第1話 衝撃の弱さ

「それではここに皆様1人づつ入ってくださいませ。そしたら魔物が現れますので……それを討伐していってくださいませ」


「な、いきなり魔物と戦えってのか?自分の能力も分からないのに!」


「はあ、もう何度言っても理解して下さらないのですね。名乗れと言っているのですが?」


 さっきから質問する度にあの王女様はイライラっとした表情を隠していない。多分だが俺たちの立場はあんまり高くないんだな……と俺は何となく察した。


「【ダン・ルー】です!……自分のギフトを判別するために魔物を倒すんですか?」


「そうです。魔物を倒す事で自分の存在価値……まあレベルとも言いますがそれが上がります。するとその際に初めて自分のギフトが判明するのです…その際に【アタッカー】【サポーター】【タンク】と表示されると思いますので、それにあった武器をその後見繕いますわ。…わかりましたか?ではさっさと始めてください。……魔物は基本襲っては来ませんが、一応武器はそこら辺に置いてあります、好きに使ってくださいませ……あと倒したら次の階層の門が開きますのでそちらにお進み下さい…制限時間は30です…では……開始」


 俺たちはすぐさまその小部屋に入っていく。ちょうど30人分も小部屋をよく用意してあるなぁ……と俺は思いながら武器を見る。


「ブロードソード……うぉすげ、結構重いんだなコレ」


 俺はブロードソードを構える。すると門が開いて中から魔物がぽこん、と現れた。


「スライム?……まあファンタジーの定番だけど……行くぜ!!」


 俺はそうして武器をずるずると引きずって殴り掛かる。

 スライムは半透明な水色のぷにぷにした魔物だった。それは全く動くことなく俺の攻撃を受ける。


 そして…………ばちん、ぶにんと弾かれた。


 すると俺の視界に何かが表示される。


「緑色のゲージ?……まさかコレはこいつのHPバーってことか?……ん?今俺攻撃したよな?もしHPなら……?」


 何故か全くダメージ表記がされない。不思議だと思いながら俺は再び殴る。

 同じようにぽこん、と音がしてスライムがめをばってんにする。可愛い。

 じゃなくて……え?固くねこいつ。


 ────しばらくした後、俺は一人唖然とする。


 あの緑色のゲージはHPであっていた。しばらく殴り続けたら本当に極わずかに減少して言ったからね。

 それに合わせてスライムは必死に逃げ回る。その速度は微妙に早くて俺は何度も空振りした。


 そうしてしばらくして、ついにスライムの上のゲージが見えなくなった。

 途端にスライムは"きゅう〜〜"と鳴いて消えていった。


「…………はぁ、はぁ……はぁ……や、やっと倒した……強い、強かった……絶対こいつ間違って配置した強敵だろ!」


 ちなみに俺は運動なんて体育でしかやらんタイプだ。おかげで既に息が絶え絶えになってしまっていた。

 そしてピロリン!ティティーン!!と耳元でなにかが鳴った瞬間……。


「そこまでですわ!皆様お疲れ様でした」


 そんなアナウンスとともに俺たちは小部屋から出されることになった。


 ◇◇◇


「皆様ご苦労様でした、これにて試験は終了でございますわ!……しかし今回の転移者の方々は……実に素晴らしいですわね!!」


 そう言って王女様は満足気に微笑む。その笑顔に何人かの男子がやられたようで、黄色い声が挙がっていた。


「……何より【ブレイブ・エース】様……貴方様は実に素晴らしいですわ!……まさかギフト【勇者】を手にしていただなんて!!……何よりスコア……」


 そういうと、姫さんの口が釣り上がる。それは多分興奮しているからなのだろうね。


「……スコア、82……素晴らしいですわ!!!」


 ?!82階層?……え、30分で?……バケモンじゃん。と言うかあれだろ、あいつが主役だろどうせ。


「それだけではありませんわ!他にも【スターズ・ミラン】様が71階層、【ミスリル・カムラ】様が65階層【カエデ・ナナ】様が55階層……そのほかの皆様も15階層までは概ねクリアしていますね!素晴らしい!!」


 みんなはどうやら褒められたことに喜んでいるのだろう。実際今呼ばれた人達の元に何人も集まっているし。


「……コホン、まあ中には戦闘能力を持たないサポートの人もいましたが……そうですねそれでも………………三階層までは何とかたどり着けたようですね。素晴らしい」


 あれ?俺は特に評価されないんだな。と言うか多分スライム硬すぎるやつを置かれていたって事を教えてあげないと。多分ミスだしコレ。


 ◇


 そうして俺は浮かれている奴らの間を通って王女様に声をかける。


「あの……」


「誰ですか?一体いつ私に喋りかけて良いと?」


「すみません!【アレク・ロード】と申します……あの、試験内容なのですが……私の所の魔物……配置ミスしてましたよ?……なんと言うか硬すぎて全く勝てなかったんですが」


