第9話 新たな門出

 かつて世界を"アルカナ"という名の神々が収めていた。

 神々は皆、卓越した能力を持ち合わせ……平和に暮らしていた。21の神々はそれぞれ平等に世界を支配していたのだ。


 だがある日、22番目の神が現れた。その日世界からは平等が消え失せ、神々は一人残らず滅ぼされた。

 全ての神々を殺戮し、その権能の全てを奪い去った完全にして完璧なる神は自分の名前を【世界】と名乗った。

 ──世界の支配が始まってから、人々は少しづつその輝きを失って言った。

 世界が望んだのは、。自分以外のシナリオを認めず、自分だけが楽しめればそれでいい。

 世界はそうやって運命すら歪ませてしまった。


 彼女に殺された神々は皆ちりじりになり、ある者は魔物に姿を堕とし。

 ある者は狭間に追いやられ、ある者は世界の配下となった。

 ある者は異世界に救いを求め、そして帰ってこなかった。


 ──そして世界を止めれる者が完全に消失したのが、今の世界ってことさ。


 どうだい?割と終わっているだろう?


 ◇◇◇


「自分勝手な神様か──だけど俺が感じたのは、あれはまだ幼い子供の感覚だったんだが?」


 アレクの言葉に、フールは微笑む。


「そうさ、アイツは子供だ。だからし、自分が世界の中心だと勘違いしているって事さ。

 まあ最も──本当にそれを実現するだけの力は有るから厄介なんだがねぇ」


 何故か熱さを取り戻し始めたレモンティーをぐいっと飲み干しながら、フールは呆れるような、さとすような声で呟いた。


「それで俺はどうやってあいつを倒せばいい?やっぱり懐に入り込むのか?それともゴッドパワーか何かでパワーアップして殴り殺すのか?」


「君は案外物騒だねぇ。まあそれも選択肢の一つだ。ただ、アイツは世界そのもの。

 ──まぁつまるところ、あいつを倒した瞬間に世界は終わる。全く厄介だろう?自分勝手なくせに、死ぬ時に世界を道ずれにしていきやがるんだよ」


 俺は絶句した。単純にあいつを倒せば解決すると思っていたからだ。


「じ、じゃあ……倒しちゃいけないって事……か?」


「正解。アイツは倒すんじゃなくて、必要があるのさ。まあ世界最強の相手に教育するには、それ相応の力を持ってなきゃ話にならないんだがねぇ」


 そういうと、やけに硬い煎餅をぼりぼりとかじりながらフールは空を見た。

 ──厄介だよ、本当に。


 言葉には出さなかったが、フールの口はそう言っているように見えた。


「……それで俺はどうやってアレを教育したらいいんだ?」


「簡単さ。を教えてやるだけでいいんだよ。簡単だろ?君があいつのHPを1まで減らしてやるだけでいいんだからね」


 ……かなり無茶を言っていないか?フールさん?

 少なくとも神様にHPがあるのかという話なんだが?


「神様にHPは無い。だったら、作ればいいんだよ。……あの世界にはね世界にルールを付与する方法が一つだけあるんだ……それは」


「……それは?」


 俺はゴクリ、と唾を飲む。あまりにも勿体ぶった喋り方についつい俺は引き寄せられてしまっている。


「……サブスクライブを解放すれば教えてあげますよ?今なら、なんと年会費無料!今すぐ申し込みはフリーダイヤル……とぼけてみるのも悪くない。が、君のその目が私を殺しそうなほどになっているので、からかうのはやめておこうか。

 ──他のアルカナを全て揃えるのさ。まあ具体的には───、」


21の全てを、ね」


 ◇◇◇◇◇


「ひとつ良いか?どうやって俺は21の【世界】を集めれば良い?世界を倒すために世界を集める?矛盾しているように感じるのだが?」


 俺は母親が占い師だ。当然だがタロットカードに関しては嫌という程見てきたからな。


 "アルカナ"それは様々な占いで使用される有名な物だ。

 0から21、【愚者】から【世界】までの特別なカード、通称大アルカナが最も有名だろうか。


 そしてその中でも最も優れたカードこそが、【世界】事22番目、カードの数字的には21番。基本的にすごいことしか書かれていない究極で完璧な世界のアルカナだ。


 そしてさっきフールが言ったことは、その21番つまり【世界】を倒すために【世界】を集めなきゃいけないということである。

 ──どうやって?


「ああ、君は勘違いしている。──確かに世界は一つだけしか無い。だがは世界中に散らばっているのさ」


 残滓?


「そう、残滓だよ。──私以外の全てのアルカナは自分に眷属ってのを作っている。そしてその眷属ってのには自分の運命を少しだけ分け与えれるんだ。そして、あの【世界】が力を分け与えた眷属ってのは───まぁ勘のいい君ならわかるでしょう?」


 ……俺は静かに考える。世界の眷属?世界から力を分け与えられ……分け与えられ……分け与えられる?


