第5話 戦闘【ギガマンティス】
クラスメイト共からなるべく離れるために遠くの街まで馬車で進んでいたアレクは、魔物の襲撃に逢う。
しかし同行していた二人の人間が即座に戦いに赴くのを見て、アレクも又何も出来ない可能性を考えつつも戦闘に参加するのであった。
◇
俺は慌てて馬車から降りる。それにしても同行していた二人の人達は、なんの迷いもなくすぐに戦闘を始めているようだ。
戦闘の音が既に聞こえてくる。
アレクは馬車を降りてすぐに馬車の上に飛び乗る。それは周囲の状況を確認するための行為であり、勿論御者の男にも許可を取っての行為だ。
「……何だありゃ!?……いやすげぇな?!」
そこで俺が見たのは、シスター風の女性と禿げたおっさんが息ぴったりに魔物を殲滅しているところであった。
周囲には結構な数の魔物がいたが、その殆どは俺が視認する前に次々と消し飛ばされていく。
……やっぱ俺の出番は無さそうだ。
俺はそんな事を言いながら、馬車の中に戻ろうとして……。
突如後ろから現れた魔物と目が合った。
そいつは、巨大な蟷螂と言う見た目をした魔物で、特筆すべきは2m以上あるということ。そして何か分からないが謎のオーラを纏っているという事だけ分かった。
俺はとりあえずそいつに向けて剣を構える。まずはコイツが何なのか、じっくり確かめなければ。
そう俺が思っていると、後ろで無双していたシスターさんと禿げたおっさんが大慌てて俺に叫ぶ。
「「ソイツはギガマンティスだから早く逃げろ!!!」」
何だかやばそうな気配をしているとは思っていたが、あれだけ強そうな二人が必死に叫ぶんだからそれだけやばい魔物なのだろう。
だが二人は他の魔物に阻まれてこちらまで向かって来れなさそうだ。なので俺は息を吐き出して剣を構える。
……あの二人がこっちまで来る時間を稼ぐ。それくらいはできるだろう。なんせ俺は、
99回までは死なねぇからな!
◇◇◇
蟷螂と言った。あぁ確かに蟷螂だ。
鎌を持たげたソイツ、確かギガマンティスとか呼ばれていたそれは、俺を見て捕食対象だと認識したのだろう。
一瞬で俺の首に鎌をかけると、そのまま引きちぎる様に引っ掻いた。
「な?!青年ッッ────!!」
「ひっ!───?!」
どうやらあの二人は俺の首が跳ね飛ばされた様に思ったのだろう。だが俺の体はそうはならない。
俺はギガマンティスの後ろ側に弾き飛ばされる。その際に俺は引き抜いた剣をブスリと刺す。
「「「ギュルルルルル??」」」
どうやらギガマンティスは驚いているようだ。まあそりゃそうか。
首を跳ね飛ばしたつもりなのに、何故か首が飛ばず、それどころか反撃までしてしたわけだからね。
「せ、青年無事だったか!!」
「良かったぁ……じゃなくて、早く助けに……あーもう鬱陶しいんだよこの虫達ぃ!!
