【ASMR】サキュバスちゃんは致したい

にわ冬莉

サキュバスちゃんは会話する

暗がりで、佇む一人の少女。

足早に歩いてくるくたびれたスーツ姿の男。


「あ、あのっ」


靴音が止まる。


「と、突然、お話すみませんっ、あの、ですね……、あ! 待って待って大丈夫です変な勧誘とかではないのであのっ!」


「……少しだけ、お話聞いていただきたいん……です」


「ひゃっ、あ、ああありがとうございますっ。お仕事終わってお疲れのところ大変申し訳ございませんですっ」


「……あの、立ち話でいいですか?」


「え? いえっ、その、立ってお話するの、もし疲れるなぁ、とかいう感じでしたら、公園のベンチとか、とかぁ、」


「あっ、違うんです、変な意味じゃないんですっ、いえ、変な意味ですけどそうじゃなくてぇぇ」


「……え? 要件ですか? あ、すみませんっ、私人見知りが激しくて、その、上手に人前で話せなくてっ……」


「え? 俺も人見知りだから気持ちはわかる、って……ひゃ~~、嬉しいっ」


「え? 何が嬉しいか、ですか? えへへ。だって、使さんとお話が出来るなんてっ……へ? 魔法使いじゃ……ない?」


男の靴音


「あ、待って! 行かないでくださいっ。わ、わわ私ふざけてるわけじゃなくてっ」


靴音が止まる。溜息の音。


「そ、そうですよね、疲れておうちに帰ろうとしているところに私のような者が話し掛けて足止めをしてしまうだなんて以ての外ですよねっ……」


泣き出す


「ごめんなさい……私、こんなつもりじゃ……。でも、どうしても私、お話しなくては……」


「ああ、お優しい! そんな風に言っていただけると私っ(鼻をすする)」


「コホン。改めまして。私、サキュバスです。伝説の魔法使いであるあなたと――(耳元で囁く)のですっ! きゃ❤」


「…………」

「…………」


男の靴音


「あっ、待って! 待ってくださいぃ!」


靴音が止まり大きなため息。


「そんなさげすんだ眼差しで見ないでくださいっ。え? 痴女? そんなっ、私ごときが痴女だなんてにも程がっ」


「え? 冗談はやめろって? 冗談なんかじゃないんですっ。私サキュバスで……あ、けど実際はハーフなんですよね。母はサキュバスなんですけど、父はぬらりひょんで……えへへ。まさかの組み合わせですよねぇ。父に似てたら私、頭びよ~んって長かったのかなぁ、なんて!」


「え? ふざけ、違いますふざけてなんかないんですっ!」


「そんな普通の恰好したサキュバスはいないって? あ、サキュバスについてはご存じなんですねっ。説明の手間が省けて助かりますっ!」


「私がなんで普通にワンピース姿かといいますと……サキュバスの正装で人間界に、しかも町中に現れたら、逮捕されてしまうからです!」


「そして……こっちが主だった理由なのですが、その……私、あまりグラマーじゃないんですっ。スタイルに自信がなくて。……多分これ、半分ぬらりひょんの血が混じってるせいだと思うんですよぉっ。だって私の母は、それはもう大きくて形の良い素晴らしいお胸を持っていてっ、」


「へっ? 今……なん、て?」


「やだやだっ、今すごいこと仰いましたよねっ。私の聞き間違いでなければっ……俺は小さい方が……小さい方が、なんですかっ。……好き、って言おうとして……?」


「あっ、すみませんっ、そんな、あなたの好みと私のサイズがぴったりだったらなんて思っちゃったりしてっ、ごめんなさいっ、嬉しくてつい妄想をっ」


「え? 嬉しい……です。もし本当にあなたが、小さい胸でも好きって……思ってくださるのなら……(照れる)」


「は? 魔法使いの件ですか? ああ、だって人間の世界では殿使と聞きましたよ? あれ?」


男の靴音


「あ、待って! なんで怒るんですかぁ? 魔法使い、すごいじゃないですかぁぁ! 待ってぇ! まだお話終わってませぇぇぇん! 魔法使いさぁぁん!」


遠ざかる靴音と叫び声



~続~

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