 ──まさか。


「そう、そのまさかだよ。君自身も世界に事は無かったかい?例えば、とかいうワードを誰かから話されたりしなかったかな?」


「……クラスメイト……達……か」


「御明答。彼等は皆あのだ!……そして彼らには、当然ながらが宿っているのさ!」


 チート能力、チートギフト……まさかそれが全て世界の一部って事か。


「そして、君には少し残酷なことをお願いしなければならないんだよね。そうって事さ。それをすれば勿論君は友達殺し、同じ釜の飯を食べた同郷の人間殺しをすることになるんだ」


「それを俺はやらなければ行けないのか?俺が今やらなきゃ行けないことなのか?」


 俺はすぐに躊躇いを得た。今は見た目が変わっているとはいえ、自分のかつてのクラスメイト達を殺す事が俺はできるかと言うと"無理"だと言える。


「うん。彼等が強くなると、必然的に世界のちからもより強くなる。

 ──もしあの勇者とかいう人が完全に覚醒して魔王とやらを打ち倒してしまった日には……それこそもう全てのアルカナを集めたところで相手になるか分からないだろうね」


 最悪だろ。俺の人生はどうなっているんだ。

 神様に好き勝手遊ばれた挙句、そいつに復讐しようと思うならなんの罪も無いはずの知り合いやクラスメイト達をぶち殺して行かなきゃならない?


 ──俺に出来るわけが……。

 ……いや、待てよ?そういえばあいつら俺が追放される時に誰も来なかったよな。

 ……それにあいつら見た目は完全に別人だよな。なんかチート能力でイキってるし、普通に知り合いだってのに誰も俺の事気にかけてくれなかったし?


 ───あれ?躊躇う理由無くない?


「分かったぜ。俺はあいつらを全員ぶち殺して世界の断片を奪い去って、そんでもって神様に再教育してやるだけって事だな。OKそれなら話は早い、さっさと終わらせてやる」


「──君、存外面白いね。いや知ってたけど。というか私が選んだんだからそりゃ面白いに決まってるんだけどね──ふふん流石は私」


 そう言いながらフールは少しだけはにかんで笑う。

 ふんわりとしたレモンティーの残香が、俺の鼻の奥をツンと撫でた。


 ◇◇◇◇


「じゃあまずはキャラクリからはじめよっかな!」


「キャラクリ?……さっきまでと同じ顔じゃダメ……なのか?」


「え?嫌だけど?あんな世界が適当にアセットで創っただけのパチモンなんか嫌でしょ普通。──安心したまえよ、私はこう見えてもゲームのキャラクリはバリバリにこなす方なんだ!」


 ま、まあ言いたいことは分かる。というかなんだろうか結構このフールっていう女性は世界に対抗心を抱きまくっているように感じるんだが?


 ──まあ楽しそうに俺の髪の毛をいじくり始めたので、俺は彼女のキャラクリ力を期待しながら目を閉じる。


「ハハハ!じゃあ始めようか、私のキャラクリ力を見るがいいさ!!───じゃあまずは髪の毛の色は虹色で……」


 前言撤回、期待した俺が馬鹿だった。

 そういやコイツ色々とズレてた。


 ◇◇◇


 こうして、しばらくキャラクリを右往左往しながら、時にはぶつかりながら俺は新たな姿に生まれ変わったのである。


「───ふふん!流石はこの私、素晴らしい見た目だと思わないか?」


「ああ、素晴らしい──わけないだろうが!?いやなんで?なんでアフロなの?!金髪アフロはもうあれなんよ、ってちょい待った!?鼻毛を伸ばそうとするんじゃあ無い!!」


「なんだい、つまらないじゃ無いか。せっかく肩パッド詰め込んだ青色の服を持ってきたと言うのに──」


「なんで俺はとある鼻毛神拳の使い手にならなきゃならないんですかね!?嫌だよ色んな意味でッ!」


「──文句を言うじゃ無いか?いいだろう、じゃあこれならどうだ!」


「ダメだって!どう見てもこの見た目【○○王に俺はなるっっっ!!】って叫ぶヤツや!?」


「ならこっちは……」「著作権的にアウトなやつを持ってくるんじゃぁないいいい!!」


 前途多難だなぁ。と俺は肩で息をしながらボヤいた。


 ◇◇◇


 結果生まれたのは、まさにな男だった。

 髪の毛は灰色、瞳の色も灰色に黒ずんだ緑、身長は180cmほどに伸ばされ(フールの趣味)、筋肉質な見た目をした不気味な男に仕上がっていた。頬は僅かに痩せこけ、目はじろりと何かを睨む。

 子供が見たら不審者通報されかねない。そんな無気味な男になった。


「君は私の物だ。なので私の趣味を全部ぶち込むことにする。──勿論私以外の女が着くことを避けるために、あえて不気味な感じで行こうと思う!」


「お前のものになった覚えは無いが?」


 そんな会話があったかも知れなくもないかも知れない。


「じゃあ君に、私からの祝福を授けてしんぜよう!──感謝したまえよ?愚者は眷属を持たない。だからこそ君は初めての眷属なんだ。──私の初めて貰ってくれるかな?」


 ちょいとエロスを感じる言い方やめな?


 そういう事で、俺は旅立ちを迎えることとなった。


 ◇◇


 目的は一つ。世界をぶん殴って教育してやること。


 手段も一つ。世界の加護を貰ったクラスメイト達から世界の権能を全部剥奪して、アルカナの力を集めて世界を殴る。こてんぱんに、容赦なく。


 共犯者は愚者。

 アルカナの一枠にして、No.0【フール・オブ・アザトース=ピリオド&エンデュミオン】


 にして、世界を直す者なり。


 これは世界に遊ばれた男と、世界に追い出された女が巡る、世界を教育するための物語である。


「さぁ、行こうか我が眷属よ。──新たな名前【アレク・フール】の名前と共に!!」


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


【アレク・フール】■歳


【HP】EX

【基礎総合ステータス】EX

【魔力】EX

【ギフト】〈割合化〉〈愚者〉


【EXとは、即ちEXTRA例外の意味である】

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 何卒〜。




























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