第11話 嵐の古龍①
焚き火を囲みながら、俺は静かにフールを呼ぶ。
「何か?」
案外直ぐに反応を示すのには、少し驚いた。
「いや、大したことじゃないんだけどね。……ファンタジーの世界って野営って危険じゃ無いのかなってふと思っただけなんだが」
俺の質問に、フールは笑いながら答える。
「いや普通に危険だよ?まぁ私たちの場合、愚者の結界によるレベルダウン効果に怯えて近づいては来ないと思うけどね」
そっかぁー、レベルダウン効果あるのかー。いや待って?初耳だけど。
「れ、レベルダウン効果って何?!」
「?いや、私がいる場所の周りでは色んなデバフ効果が蔓延するんだけどさ。そのひとつにレベルを強制的に引き下げるのがあるんだよねぇ。これのせいで魔物やら人やらは本能的に近寄らないんだと思うよ」
サラッと言うな。サラッと。
どう考えてもそれはチートスキルなんですよ。
「?チートスキルでは無いだろう少なくとも。別に何かやましい事をしてる訳じゃ有るまいし。其れにこのスキルの効果は勿論君にも影響を及ぼしているんだよ?あれ?言ってなかったっけ?」
「初耳ですね」
「そっかぁ─、まぁそういう事だからよろしくね」
そういうと微笑むフール。白色の髪の毛と睫毛が篝火の赤に彩られて、少しだけ。ほんのり少しだけ艶っぽく見えたのは、本人には言わないつもりだ。
どうでもいいが、今日二から三体程魔物を狩り取った感想なのだが──なぜ俺の剣は爆発したんだ?
「それは勿論、スキルの効果だよ。〈愚者〉のギフトスキル、〈愚者の矜恃〉って言うスキルでね……まぁ端的に言い換えるなら、砕け散る幻想ってところだ。世界に存在し続ける神秘を内包させた剣に、本来の使い方をさせない事で大爆発を起こさせる技さ─、便利だったろう?」
その言葉に俺は静かに頷いた。
爆発のダメージは一律10%分。それを10回行えば雑魚狩りは直ぐに終わられされる。
最も、アイテムを増やすあの〈愚者の数合わせ〉に関してはかなり強いと思ったが……。
──「まさか一日に一度だけとはなぁ……もう少し使い勝手良くならないんすか?」
「なるわけないだろう。そもそも、無いものを生み出してると言う行為がどれだけおかしい事なのかぐらい、君にだってわかるだろう?」
それは確かにそうだ。そもそも購入したアイテム全てが削った分だけ増える。これをチートスキルと言わずとしてなんと言うのか。
それにしても、今自分達がいる場所がかなり王都から離れていることに俺は感謝しなくてはならない。
山30個ほど離れた場所にあり、冒険者ギルドもかなり小さく寂れたものだった。
というかさっきもそうだったが、俺達が商店に入るとめちゃくちゃ歓迎されたのだ。
「こんな辺鄙な街に人が?!」
みたいな驚き方をしていて少しだけ恥ずかしかったのは内緒。
んでまぁそこのお店の人的には久しぶりのお客さんだから、色々おまけつけたげる!かっこいい兄ちゃんだし!
と言ってかなりのアイテムを貰ってしまったのだ。
「そう言えばお前の姿、見えてなかったなフール」
「当たり前だろう?私は君にしか見えない君だけの存在だからね」
「そっか。まぁじゃあ俺はあのギルド内で一人ぶつぶつ文句を言っている危ない人扱いだったって訳ですね巫山戯るな」
多分俺はもう二度とあそこのギルドに向かうことは無いだろうな。とりあえず中にしまっていたギルドカード内のお金は全て今回使い切ったし、となると──、
「アイテムボックスから出る素材やらなんやらで色々とやりくりしていかなきゃならないってことだな?」
「そういう事だろうねぇ。少なくともこの近くに村も街もあそこしか無いみたいだし」
そっかぁー。……キツイな。
アイテム自体は毎日増やせるから問題は無いし、食料もアイテム扱いだから増えるし気にする事は無いんだけど……。
結局俺は武器の扱い方とか、色々と学ぶべきだった技術を伴わないまま外に出てしまっている。
まぁフールが言うには。
「君は武器の扱い方を正しく知らない。からこそほぼ全ての武具が〈愚者の矜恃〉の対象になるのは実に素晴らしいと私は思うがね?」
だとさ。
◇◇◇◇
俺が向かう先にある、嵐渦巻く山岳地帯。
その麓に俺は足を踏み入れた。
既に風は嫌な音をたてて唸り声をあげ、吹きすさぶ風は時折悲鳴のようなものを伝えてくれる。
セーフティゾーンの近くには沢山の武具が落ちてあり、それだけたくさんの人間が挑み敗れたことを俺に教えてくれていた。
「ギルドの人が教えてくれた内容としては、あの山は【絶滅の嵐山】と言うらしいが……まぁ確かに嵐の山に間違いは無いのか」
ちなみセーフティゾーンはフールが教えてくれている。
所謂セーブポイントのような役目であり、魔力の流れやセーフティゾーンを作り出すアイテムが刺さっているのが特徴だ。
今回のセーフティゾーンは山の麓にある小さな洞窟だった。
中には一本の槍が刺さっており、それがおそらくセーフティゾーンを作るための道具……聖遺物なのだと俺は理解する。
先人たちがあの山に挑む際に利用していたそれを、俺は静かに有効活用する事にした。
◇◇◇
嵐がいた。吹き荒れるとかいう次元じゃない、文字の通り、嵐そのものがそこにいた。
暴風と、雷、そして大粒の雨あられ。
天候の化身とも言うべきそれが、山の頂きで静かに俺を睨んだ。
途端、自分のHP……69回食らっても耐えれるはずの俺のHPが僅か数秒で……25まで減らされた。
──死ぬ、そう思った瞬間─、ギフトスキル〈仕切り直し〉を発動させて俺はその場から離脱したのだった。
◇◇◇
「───危ねぇ……まじで危なかった!!」
そう言いながら、俺は肩で息をする。乱れきった息が戻るまでしばらくかかりそうだった。
「さて、どうだった?──君はあれに強さを示せるかな?」
フールのにやけ顔に俺は蹴りを入れたくなった。が、フールに効果がないことぐらい俺にもすぐに分かる。ので無視する。
「──強さを示せ?だと?!あれにか、あの……嵐の古龍オールティヌスとかいうヤベェやつにかよぉ!?」
「その通りさ。あれを君は倒す必要がある。あいつは……体内にアルカナを所持してるからねぇ?あれをどうにかしないと話が進まないんだ──出来るよね?」
いや無理だって。無理ですって。
俺はそう言いながら横になってHPを回復させるのであった。
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