第4話 〈sideクラスメイト〉ウェアウルフ

〈sideクラスメイト〉


 俺の名前は天野 勇我。今はブレイブ・エースと呼ばれている男だ。


 俺は元々成績万能な優秀な生徒で、クラスメイトの中でも一番すごいと自負していた。

 だが退屈だった。あまりにも色んな事を万能にこなせる俺にとって、日本という国は退屈だった。


 そんなある日、クラスメイト達とホームルームをしていたその時……俺たちは異世界へと召喚されたのだ。


 いきなり王様が現れて、世界を救ってくれと頼まれた時は、何言ってるんだこいつは?とは思ったさ。

 だがお姫様……スプリング・クロエ・フリオーソと言う女性を見て、ここは異世界なのだと俺は確信した。


 あんな美人で優しそうな女性は見た事がなかった。それほどに美形の女性だった。


 もちろん俺以外にも異世界転移してきたクラスメイト達がいたが、みんなほとんど見た目が変わっていた。かなりみんな美形の男子と美人の女性陣。まあ男子は俺ほどではないか。


 そしていきなり試験をするとフリオーソ様は言うでは無いか。

 正直戦闘なんてやったことは無かったし、確かに俺は幼少の頃から剣道を嗜んでいるとはいえ武器を使っての戦闘なんて──と思っていたのだがな。


 なんと蓋を開けてみたら、楽勝楽勝。軽く剣を振るうだけで次々と現れるやつが消し飛んでいく。あまりにも簡単だった。


 気が付くと俺らは82階層まで来ていた。とは言ってもそこら辺の魔物も大した強さはなく、俺の攻撃を一撃、二撃耐えれるやつですら居なかった。


 俺は自分がおそらくすごい存在なのだと確信していた。

 だから自分のレベルが上がった時に表示された、ギフト〈勇者〉の文字を見ても、当然だと思ったわけだ。

 俺はこのクラス、いやこの世界で一番強い。だからこそ俺はその後に呼ばれたクラスメイトたちを見た。


 オレほどではないが、かなり階層を進んだ猛者たち。よく見るとみんな俺の知り合いばかりだった。……やはり俺という完璧で万能な存在の近くに居られる奴は総じて優秀という事か。


 ちなみにどうやら前世の名前を言おうとしても、すぐに頭の中で直されてしまうようだ。例えばあの神田いつきという関西弁を喋る女は、【トール・メナス】と言うらしい。

 ちなみに彼女はかなり美人だが、俺がデートの誘いをしたところ「あんた自分のこと自惚れすぎや」と振られてしまったので、俺は割と記憶に残っているだけだ。


 ちなみにその後彼女が楽しそうに会話していたのは、確か……前の名前は知らんが……今の名前は……【アレク・ロード】とか言う奴だったはず。


 ちなみに奴はなんとスライム如きに30分の制限時間を全て使ったと言っていた。

 ……はっきり言って弱すぎるし、何より奴は俺の事を正面から見ようとしないムカつく奴だった。

 ので俺はフリオーソ様に彼の追放を提案したのだ。


 俺たちは優秀な異世界人だ。その中に使えない奴がいてはならない、そういう事だ。

 ……次の日には彼は居なかった。彼の事を嘆いていたのはトールと言うあの女だけだった。

 だが彼女も、王女様に説得されて押し黙っていた。



 ◇◇◇◇◇


 ……次の日の昼過ぎ、俺たちは自分のスキルやギフトの効果をある程度使いこなせる様になっていた。

 そして初めてのフィールド戦闘を行うことになったのだ。

 現れたのは如何にもな見た目をした二本の大剣を担いだ筋肉質な金髪の男だ。


「今回君達に戦闘のコツなどを教える義務を遣わされた伝説級レジェンドクラスの冒険者【ルシウス】だ。……世界の危機が差し迫っている緊迫した状況だからこそ、君達の力が必要なのだ。……そしてまずはフィールド戦闘を行うに当たっていくつか、知っておくことがある」


「知っておくこと、とは?」


 俺は尋ねる。するとルシウスは。


「ふむ、君がブレイブ君か。……そうだな、フィールド戦闘において重要なのはただ一つ、だ」


 そういうでは無いか。俺は自分たちは強いので大丈夫ですよ、どんな敵であれぶっ倒してみせます!と息巻いて伝えるが。


「そうか、心意気は十分なようでに何よりだ。だが君たちはまだ初心者、はっきり言ってまだ見習いの段階だ。君たちが自分の強さに溺れるのは構わないが、そのしり拭をさせられる人達の事も考えた方がいいぞ。冒険者とは基本的に自分を如何に律するかが重要なのだからな」


 あまりにも自分たちを舐めた態度に少し俺は腹がたった。まあ勿論こいつが強い可能性はある、だがそれ以上にこっちの方が絶対に強い。そう俺は思っていたからだ。


「はいわかっています。それで今回戦うのはどんな伝説級の魔物なんでしょうか?ドラゴン?それとも巨人ですか?」


「いや、だ」


「なんですか?そのウェアウルフってのは」


 俺はよく分からないので尋ねる。クラスメイトたちもはてな?という顔をしている。


「ウェアウルフとは、の事だ。最も昼間は大して強くないがな。と言うかまあ見たらわかる……あれだ」


 そうしてルシウスが指さしたのは、十五匹ぐらいの狼だった。


「あれがウェアウルフですか?ただの狼じゃないですか?あんなのと戦うよりもっと強い魔物と戦いたいんですけど?」


 クラスメイトのひとり、【スターズ・ミラン】がそう言って愚痴る。

 しかしルシウスはその発言を鼻で笑うと、角張った目をギロリと俺たちに向ける。


「……はっきり言ってウェアウルフの強さを知らんお前達に、あれの強さを教えるのは難しいだろう。……いいだろう、お前たちやってみるがいい。お前たちの強さを俺に見せてみろ。だが回復魔法使いたちはすぐに回復魔法を出せるようにしておけよ?怪我人が多数出るだろうからな」


 ある意味バカにしたような態度をするルシウスに、俺は少しだけイライラしながら。


「はっ、レジェンド冒険者とか言う割にあんな狼ごときが怖いんですか??」


 と笑いながら尋ねる。


「当たり前だ。まあその理由をお前達、確かめて見るといいさ」


 そう言ってルシウスはにやりと笑った。


 ◇◇◇◇


 一時間後……クラスメイトたちは何とか最後の一頭を倒すことに成功した。


 だがみんな満身創痍だった。

 俺はほとんど傷はなかったが、疲労だけが体にこびりついて仕方なかった。


「……なんですかアイツら!……早すぎて全然攻撃が当たらないじゃないですか!それに他の人の魔法やスキルがあるせいで上手く戦えないし!……」


 クラスメイトのひとりがそう言って文句を言う。するとルシウスはだから言っただろう?と答えた。


「十五匹ぐらい余裕だと思っていると、痛い目を見る。まあお前たちはまだレベル一だ。だからまだ苦戦するんだよ……まあ初心者にしてはよくやった方じゃないのか?」


 そう言ってルシウスは少しだけバカにしたような顔をする。……ムカつく!

 俺たちのことを舐めてやがるこいつ!……俺は怒りで腸が煮えくり返っていた。


「……そしてお前たちにはあのウェアウルフをしっかりと討伐できるようになってもらう。それがまずは最低条件だ。……なぁにお前たちなら楽勝だ……だからまずは何人かでチームを組め。人が多すぎると味方からの攻撃をくらう可能性が高くなることは身に染みてわかっただろう?」


 そう言ってルシウスは紙を取り出した。


「この表の通りに別れてパーティを組め。穴が空いてるところには今度冒険者が入る。だからまずは仲間との連携力と自分の体になれることを優先しろ!いいな!…………」


「分かりましたよ。やればいいんでしょやれば」


 クラスメイトたちは疲れ果てながらも、そう言って返した。


「……そうだ、もう一つ。……もしを見かけたら、絶対に戦うな」


「……何故ですか?」


「……死ぬぞ。あいつらはウェアウルフの中でも群れを持たない個体だ」


 群れを持たないなら弱いのでは?そう思った俺たちにルシウスは自分の腕の防具を外して見せる。


「…ひっ!?ぐちゃぐちゃ……どうしたんですかその傷は……」


「……コレははぐれたウェアウルフにやられたものだ。あいつらは群れを必要としない個体、つまり一頭で十五匹分の強さがある。……だから絶対に戦うんじゃないぞ」


 そう強く強くルシウスは言い放った。


 ◇◇◇◇


 次の日には、俺たちはちゃんとウェアウルフを簡単に討伐できるようになった。

 やっぱり自分たちは強いのでは?と俺たちは思った。ルシウスはまだまだと言っていたが。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る