第8話 拾う神
──神様は卑怯だ。上から見下ろして、人々の人生を弄び、自分の匙加減で全てを御破算にしてしまう。
人一人に人生があって、夢があって、やりたい事が山ほどあると言うのに。
それを自分が面白いか否か。
ただそれだけのどうでも良い舐め腐った尺度を用いた理不尽極まりない身勝手なノリで全てを簡単に捻り潰してしまえる。
神はサイコロを振らない?はっ!ふざけた事を。
サイコロを振るまでもないって話だろ?必然を自分で操作出来るやつが、サイコロを振るのはただの遊び。人というちっぽけな存在の足掻きを見て楽しむ為だけの、悪趣味な遊びだ。
そしてそれに俺は殺された。勝手に呼び出され、勝手に追放され、身勝手に遊ばれて、挙句の果てに殺された。
──英雄のようにかっこいい散りざますら無く、ただ片手間に。虫を潰すように、あっさりと。
なぁ、誰か教えてくれよ。
俺はなんで異世界に呼び出されたんだ?
──【踏み台】
──【噛ませ】
──【暇潰し】
──【モブBとして?】
結局俺は主役じゃないから、ってだけで消されるだけの哀れなモブなのか?
あれだけ神様に遊ばれて?──暇つぶしに人生で遊ばれて?おいおいふざけてんじゃあないよ。
──【そうだね。じゃあ、あれに復讐したいか?】
女性の声?誰だ?俺に話しかけるのは。
──【私は、そうだね。神様の天敵……とでも名乗っておこうかな?】
天敵?神様なんかに天敵がいるのか?あんなふざけた奴に!
【いるさ。まあ最も、今はただの残滓なのだけどねぇ】
……お前は誰だ?というか待て、なんで俺は意識があるんだ?
【あ、やっと気がついた?全く、早く目を覚ましたまえよ。寝坊助くん?】
その声は妙に甘く、そして罪の味がした。
◇◇◇◇◇◇
……蜜の味がした理由がよくわかった。
「……なんで俺はハチミツの中にぶち込まれているんだ?」
そう、何故か分からないが俺はハチミツの中にぶち込まれていた。
なぜハチミツだと思ったか?
黄金色のドロっとした透明な液体と、喉が焼けそうな程の甘ったるい香り。
そして極めつけは、目の前にハチミツって書かれた小瓶が置いてあるからだと言えばわかるかな?
「…………あっっっま!なにこれ!?」
俺は試しに舐めてみた。凄まじく甘かった。というかひと舐めでこの甘さ。
常人の味覚じゃ無いやつがここにはいるのだと、すぐにわかった。
【あ、起きたね。じゃあこっちおいで〜】
突然後ろから女が現界する。現れる時に空間が歪んで召喚陣のようなものが出てたので現界であってると思う。
女は真っ黒な髪の毛と、真っ白な髪の毛が入り乱れまくり……目を細めれば多分灰色としか言いようがない見た目だった。
顔立ちは……。
【ちょっと君?
そういうなり、女は俺をひょいと掴む。どこにそんな筋肉が?!と俺が驚く間もなく……俺は闇の中に連れていかれた。
【はいここ、風呂ね──んじゃあ、息止めてね〜〜〜どっせーい!!】
そして風呂に投げ飛ばされた。いや風呂に投げ飛ばすって何ですか?
というか待って?これ風呂?すっっごい暑くね?
【耐えてね、少し温度をあげるから。えっと……9000℃……いやいっか、10000℃にしよっと】
ちょ、え?え、あの……今なんか不吉な温度が……ってあっっ!?くない?
いや確かに暑いんだが、俺は別にどうにもならなかった。というかむしろ心地よい?というか。
【うんうん、さすがは私だ。天才的な温度管理技術!……あ、やべっ温度上げすぎた……】
心地良さが消し飛んだ。あまりの温度に俺の体に火が付いた程の温度、と言えばわかるだろうか?まあよく考えたら9000℃とか言ってる時点で炭を超えてそうな気もしますが。
【ふい〜危な危な……危うく大切な人をぶち殺すとこだったよ。誰だいこんな危険なことをしたのは?……あ、私か!えへへ〜今日も私は強い可愛い最強!】
──心地いいとか言ってる場合じゃねぇなこれ。あれは多分ヤバいやつだ。逃げなければ。
俺はそう考えて慌てて風呂を飛び出そうとして……全裸でその女の前に立っていた。
【──君は変態さんなのかな?私にそんな粗末なものを見せて。ふむ、しかしよく見るととても立派な気もし無くも……】
訳が分からない。あと俺のあそこを見るのやめて?
