まぁ並大抵のやつでは無いのだろう。


 しかし奴の攻撃は所詮素人に毛が生えた程度。

 殆どが大振りかつ逃げ腰のままだったな?


 そこから鑑みるに奴は戦闘をそこまで行っていない、もしくは戦闘自体があまり得意では無いという可能性だ。

 ──ではなぜそんな奴に私のHPを削ることを許してしまったのだ?


 ────わからん。だが識る必要がある。それだけだ。


 古龍は久々に自分の命を削った男に静かに……でもないがかなり興味を抱いたのだった。


 ◇◇◇


「ダメージは与えられたね、流石は私の眷属だ。うんうん、顔が高いよ」


 そこは鼻だろうがとツッコミを入れたくもなったが、それを押し殺して静かに考え込むアレク。


 先程確かにダメージを与える事には成功したのだが、しかしあれははっきり言ってお話にならないと思ったのだ。


 あんな1%程度を削ったところで、相手に少なくともあの空間の支配権がある限りすぐに逆転されてしまいかねない。


 ……何とかしてあの風を止めないと、俺が近寄るだけで死んでしまう。

 というかそれに奴が気づいた瞬間に俺は負ける。


 ……つまりどうにかアイツに悟られ無いようにしなければ。

 多段ヒットで殺せることに気が付かせては行けない。ならどうする?


「……痩せ我慢って事か……」


 それしかない。食らっても食らっても、効いていないぜ!とアピールして風以外の選択肢を取らせる他ない。


 ……そういうと途端に逃げ腰のような気がしてしまう。

 だが回復アイテムを利用した戦法と併用すれば、かなりのダメージを受けきって行けるはずだ!


 とりあえずそう思うことにして、アレクは横になって目を閉じる。


 ◇◇◇◇


 その様子を横から眺めていたフールは、静かに笑う。


「やっぱり君は最高だよ。あの子に少なくとも死の可能性を示唆させれただけで交渉の択が生まれたのだから……ね」


 そう、別に戦いで相手を打ち負かす必要は無いのだ。

 そもそもフールは別に彼女を殺すつもりなど微塵もない。

 むしろ彼女と戦うことでアレクの強さを引き出せるのではないか?

 そう思っての行動だ。


「アレク、君は知らないかもしれないけどね?戦に置いては交渉することも勝ち筋のひとつなんだよ?」


 そう言ってゴロンと寝転ぶ。


 愚者はあくまでも最後に勝てばいいと知っている。

 負けてもなお、勝ちにする方法も山ほどあるということだって知っている。


「アレクが気がつくのは一体いつになるだろうねぇ」









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