サキュバスちゃんは上がり込む
ハァハァと肩で息をしながら
「そんなに早くっ、いっちゃやだっ」
「はぁ、はぁ、私っ、こう見えて……ふぁっ、あっ、体力がっ、なっ、ないん……ひゃぁ!」
びたーん、と転ぶ。
「痛っ……うう、」
「……え? あ、戻ってきてくれたん……ですか? あの、」
「そんなっ、あなたのせいなんかじゃないですっ。私が勝手に追いかけて転んだだけなのでっ」
「へ? 怪我? ……あああああ、血が出てるぅぅぅ。ふぇぇぇん、痛いぃぃ」
「えぐっ、ふぃっ、私っ、なんでこんなに鈍臭いんだろうっ。うう、こんなんだからいつまで経っても卒業試験に合格できないんだっ、ふぇぇぇん」
「……ひっく、なん、て? 今、なんて言いましたっ?」
「ふぇぇ!? おうちに、ですか? 私、あなたのおうちに行ってもいいんですかぁぁ!?」
しーっ!という声
「ああああ、大きな声出してごめんなさい。だって、だってすごぉく嬉しくてつい、」
「怪我? ああ、そうだ血が出てたんだぁぁ。優しい……。やっぱり私の目に狂いはなかったんだっ。……んふふ、あ、いえ、こっちの話ですぅ」
「イタタタ、ほんと、派手に転んじゃいました。恥ずかしい……。えへへ、腕、掴まってもいいですか? え? 駄目? ……女性が、苦手っ? そうでしたか。苦手なのに、私を助けようと……(照れる)」
階段を上る音。鍵を開け、ドアを開け、閉める。
「うわぁ、ここが魔法使いさんのお部屋……え? 魔法使いじゃない? ああ、そうでしたっけ。ただのニンゲン❤」
「え? わ、私……ですか? いえいえそんなっ、私なんてただの名無しのサキュバスで結構ですっ。……え? 呼びづらい、ですか。……へぇぇ、呼びたいんですかぁ? 私の、な・ま・え❤」
「あっ、あああ、そんなっ、怒らないでくださいぃぃ、ちょっとからかってみたくなっただけなんですぅ。……それに、名前はありますけど、自分から名乗ることはできない決まりなので。え? なんで、って……真実の名って、そう軽々しく公開できないんですよ。言葉には力が宿ってますから」
「だからあなたも、名前を名乗ったらダメですよ! あなたはただの、ニンゲンさんなのです❤」
「……へ? コート脱いで、って……あの、もしかしてもうその気になってくれっ……ああ、膝でしたか。そうでしたね、流血してたんだ、私」
「……それって、消毒薬……ですよね? あああ、沁みるやつっ、痛いやつっ、怖い怖い! やっぱりいやですぅぅ。逃げるなって言われても、だって、きゃっ」
ドサッと倒れる音
「ふぇぇぇぇ、お、おおおおお押し倒されたぁぁ。きゃぁぁ(照れる)」
ザッ、とニンゲンが退く
「ああん、せっかくいい感じだったのにぃ……ちょ、やんっ、いたぁい! いきなりかけるなんてなしですよぅ。ふぁぁぁ、いたいぃぃ。しっ、沁みますぅぅ! 」
「ふぇぇん、痛かったですぅぅ。いきなりなんですもん。心の準備ができませんでしたぁっ」
「え? あ、違いますっ。怒ってなんかないですよぅ。だってあなたったら、女性が苦手なのに見も知らぬ私を家まで連れてきてくれて、こんなに優しく治療までしてくれて……」
「で? って……、えっ? 私の話、聞いてくれるんですかっ? ……仕方ないから、って……ああ、本当にありがとうございます! 嬉しいですぅぅ!」
「じゃ、順を追ってお話しますね。まず、私はサキュバスの母とぬらりひょんの父を持つハーフのサキュバスです。要素としてサキュバスの遺伝子が強かったのでこうなっているのですが、その分サキュバスとしての能力が低いんですよね。いまだに卒業試験に合格できなくて……(しゅん)」
「え? 卒業試験ですか? 勿論、人間界で活きのいい男性と『致す』ことですよぅ。出会いから致すまでの時間もですけど、どれだけ満足させられるか、っていうのも点数に加算されるんです。それで、お相手を探していたわけなのです!」
「え? 誰でもいいのかって? 違いますよっ! 私はあなたがいいって思ったから声を掛けたんですっ」
「あの時、あなたに声を掛けてもらって、すごく嬉しかったから……」
「声掛けたことなんかない、って? ああ、そりゃ、この姿であったのは今日が初めてですもん! あの時は私、鳥に擬態してました。なんか、カッコいいなぁ、って思って擬態してたんですけど、他の人間たちは擬態した私を怖がったり、追い払ったり……。あんなに黒くてカッコいいのに!」
「そんな中、あなただけが、私に優しく声を掛けてくれたんです。おはよ、って!」
「あれ? なんで赤くなってるんです? カラスに挨拶する痛い奴?? そんなっ、私はそんな風には思ってないですぅ! 特殊な状態で三十歳を超えた殿方の魔法使い説、私、信じてましたしっ。あなたが私に話しかけてくれたのも、擬態してる私を、私だと気付いたからなのかなって……」
「……夢、見すぎ? ……そうかも、しれません。私はいつもこんな風に甘っちょろくて……だからみんなが簡単にできるようなことも全然できなくて……駄目ですね、ほんと(涙目)」
「……私、最初に致すのはあなたがいいって、そう思って……精一杯の勇気を持って声を……かけたんですよ? 誠意をもって、正面切って向かっていこうって」
「私、声を掛けていただいたあの時から、あなたのこと……」
~続~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます