第2話 戦闘実験【ウェアウルフ】

 次の日、俺は〈割合化〉のテストを兼ねて近くの魔物と戦う事にしてみた。


 木の上から周囲を一望して魔物を探してみる。すると案外近くに魔物が一匹はぐれているのかは知らないがいた。草原の茂み、あまり高くない草木の中にそいつはいた。


 よく見るとソイツの頭の上に魔物名と思しき奴が表示されている。


「……【ウェアウルフ】オオカミ型の魔物。しかしあの様子……はぐれているのはチャンスだな。よしやるか」


 アレクは武器を構えて走っていく。転移前の自分より圧倒的に高い身体能力を活かして、すぐに【ウェアウルフ】まで辿り着いた。


「ウォォオオンンン!!」


 どうやら鼻が利くようで、すぐにこちらの接近に気がついたようだ。まあ隠れてすら居なかったし隠れる気すら毛頭無かったからね。


「さぁて、実験体一号は君に決めたぞ」


 ちょっと悪役身のある笑みを浮かべながらアレクは剣を構える。


「グルルルルルル……」

「さぁて……かかってこい……」


 二体はじりじりと牽制をし続ける。そして最初に動いたのはウェアウルフの方だ。


 鋭い牙を突き立てて腕を噛みちぎらんとする勢いで噛みつき攻撃をアレクに放つ。しかしそれをアレクは平然と避けるのではなく、


「───ッ!……なるほど、な!!……これがHPの1%を喪失した気分って奴か!」


 その時俺が感じたのは、大切なものが失われるような感覚。分かりやすく言うとのような感覚。

 ……分からない人に向けて言うと、荷物を抱えて階段を降りていた時に段を一つ飛び越して降りてしまった時の"ひゅっ"という感覚が近いかもしれない。


 しかしウェアウルフの攻撃を腕でガードしたというのに、腕からは血も何も出ていない。


 アレクはすぐに武器を振りかぶるのではなく、突き立てる。全力で思いっきり突き立てたそれを受けてウェアウルフは後方に吹き飛ぶ。


「……やっぱり全く減ってねぇな」


 だが当然ではあるが、HPは1%しか削れない。故に再び俺は先程とは異なる力加減で攻撃をウェアウルフに当てる。

 だが俺の攻撃は、さすがに読まれていたのかあっさりと躱された。


 それでも僅かにかすったようで、ほんの少しだけウェアウルフのHPバーから光が消えた気がした。


 再びアレクとウェアウルフはじりじりと間合いを詰めていく。どちらも直ぐさま体勢を立て直しながらの殺陣である。


 今度はアレクの方から最初に仕掛ける。

 アレクは体勢を立て直す時に地面から拾った石を投げつけたのだ。


「……ギャワン!?」


 小石程度のサイズのそれがベシベシっとウェアウルフの目に当たる。

 少しだけ点滅したHPを見て、アレクはやはり、と確信していた。


 ◇◇


 俺の【割合化】はおそらくだが、俺の攻撃と認識したもの全てに作用するのではないか?そう俺は昨日の夜考えたのだ。

 城で戦った際、自分が放った剣には勿論その効果があった訳だ。

 それは自分が自分の体で殴っている訳では無いはずだが、それにもちゃんと効果が乗っている。


 ……となれば俺が攻撃として発動させたもの全てにその効果が乗るのではないか?

 もしそれが乗るのであれば、俺は弓を使ったり遠距離から魔法……待て?この世界魔法はあるのか?

 まあいい、遠距離武器との相性が良くなる訳だからな。そしたら安全距離から狙撃しまくれば最強になれる訳だしな。


 ◇◇


 ……そんな仮説を立てて実際にしてみたところ、しっかりと小石でダメージを出せていた。


 アレクは再び小石を投げつける。すると今度は──、


「?ダメージが発生していない?……おかしいな、さっきやった時はダメージ入ったのに」


 何故かダメージが発生していなかった。

 そしてその僅かな隙を狙ってウェアウルフはアレクの足を噛みちぎろうとした。


「ッ!……やっぱりタマヒュンだよこれ!」


 当然ではあるが、噛み切られる等のことはなく俺はすぐに転がってその場を離れる。

 ……ここまで俺が食らったのは二発……そしてウェアウルフに当てたのは三発……つまり俺の勝ちって事だ。


 俺は今度は少し大きめの石を拾って、下手から投げつける。

 先程と投げ方を変えてみるという訳だ。


 アレクが放ったアンダースローの石は、ウェアウルフの顎に当たり、HPバーを点滅させた。


「!今度はダメージが入ったぞ?……何が違う、やはり石のサイズ……か?それとも場所?……」


 アレクが再び考え込むと、直ぐさまウェアウルフが今度は突撃攻撃を行った。

 ドカン!という音がしてアレクは後方に吹っ飛ばされる。


「……う゛……なるほど、牙じゃダメだと判断したって訳か、だがお前の攻撃はだいたいわかってきたぞ」


 そう言いながら、アレクは二回タマヒュンを味わっていた。

 突撃のダメージと、突撃されて木にぶつかった瞬間のダメージの二つである。


「……なるほどな、間接的なダメージも換算されるって訳か!……なら尚のこと都合がいいな!!」


 どうやら直接殴る以外にも、殴られた対象物が何かに当たったり刺さったりして発生するダメージにも俺のギフト〈割合化〉は機能するようだ。


 ……ならこっちの方が早いな。


 俺はすぐに戦い方を変える。

 腰を低く落として、剣を地面に刺し……ウェアウルフをじっと睨みつける。

 そして俺は───、


 と背を向けて逃げようとする。すると当然隙を見せたと勘違いしたウェアウルフがそのまま噛みつきをしてくる。


 アレクはそれを右手で受けながら、でウェアウルフのを掴む。

 タマヒュンを味わいつつも、アレクはそのまま勢いのまま木にウェアウルフを叩きつけた。


「キャン!!」


 そしてそのまま俺は尻尾を離すことなくぐるりと体をねじって、再び木に叩きつける。


 既に二回それをした事でウェアウルフから2%HPが喪失していた。

 さらに俺は木に叩きつけられた衝撃で脳震盪を起こしたのか分からないが、ふらふらしているウェアウルフに向かって馬乗りになりながら拳を叩き込む。


「…………キャ……ワ…………ワ……ン……」


 ひたすら顔を殴る。殴る度にHPバーが点滅し、その緑の残量が減少していく。そして体に力が入ってきたと感じた瞬間に再び木にぶつける。

 そしてそれをひたすら繰り返して行った。途中から拳が痛くなったので近くにあった尖った石を使ってそれをやり始めた。


 ……やがてしばらくすると、「キューーーーン」と甲高い悲鳴をあげて、ウェアウルフの肉体が消滅した。

 その直後、俺の耳元で"ティティーン"!!と煩い音が鳴り響いた。


「……これでやっと一体……か。…………なんとも言えんなあコレは」


 俺は倒した達成感以上に、今後の労力を考えて空を見上げるのであった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

【アレク・ロード】16歳

【レベル】2 NEW!

【HP】B

【基礎総合ステータス】B

【魔力】B

【ギフト】〈割合化+〉 NEW!


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



 ……?レベルが追加された?そして何か〈割合化〉の横に+って表示されてるんだが、コレは一体?


 ……俺は不思議な事に驚きつつも、次の相手を探すために再び木の上に登るのであった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 ……補足を一つ。アレクの中の人は死にゲー大好きなオタクである。


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