サキュバスちゃんはハグをする

靴音が近付き、止まる。鍵を回しドアが開く音


「おかえりなさーい! えへへ、待ってました。え? どうやって入ったかって? そりゃ、私サキュバスですから、どうとでもなるんですよ。不法侵入? あああ、待って! 警察は呼ばないでくださいぃ! だって昨日約束したじゃないですかぁ! 明日、また、って!」


「あれは約束じゃないって? そりゃ、私が一方的だったかもしれないですけど……。ま、そんなことより早く上がってください! ご飯、作ったんですよっ!」


「へ? 台所がぐちゃぐちゃ? ああ、それは後で私が片付けますからっ。ね? ささ、どうぞどうぞ!」


中に入ると、とんでもない料理が並んでいる。


「へへ、頑張っちゃいました! 私、お料理とかしたことなくて……。さ、食べましょ!」


席に座る。


「いただきまぁす! はむっ……ん……うげぇぇぇぇ、まっずぅぅぅぅぅ!!!!」


「……不味い……ですね」


「……ごめんなさ、ちょ! 食べちゃダメですっ!」


「ですよね。酷いですよね、これ……(涙目)」


「え? ちょっと、なにをっ」


台所で何かをする音。


「……私、本当に何やってもダメです。落ちこぼれなんです。みんなが簡単に出来ることでも、私には出来なくて。一生懸命なだけじゃダメなんだ、って、結果を出さなければ意味がない、って、みんなにそう言われて」


「サキュバスの最終試験だって、簡単な方法もあるんですよ? ランダムに選ばれた殿方ターゲットのところに行って、眠らせて、その隙に、とか。でも私はそういうの、嫌で……」


コト、と皿が置かれる


「え? これ……」


「アレンジ? さっきの不味い料理を、ですか? ……ああ、いい匂い……美味しそう」


「食べて……いいんですか? い、いただき……ます。はむっ……んんん!!!!!」


「お、おおおおおいひぃぃぃ!!」


「はむっ、あむっ、モグモグ……す、すごいれふ! とてもおいしいれふ!!!」


「んぐっ、ふっ、ごくん。ふぅ。お料理上手なんですねっ! え? 普通のチャーハン? そんな! これはとんでもなく美味しいチャーハンです! あなたの手料理が食べられるなんて……はぁぁ、幸せだぁぁ……」


「ハッ、私ったらこんなっ。胃袋攻めてあなたに好きになってもらおうって思ってたのにぃぃ!」


「……え? 美味しそうに食べる顔……かっ、かか可愛い!? ひゃぁぁぁぁぁ!!!」


「ちょ、なんであなたが照れるんですかぁ! 私だって恥ずかし……あの、もしかして私のこと好きになっ……、」


「ですよねぇ。そんな簡単にはいかないですよねぇ……」


「あ、冷めちゃう前に食べましょ! うふふ、こうして一緒にご飯が食べられて、とぉっても嬉しいです!」


食事終わる


「あ、片付けは私がやりますよっ。だって、料理で全然活躍できなかったんですもの。このくらいはしなくちゃ!」


「えへへ、こうしてると私たち、新婚さんみたいですねぇ」


「ああんっ、そんなすぐに否定しないでくださいよぅ。せっかくその気になってたのにっ」


「……やっぱり、家庭的な女性がお好きなのですか?」


「うう……そうですよね」


「へっ? 好きになった人が好みって、そ、そそそそれってっ、私にもチャンスがあるってことですよねっ!?」


「……黙らないでくださいよぉ。そもそも、あなたはどうして女性が苦手なんですか? もしよかったら、話してくださいません?」


カサコソ動く音


「え? ゴキ……うぎゃぁぁぁ~!! G! Gがぁぁ!!(抱きつく。ニンゲンの悲鳴)」


「いやっ、こっちこないでっ。ああっ、いやぁ! そんな目で見ないでよっ。いやゃぁぁぁ! きちゃいやぁぁ! Gは無理ですっ、無理ですぅぅ! 俺から離れろって? それも無理です~!!」


ドタバタと騒がしい音 窓を開ける音


「ふぇ? 逃げた? 外に……?」


「はぁぁぁ、焦った……え? あ! ひゃぁぁぁ! いつの間に抱きついてっ、私ったら私ったら!(慌てて離れる)」


「すみませんすみませんっ。……でも……どさくさ紛れに、んふふ、ハグしてもらっちゃった❤」


「ああああ、帰れって言わないでくださいよぉぉ! えーん」



~続~

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