サキュバスちゃんは約束をする

「ところで、あなたはどうして女性が苦手に? いいじゃないですかっ、教えてくださいよぅ。……ええっ? 幼少期に女の子たちから執拗に追いかけられたっ? それと、小学校の時、隣の席の子にいじめを受けたトラウマから、中高は男子校……大学は理系で男子ばかり、ですか」


「確かに、今のお仕事も男性が多いみたいですしねぇ。え? なんで知ってるかって? まぁ、そのくらいのことは知っております。(耳に口を寄せ)お仕事してる時のニンゲンさん、素敵ですし❤」


「んふふ、見てましたよぉ! 声を掛ける前、私、ずっとあなたのこと追いかけてましたもん。一生懸命お仕事してるところ、かっこいいなぁ、って!」


「あ、やだっ、照れちゃいましたっ? うふふ、お顔が赤いですよぉ?」


「……あ、睨まないでくださいよぅ。馬鹿にしてるんじゃないですっ。私の言葉で照れて赤くなってるあなたの顔見てると……うふふ、なんだかゾクゾクしちゃうだけですぅ!」


「──でも、そんな幼い頃の嫌な思い出にずっと捕らわれているだなんて、可哀想です」


「どうしたら女性への不信感、なくなるのでしょうか……」


「そう……ですよね。そんなに簡単にはいかないですよね。でもっ、私とは普通にお話してくれるじゃないですかっ、それってもしかして、」


「へ? 私は人間じゃないから、ですか? あ~、えっと、サキュバスは大丈夫ってこと? ああ、そうですね、しっぽありますからね!(ノリノリで)」


「ってぇ! 違いますよっ? しっぽがあるからって、わんこではないのですよ私!」


ノリ突っ込みに、思わず吹き出すニンゲン


「……ふふふ。え? 怒ったり笑ったり忙しいな、って。だって、あなたが笑ってくれたから! ……私、自分で思ってる以上にあなたのこと……好きみたいです。えへへ」


「はいはい、そうですね。いいですよ. 今は信じてくれなくても。これから少しずつその気にさせてみせますから!」


「間に合うのか、って、それは言っちゃダメですぅっ。試験最終日まで時間はありませんけどっ、でも頑張るのです!」


「困った顔しないでくださいよぉ。そりゃ、あなたはいきなりサキュバスなんかに絡まれて大変かもしれませんけどぉ」


「……でしょ!? ですよねっ、非日常もたまにはいいですよねっ? そう言っていただけると私も少し安心しますっ」


「それに、私と接することで、女性への恐怖感が少しでも和らいでいったらいいなって、思ってるんですよ。世の中、意地悪な女性ばかりではないですから」


「あなただって人並みに女性とお付き合いしたりデートしたりしたいのですよね?」


「……いいことを思い付きました!! 明日、デートしませんか? お仕事はお休みですよね?」


「いいじゃないですかっ、行きましょうよ、デート! 映画を見て、お茶を飲んで、街をぶらぶらして、夕飯を食べて、夜景を見るんです! はぁぁ、素敵!!」


「一人で盛り上がるなって? あはは、ごめんなさい、楽しくなっちゃって! 映画、なに見ましょうか? えっと、どれどれ……(携帯を出し調べる)アクション系、ホームドラマ系、ラブストーリーにアニメ、色々ありますけど、やはり恋人たちが一緒に見るなら……ホラーでしょうか?」


「ふぇ? 話がぶっ飛んでる? そんなことありませんっ。ホラーを見てどさくさ紛れに手を握ったり抱きついたりするのがデートの醍醐味! ……あ、手の内見せるようなことを、私ったら!」


「ホラー……ですか? 見たことありません。大丈夫なのかって……いやですよ、私はサキュバスですよ? 人間が作ったホラーくらい、見られるに決まってるじゃないですかぁ!」


「そんなもんか、って……ええ、そんなもんですっ。それで、映画が終わったらお洒落なカフェで昼食をとりながら映画について語り合ったり考察したりするんです! あ、私もそう思った! なんて言いながら。ああ、楽しそうです~!」


「それからウインドーショッピングですよ! あの服、あなたに似合いそう! なんて言いながら服を合わせてみたり。あわよくば、お揃いでTシャツ買っちゃったりなんかして。きゃ~!」


「それでそれで、夕飯は少しいいお店に行くんですっ。ワインなんか飲んで、酔っぱらっちゃったりして、いつもより饒舌になるあなたに、私はドキドキしながら耳を傾けて……ああ、普段知れないあなたの一面が見られたなぁ、なんて幸せ噛み締めて」


「極めつけは夜景ですねっ。二人で夜景を見ながら今日一日の楽しかったことを語り合って、お酒のせいで足元のおぼつかない私を『おい、気を付けろよ』とか言いながらあなたが支えてくれたりなんかして、それで、二人は見つめ合って……(小声で)キスをするんですっ。ひゃぁぁぁ!」


「……あれ? 私の話、聞いてます? ちょ、なんでテレビなんか見てるんですかぁ!」


「酷いですぅ。私がこんなにも妄想で楽しんでいるというのにっ」


「まだ行くとは言ってない? そんなぁ! もう私は行く気満々で、脳内シミュレーションまでばっちりなんですよぉ? いやですぅ! 絶対行きたいぃぃぃ!!」


「駄々をこねるな? 駄々はいくらでもこねますよ! あなたがOKするまで! いつまでだって駄々をこねます!」


「子供か、って……。ええ、ええ、私はお子様ですぅ! 自分の欲求を満たすためなら手段を選ばず押し通してみせまっ」


「え? 今……なんて? ええっ? ほ、本当ですかっ? ひゃぁぁ! やった~! 嬉しいですっ、ありがとうございますっ!」


「デートですね、デート❤ え? 私が煩いから仕方なく? えへへ、いいんですっ。それでも明日デート出来るなら!」


「じゃ、駅で待ち合わせましょうねっ。十時集合ですよっ。ああ、楽しみだなぁぁ。何を着て行こうかなぁ。晴れるといいなぁ。……え? 遠足前の子供? んもぅ、またそうやって子ども扱いをっ。ペットの次は子供ですかぁ?(むくれる)」


「では、明日また会いましょうね!」



~続~

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