第百十一話 オオワル伯爵家への強制捜査

 結局僕たちを監視していた兵の件で治療どころじゃなくなっちゃったので、ヘンリーさんのいる会議室に戻りました。

 すると、既にスラちゃんとドラちゃんが戻ってきていました。

 二匹ともオヤツを貰っていて、まったりとしています。


「「「戻りました」」」

「お帰り、ちょうど呼びに行こうとしていたんだ」


 資料を手にしながら、ヘンリーさんも僕たちに声をかけてきました。

 たまたまだけど、タイミングはバッチリだったんだね。

 そして僕たちも席について、出されたお茶を飲みます。

 ああ、ドタバタがあったから何だか落ち着きます。

 すると、ヘンリーさんが僕たちに声をかけました。


「証拠を集めたので、これから屋敷に突入する。スラちゃんが奴の執務室に潜入して、どんなものがあるのかリスト化してくれたよ」

「なんというか、相変わらずの早業ですね」

「まあ、スラちゃんだからね。あと、みんなを監視していたものも、もしかしたら今回の件と繋がりがあるかもしれない」


 スラちゃんが纏めたリストの内容は、既に関係者に送付済みだそうです。

 このリストだけで、もうオオワル伯爵を逮捕するだけの証拠になったそうです。

 ヘンリーさんは治療施設での騒動も知っていたみたいで、シンシアさんたちも頷いていました。

 やっぱり僕たちを見ていた兵は怪しいよね。

 そして、会議室に兵が入ってきました。


「報告いたします、兵の準備が完了しました」

「よし、では我々も行くぞ。ブレアと父上にも連絡しよう」


 遂に、オオワル伯爵家へ突入することになりました。

 といっても、肝心の当主が王城にいるので簡単に決着がつくはずだとヘンリーさんは言っていました。

 ということで、僕たちも準備を進めてヘンリーさんの後をついて行きます。


「わあ、とっても大きいお屋敷ですね」

「それなりに歴史のある伯爵家だからな。まあ、今後も伯爵家でいられるかどうかは不明だが」


 馬車に乗って現地に着くと、オラクル公爵家と同じくらいのとっても大きな屋敷がドーンとそびえていました。

 今後の罪次第でどうなるか分からないけど、それは僕ではなく偉い人に決めて貰いましょう。

 ということで、さっそく屋敷の中に入ったけど、門兵も素直に門を開けてくれました。

 更に何もすることなく、オオワル伯爵側が普通に玄関を開けて入る事ができました。

 ちょっと拍子抜けしたけど、その理由は廊下で繰り広げられていました。


「母上、もうおやめ下さい。軍も動いているといる噂です」

「これ以上罪を重ねるのは良くありませんわ」

「うるさい! オオワル伯爵家は伝統のある貴族家です。このくらいのことなんて、何も問題ありません!」


 若い男女が、大柄で派手なドレスを着た金ぴかの女性を止めていた。

 話を聞く限り、どうもこの若い男女が母親を止めようとしているみたいです。

 親子喧嘩を見て思わずポカーンとしちゃったけど、僕たちはお仕事をしないと。

 すると、大柄な女性が僕たちに向かってどかどかと歩み寄ってきました。

 うん、まるでドラゴンがのしのしと歩いているみたいだよ。


「あなたたち、勝手に入ってきてなんなのよ!」


 ブオン、バシン!


 なんと大柄な女性が、手に持っていたバッグみたいなものをヘンリーさん目掛けて思いっきり振りぬいてきました。

 もちろんヘンリーさんの肩に乗っていたスラちゃんが魔法障壁を展開していたので弾かれたけど、バシンって物凄い音がしたね。

 大柄な女性がとった行動に、僕たちも思わず溜息を漏らしちゃいました。


「王国第二王子、ヘンリーだ。オオワル伯爵が行った人事不正介入の件で、強制捜査を行う」

「はっ?」

「強制捜査妨害の現行犯で、オオワル伯爵夫人を捕縛する」

「ちょ、ちょ、ちょっとー!」


 あーあ、現行犯だから言い訳もできないレベルだもんね。

 兵に拘束されて連行されながらも、何か大声で言っているね。

 あの様子だと、連行された大柄な女性は何か知っていそうです。

 すると、直ぐに僕たちのところに若い男女が駆け寄ってきました。


「ヘンリー殿下、その、両親が、オオワル伯爵家がご迷惑をおかけし本当に申し訳ございません」

「母が大変失礼なことをしました。強制捜査を行って頂いて構いません。部屋の開錠が必要でしたら、何なりとお申し付け下さい」


 若い男女は謝罪しながら頭を下げていたけど、どうやら例の人事介入の件で親子で意見が揉めていたみたいです。

 とはいえ、血で血を洗うような事態にならなくて本当に良かった。

 シンシアさんとナンシーさんの二人で話を聞いてもらう事になったので、僕たちは応接室に向かいます。

 ちなみに、オオワル伯爵の関係者と分かっている執事や使用人は拘束されるので、兵が忙しく動き始めています。

 そんな中、僕たちはスラちゃんが潜入した執務室に向かいました。


「さてさて、リストにあったものはこれだな。代官からいくら送ったとかも記載されている」

「あっ、これは僕の生まれた村の名前です。うーん、凄い金額ですね」

「だが、これで我々が直接バンザス伯爵領に向かう理由が出来た。他の領地は金額が少ないから処分を各地の領主に任せることができるが、これだけの金額になると王都に連れてきて直接裁かなければならない」


 ヘンリーさんも頭が痛いって表情です。

 こうなると、あの横柄に振舞っていた地元の三家も王都に連れて行かれる可能性があるそうです。

 うーん、ますます事件が大きくなってきたけど、僕もしっかりと対応しないと。


 ドサッ、ドサッ。


「キュー」

「こんなところからも資料が出て来たか。運んでくれてありがとうね」

「キュキュー」


 その間も、スラちゃんが探し当てた資料をドラちゃんがテーブルの上に乗せていました。

 結構巧妙に隠してあるはずなのに、スラちゃんはどんどんと探しあてていました。

 僕とエミリーさんも、資料運びのお手伝いをしています。

 シアちゃんは、スラちゃんにどうやって見つけているのか聞いているみたいです。

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