──告げる、汝らに劫罰を。雷は然して天を仰ぐ、律するは我が天命。審判はここに、担い手の名は【ルーサ】──天よ我に力を──"ジャッジメント"!!!!!!」
突如シスターさんが何かを呟いた。途端空が暗く染まり、辺りからびゅうびゅうと風が吹き荒れる。
俺は一瞬そちらのほうが気になり、目線をそちらに向けた。
すると、空がゴロゴロと音を立てて崩れ落ち、シスターの前に群がる虫達にその鉄槌を下す所であった。
……あれはもしかしたら、魔法という奴なのかも知れない。そうアレクは思いながら、再び目線をギガマンティスに向ける。
そして三発ギガマンティスの鎌による連続攻撃を受けてしまった。
だが、それで受けるダメージはトータル"3"──
先程食らった一撃と合わせても、まだあと95回受け止められる。
俺はその余裕を噛み締めながら武器を構えて飛びかかる。
俺の心には、まだ受けても問題がないという余裕のようなものがあった。それは結果的に俺の動きをよりスムーズにしているような気がした。
本来こんな魔物を見たら俺は気絶して、立ち向かうなんて考えもしないだろう。
だが俺はあと95回も受けても問題が無い。その心持ちがどうやら俺に勇気に近い物を与えてくれているようだった。
ギガマンティスは再び鎌をもたげる。今度は縦振り攻撃を繰り出してきた。
しかし俺はそれを紙一重で躱し、反撃の一発をお腹に当てた。
──だがそれでもギガマンティスはすぐに振り下ろしていない方の腕を使って俺の体を切り裂こうとする。
それを俺は剣の刀身で受け止めつつ、蹴りをギガマンティスの腹に続けざまに放つ。
「「「ギュォォォォォ!??」」」
どうやら腹はこいつの弱点のようだ。その証拠に、さっきまでのコイツの余裕が一気に無くなっている感覚がしている。
………だがまだ情報が足らない。俺はさらに自分の目を光らせる。ギガマンティスは鎌を使った攻撃ばかり、逆に言えばそれ以外からの奇襲は特にしてこなさそうだった。
おそらくだが、強靭な鎌と外骨格を武器にしている魔物なのだろう。
だからこそ、俺はこいつに明確にダメージを与えられているとも言える。
蹴りは当たる度にギガマンティスのHPを1%削る。剣がかするたびに1%削る。
そしてギガマンティスからの攻撃ばかり鎌による首を狙った攻撃ばかり。
……たしかに普通の人なら即死させられるから賢いとは思う。だが俺はそれでは殺せない。
「──っ!!連撃、はっ、だが今見たぞ!!」
ギガマンティスが再び連続攻撃をかましてくる。しかしその直前の予備動作を俺は見た。
鎌をぐっ、と後ろに下げ、胸の前でクロスさせるというモーション。それがコイツの連続攻撃の予備動作と見た。
俺はそれをわざとくらう。当然6ヒットの攻撃を受けて、俺のHPがさらに6%消し飛ぶ。
だがそれでも、俺にとっては予備動作を把握出来ただけで十分お釣りが来る。
残りくらって問題ないのは88回。だが既にコイツの攻撃は殆ど見た。
俺はさらにコイツの動きを記憶するために、ゆっくりとギガマンティスの目を睨む。
その時の俺は多分うっすらと笑っていたのかもしれない。
◇◇◇
「───どうなってるの、あの子」
「わからん。だが少なくとも、あれは……」
「えぇ、言いたいことはわかるわ。【ギリン】あの男、あれだけギガマンティスの攻撃をくらっていながら全く倒れる予感がしないわね」
「だな。アダマンタイト級の俺たちですらあれの攻撃をあんなに受け止めれる自信はないぞ」
「えぇ。でも早く終わらせてあげましょう。──行くわよ、ギリン。」
「ああ、分かった。…………〈
!!!」
「ごめんね、君。回復はしてあげるから。……まああの子の耐久力を見るに、耐えてくれるとは思うけど……──────告げる、汝らに劫罰を。雷はしかして天を仰ぐ、律するは我が天命。審判はここに、担い手の名は【ルーサ】──天よ我に力を──"ジャッジメント"!!!!!!」
二人のアダマンタイト級という、伝説級の次に強いとされる冒険者は、自分のスキルと魔法を最大発動してすぐさま戦っている青年の援護に向かった。
◇◇◇
どうやら時間稼ぎは間に合ったようだ。と俺の理性はそうつぶやくが、だがしかし。
──俺はもう少し戦っていたい!!
そんな感情が溢れかけていた。既にコイツの攻撃はしっかりと見切れるようになった。
「───そのモーションは連続攻撃!だがなぁ!その際のお前の動きならわかってんだよ!」
俺は荒々しく鎌をクロスさせたギガマンティスに飛びつく。そしてそのまま剣を使って動きを封じる。
そしてその直後、二人の冒険者が放った大技が俺をギガマンティスごと吹き飛ばしたのであった。
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