第七十九話 ベストリア伯爵家の屋敷に突入

 暫くすると、シンシアさんがスラちゃんに声をかけてきました。


「スラちゃん、悪いけど押収物の収納を手伝ってくれないかしら。ナオ君とドラちゃんは、休んでて良いですよ」


 役目を与えられて、スラちゃんは意気揚々とシンシアさんの後をついていきました。

 例の暗黒杯も魔石を取り外したし、この場では殆どやることがないそうです。

 ただ倒れている人が十人ほどいるらしく、既に軍の兵がこの拠点に向かっているので到着待ちになります。


「しかし、みんなが忙しく動いているのに休んでて良いのでしょうか?」

「キュー」

「ナオは大魔法を使ったばっかりだし、ドラちゃんも長距離飛行をしたよ。休む時は休むのも、大事な仕事のうちよ」


 エミリーさんは、何も問題ないと言ってくれた。

 ドラちゃんはもう一回高速飛翔を行うし、僕も屋敷に着いたら鑑定魔法とか色々行う予定です。

 甘いものを食べて休んだので、体調もいい感じに戻っています。


 パカッパカッパカッ。


 ここで、軍の先発隊が馬に乗ってやってきた。

 責任者と思われる人が、馬から降りてエミリーさんに挨拶しました。

 僕もドラちゃんも、思わず立ち上がりました。


「エミリー殿下、到着が遅くなり申し訳ありません」

「いいえ、お忙しいところ恐れ入ります。拠点の無力化は無事に成功しました。しかしながら、邪神教の関係者と思われるものが十名ほどおります。順次軍の施設へ連行して下さい」

「はっ」


 おお、エミリーさんがいつもと違ってとても凛々しくしているよ。

 キビキビとした対応に、僕とドラちゃんも思わず背筋が伸びちゃった。

 王族のエミリーさんも、とっても素敵ですね。

 そして、指揮官は一軒家の中に入って行きました。

 きっと、ヘンリーさんと話をするんだろうね。


 パカッ、パカッ、パカッ。


 更に三十人以上の兵が、騎馬隊と馬車に分かれてやってきました。

 これだけの兵がいれば、もう大丈夫ですね。

 すると、建物の中からヘンリーさんたちがやってきました。


「よし、ここは軍に任せて私たちは屋敷に向かおう。ドラちゃん、大丈夫か?」

「キュー!」

「お肉をいっぱい食べたから、元気いっぱいだそうです」

「ははは、それは心強い。では、向かうとしよう」


 ドラちゃんもやる気満々だと、ひと鳴きしました。

 そして、さっそく大きな姿になります。


 シュイーン、ぴかー!


「グルアー!」

「「「おお!」」」


 ドラちゃんが大きくなると、兵からものすごい歓声が上がりました。

 やっぱり、間近で見るととても大きいよね。

 でも時間がないので、僕たちは直ぐにドラちゃんの背中に乗ります。


「では、我々は屋敷に向かう。後は任せた」

「はっ、お任せ下さい」


 バサッ、バサッ、バサッ。


 現場の指揮官がヘンリーさんに敬礼し、ドラちゃんは一気に飛び立ちました。

 目的地は分かっているので、ドラちゃんは迷わず飛び始めました。


「ヘンリーさん、建物の中はどうでしたか?」

「スラム街にあった拠点とほぼ変わらない。ドアは目隠ししてあって、壁は取り払われていた。札もたくさん貼っていたが、暗黒杯に入っていた血は満タンではなかった」


 となると、やっぱり王都スラム街の邪神教の拠点はかなり危なかったんだ。

 でも、なんでこんなことをするのだろうか。

 もしかしたら、あの建物の周辺にあった森も浄化しないと駄目かもしれない。

 邪神教に不快感を覚えながら、僕たちベストリア伯爵家の屋敷の庭に降り立ちます。


 バサッ、バサッ、バサッ。


「う、うわあ!」

「ど、ドラゴンだ!」


 屋敷の庭は軍の兵とベストリア伯爵家の兵が入り乱れていたけど、ドラちゃんが庭に着陸した瞬間一気に形勢が変わった。

 軍の兵は駐屯地の上をドラちゃんが旋回したのもあって全然平気だったけど、ベストリア伯爵兵が一気に怯んじゃった。

 軍の兵は、間髪入れずにベストリア伯爵兵を無効化します。


 シュイン、バリバリバリ!


「「「ギャー!」」」

「まだまだいくわよ!」


 エミリーさんお得意の雷魔法も炸裂します。

 更に、ヘンリーさんとシンシアさん、ナンシーさんも次々とベストリア伯爵兵を無効化していきます。

 その間に、大きなドラちゃんに守られながらスラちゃんが固く閉まった玄関の鍵を開けます。


 ガチャガチャ、ガチャ!


「ヘンリーさん、スラちゃんが玄関の鍵を開けました!」

「よし、突入するぞ! ドラちゃんは、そのままコイツラを牽制だ!」

「グルァ!」


 大きいドラちゃんは迫力満点だから、玄関前に仁王立ちしているだけでもものすごい威圧感があります。

 その隙に、僕たちは一斉に屋敷の中に入り込みました。

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