◇◇◇◇◇◇
【はいどうぞ?レモンティーだよ】
俺はレモンティーを手渡された。
「ど、どうも?──ぬッッッる!!なにこれぬるすぎんか?」
あまりにも
【──ちなみにその中に入ってるハチミツは君がさっき浸かってたやつね。あと水は君がさっき入ったお湯ね】
──、そっか。そりゃ塩味するわな。
俺は静かに口から噴き出した。
◇
「で、誰ですかアンタ名前は?」
俺はやっと尋ねるべき質問を彼女に投げかけた。
【神の天敵だってば】
なるほど、名前を聞いているんだがな?俺の質問聞いてた?
【ふうむ、君のその顔。多分だが私がなんという名前なのかを知りたいって顔をしているな?】
だからそれをさっきから聞いてんですがね?
【うーん、違うかぁ】
おーい、聞いてる?ねぇ、俺の質問聞いてた?耳ついてる?ねぇ?
【なるほど、このお茶の名前を聞きたいんだね?これはレモンティーだよ。そうだなぁ、名前をつけるなら】
ダメだコイツ。人の話を何一つ聞いちゃいねぇ。
【──『 捨てられた異世界人から出汁を取ったレモンティー(製作者フール)』っと!うん、完璧だね!さすがは私!】
……こいつの名前は
「アンタ、フールって言うんだな。そうか……フール……なるほど。タロットをモチーフにした訳か」
【え?なんで分かったの?君もしかしてストーカー?気持ち悪いからやめな?それ】
いやあんたが自分で名前言ったんやろがい!!
そういうと、フールは静かに俺の顔を見る。
その瞳はまるで深淵の如く深さを誇り、俺はそれに簡単に飲み込まれそうになる。
【はぁ……せっかく名前当てゲームとかまで考えてたのに、もうバレちゃうなんて。
はぁい!私の名前はフール。人よんでクトゥルフなディザスター!そう、私こそが【フール・オブ・アザトース=ピリオド&エンデュミオン】さ!……】
ごめんひとついい?どこが名前?というかどれが名前?
てっきり
【んーちょっと待ってね、うん、【】が邪魔だから消すね。話しやすさと──わかりやすさを重視した結果──はい、このフォントだね!」
そういうと、とち狂った名前の奴は俺の前に飛び上がって着地した。
「ふふん、私こそが神様の宿敵にして天敵!世界に対する切り札であり、古き良き時代の影の主神!邪神にして物語の終わりを司る最高にして最悪の魔神、『 フール・オブ・アザトース=ピリオド&エンデュミオン』である!!君を助けた私に是非とも感謝の心を忘れないで貢ぐのだ!!ちなみ呼び方はフールでいいぞ?」
俺は静かにレモンティーを飲んだ。少し情報過多だと言いたかった。
──やっぱり塩味がした。
◇◇◇◇◇
「いやぁ、しかし君が私の言葉に答えてくれて良かったよ。あれで答えてくれないと私また一人ぼっちだったんだから」
いつの間にか置かれていた机と椅子に腰掛け俺はフールとお茶を飲んでいた。
「……俺は死んだのか?」
ふと、それを尋ねたくなった。なんか色々あったせいで忘れかけていたが、俺はあまりにも虚しい殺され方をした筈。
「ん!勿論。じゃなきゃここに来れないもの──しっかしあの死に方は酷いねぇほんとに」
そう言いながらのんびりとクッキーをかじるフール。
「そうか……俺はやっぱり弄ばれて死んだのか……」
結局あれが本当に起きたことなのだと俺は思うと、虚しさが襲ってくる。
神様の理不尽な遊びで、あっけなく殺された自分の存在価値は何だったのだろうか。そう思うと、途端に俺の顔は俯いてしまった。
「──君は復讐したいか?あの神様……いや、世界の名を冠するだけの幼い子供に」
唐突にそうフールは尋ねた。
その言葉には、殺意と言うか色々な思いが重なったものを俺は感じ取った。
「ああ、あいつには命の重さを理解させてやりたい」
「ふうむ、奇遇だねぇ。私もだよ……命で遊ぶな!なんて言う幼稚園児ですら分かること。そんな簡単なことをも理解出来ない哀れな欠陥品の世界。
あんなものはさっさと廃棄処分すべきなんだ。……ってのに全く、あいつは世界を冠してる……だから最強で最悪なんだよねホント私一人じゃ太刀打ち出来ないんだよねぇ……」
そういうとレモンティーに砂糖を入れるフールであった。
角砂糖をどぽん。少しレモンティーが跳ねた。
俺は少し入れすぎだと伝える。
「苦手なんだよね、レモンティー」
ならなぜ用意したのか。そう俺は思いながらレモンティーを啜る。
塩味がずっとこびりついた。が何となく慣れたように思えた。
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