第12話 嵐の古龍②
次の日の朝に、俺は目を覚ます。
久しぶりのゆっくりとした休日明けの気分で目を覚まし……、そして隣で双六をしている女と目が合った。
「やぁ、おはよう。我が眷属!気分はどうかね?それこそこんな美女様の隣で眠れたんだ。──さぞ気分よくなれただろうねぇ?」
邂逅一番に言うことかそれは。
まぁ気持ちよく寝れなかったかと言われると、それは違うか。
俺は仕方ないので素直に答える。
「そうだな。こんな美女と一緒に同衾するとは、まぁ夢にも思わなかったよ。──少なくとも前世の俺は女の子と話なんて────」
そこでふと、思い出した。
いつだったかフールが言っていた言葉を。
「全てのクラスメイトを殺す必要がある」
……一瞬、転生して直ぐに自分に話しかけてくれた優しいクラスメイトの事を思い出した。
が彼女も別に俺を追いかけてきてくれたり、反論してくれたりはしなかった。
じゃあいいか別に。
「何か言うことでもあるのかな?眷属ぅ?」
ねっとりとした言い方でわざと煽るように尋ねるフールを俺は見る。
「────はぁ。いや、気にすることでは無いよ。俺はただ全てを使って【世界】を分からせるだけだからな。それ以外ははっきり言って茶番だなぁと ね」
「茶番?まぁ確かに茶番か。──彼らクラスメイトは実に哀れだと思うけどねぇ私は」
「それに関しては概ね同意だ。世界から授けられた力だけでイキることだけは、俺はしたくない」
「なるほどねぇ?それが君の矜恃って訳か。──うんうん良いじゃないか!?君の瞳にしっかりと焔が宿っているよぉ!あぁ、そしてその焔はきっと──【世界】すら貫く最強の一撃を生み出すのだろうね!」
微笑みながら狂うな。と俺は思いながら、まぁとりあえず目下のアレをどうにかする事を再び考え始めるのであった。
◇◇◇◇◇
「で、回復アイテム多めに持ってきた訳だが──早速反省会と行こうじゃないか。なぁフールや?」
「そうだね、これに関しては反省会を開く必要がありそうだ。全く面倒臭い相手だと思うよ」
「そうだな。というかお前はアレについて何かしら情報を仕入れていたりといった事柄はないのか?」
ある訳ないねぇ。せいぜい知っているのは、あれに搭載されたアルカナの名前ぐらいかなぁ──。
そう言いながらフールはお茶を何処からか取り出して飲み始めるのであった。
一人だけずるいとは思ったが、まぁさしたる事じゃないと誤魔化した。
◇◇
三日目の挑戦。
一度目の時は、まずたどり着けなかった。
二度目の時は、回復ゴリ押しでたどり着いたけれども、そこまでで力尽きてしまった。
ならば三度目はどうするべきか?
「───どこかに裏道とか無いのか?」
俺はまず、行く道を変えることにした。
そもそもここからあの古龍とやらの場所までは、山肌を登って行くことになるのだが─しかし、ここから奴に丸見えなのが最大の問題点となってしまっている。
要は来ることがわかっているせいで、相手に余裕を持たせてしまっているということだ。
正直な話、タイマンでやり合うならまだ勝負をしようがあったと思うのだ。
だが麓から頂上まで登る間に、体力を限界まで削られて泣く泣くリタイアして戻ってくる現状ははっきり言って、勝負すらさせて貰えていないという事であるのだから。
「──なぁ、フール。あいつに毒は効くか?」
「効かないねぇ。そもそも古龍は状態異常完全無効だねぇ」
クソ、まじかよ。俺の知ってる風の古龍は毒状態にすると弱体化するのに?!
「加えて奴は環境によるダメージも当然無効だねぇ。あとレベルの低い投擲攻撃や、一定値以下の武器による攻撃も無効化できるね」
「なんだいそのクソゲー。あの荒れ狂う嵐の中を、どうにか走り抜けてあいつに殴り掛かり──そんでもって勝利を掴み取れ と?」
「そういうことだね」
「───とりあえず明日は別の道が無いかどうか、確かめに行くぞ」
呆れたようにアレクはそう告げると、ごろんと布団に横になる。
寝る前にやつの動きを何回か頭の中で反復させて見るが……まぁはっきり言って勝てる気がしない。
岩のような鉄のような鱗に、覆われた身長9m程の巨大な竜。
古来より生息すると言われる、伝説の竜。故に古龍なのだとか。
「──何が足りない?」
すぐに頭の中に浮かび上がるのは、回復要員。
回復ポーションだけではまるで回復が追いつかないほどの風圧ダメージ。
「──他には」
だがそれ以外は、まるで分からない。まだ勝負の土俵にすら自分が立てていないことを俺は実感しながら目を閉じる。
死にゲーで、勝てないボスを相手にした時のような高揚感とともに俺は眠りの世界に引きずり込まれて行くのだった。
◇
「──全く、相も変わらずな性格をしているじゃないか。そんなに自分の空間を他者に明け渡すのが嫌なのかい?───ねぇ、オールティヌス?いや……吊られた男?今は女だっけ?」
静かに風に向かってフールは囁く。
「………………帰れ」
静かに風がそう答えたような気配を感じた。
全くだよ。せっかく私の愛する愛する眷属が訪問しようとしてるってのに、君は見たくないのかい?
「…………興味が無い」
はいはい、そうですか。まぁ君は確かに昔から他者に関心は持たない方だったからねぇ──。
そうは言いながらも、フールは自分の話に一応耳を傾けてくれているかつての神々、アルカナの一人に優しく告げる。
「──まぁ見ていなって。──あの子は逸材だ。それを君にしっかりと教えこんでやるからさ」
風の答えは沈黙であった。
つれないなぁ。そう思いながらフールは横で静かに眠っているアレクの姿を眺める。
「───こっそり髭を書き足したらなんて言うかな?」
少しだけイタズラをしたくなりながら、何とか我慢しながら夜は更けていくのであった。
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