「……ちなみにどれぐらい時間がかかったのですか?」


「30分かけてやっとあのスライムを一匹……やっぱりミスですよね、あれ……」


「………………は?」


 あれ?違うの?なんかすっごいおかしいこと言ったのかな俺。


「……あの?」


 静かに息を吸うと、王女様は途方もなく大きな声を上げる。


「ス、スライムに30分もかかった……?!弱すぎませんか貴方!?攻撃力皆無なヒーラーですら10分あれば倒せるのに?!」


 大声で叫んだ後、すぐにどこかに走っていった王女様。そして俺はただ唖然とする他無かった。


 ◇◇◇


 ちなみに俺以外の人は既に大広間にて宴会に参加しているらしい。

 どうやら俺だけ何か不具合があったのかな?少し待っていてくれと言われたんだよね。


 そして戻って来た王女は手の中に何かの袋と、カードを持っていた。


「……【アレク・ロード】、貴方は正直いっておそらく役に立ちません。……あのスライム如きに30分もかけていてははっきり言ってゴミカスです。7歳の子供ですら15分で倒せます。そういう話なのですコレは」


「……つまり追放……処分ですか……?」


「えぇ、はっきり言って魔族が攻めてきているこの時期に呼び出した異世界人には即戦力を期待しているのです。だからあなたのような【アタッカー】のくせに火力が低すぎる人を育てる余裕は我が国にはありません。……勝手に呼び出した側として失礼だとは思っていますが、あなたに追放処分を下します」


「……そうですか、分かりました。……まあ当然ですよね、あの後皆からも「お前弱すぎるって」「ヤーイ雑魚!」「貧弱野郎」とか罵られましたし……こっちが弱いのはわかっています。まさか自分でもスライムに30分かかるとは思わなかったので」


「……せめてもの償いと言いますか、餞別の品です。……手切れ金とギルドカードだけ渡しておきます……ここから好きに生きるのもよし、労働してお金を貯めて成り上がるもよしです。……本当は私達としては異世界人を戦力に数えれないことは避けたかったのですが……申し訳ありません」


 ……なんと言うか、あまりにも冷静に静かに話されたことが逆に自分の状況を明らかにしている気がした。


 まあそりゃそうだ。魔族とかいう奴と戦争中で、切り札として呼び出した奴がスライムに30分かかってたら流石に頭を抱えるよな。


「……それではギルドカードの使い方を書いた紙と……そうですね、服をお渡ししてのご挨拶となります。……それでは良き人生を」


 ◇◇◇



 誰一人としてクラスメイトは来なかった。まあ良いけどね、別に俺が居なくてもチート野郎ばっかだったしどうにかなるし。


 俺以外の全員すげぇチートギフトばっかだったし、それを踏まえるとあの中に必死に食らいついて自分の弱さで絶望するよりはマシだよな。


 そんな事を思いながら、夜の王城から街までの道を俺はふらふらと歩いていった。


「…………そう言えば、俺ギフト貰ってたっけ?見てなかったけど……何だろうな」


 野宿しながら、俺はふと思い出したのだ。自分のギフトを確認していなかった事に。


「……えっと【ギフトオープン】?……」


 そうして俺は初めてギフトを見た。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

【アレク・ロード】16歳


【HP】B

【基礎総合ステータス】B

【魔力】B

【ギフト】〈割合化〉


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 ……?割合……化?


 俺は自分のギフトをもう一度確かめる。そこには紛れもなく割合化と書いてあった。


 俺は震える手でそれの内容を把握する。

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

【割合化】……攻撃と防御、その全てが割合に変化する。

 自分からの攻撃の場合、命中時に相手のHPの〈1%〉を削る。同様に相手からの攻撃が自分に命中時自分のHPを〈1%〉削る。


 この効果はレベル差を無視し、防御や相手の特殊能力を無視する。

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 ……コレは……つまり?


 100回相手を殴れば必ず相手を殺せるってこと?

 ……またその逆も然りと。


 チートギフト……か?コレ。


 いや確かにどんな相手でも100回殴れば殺せるのはすげぇけど……逆に雑魚でも100回殴らないといけないんでしょ?


 ……強いかこれ?


 俺はただ、頭を抱えることしか出来なかったのである。

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