第七十八話 ベストリア伯爵領の拠点へ

 翌朝、僕たちはいつもの訓練を終えて準備をしっかりとしました。

 浄化だけ行えばいいって言われているけど、もしかしたら戦闘があるかもしれないしね。

 スラちゃんとドラちゃんも、準備万端です。

 そして、しっかりと朝食を食べます。

 特にドラちゃんは空を飛んで高速移動をするので、いっぱい食べないとね。


「おはよーございます……」


 それでも、ナンシーさんはいつも通り眠そうに食堂に現れました。

 僕だったら、緊張して早く起きちゃいそうです。

 もしゃもしゃと、眠そうに朝食を食べるナンシーさんを見て、思わず凄い人だと思っちゃいました。


「「おはようございます」」

「キュー」

「みんな、おはよう」


 軍の施設に着くと、既にヘンリーさんたちは準備万端で待っていました。

 軍の偉い人と打ち合わせをしていて、僕たちが声をかけるとニコリとしてくれた。

 すると、隣にいたシンシアさんがドラちゃんに声をかけた。


「ドラちゃん、今日行く場所の地図よ。一緒に確認してね」

「キュ!」


 ドラちゃんはシンシアさんの肩越しから、飛びながら地図を覗き込んでいた。

 その間に、僕とスラちゃんはアイテムボックスにどんどんと荷物をしまって行きます。

 不測の事態が起こった時用に、野営用のテントや食料に水も持って行きます。

 これで、準備はバッチリです。

 挨拶をするそうなので、僕たちも兵の脇に並びます。

 凄いなあ、二百人は軽く超えているよ。


「本日は、三箇所を同時に捜索する重要なミッションが行われる。それぞれが、とても重要な役割を担っている。大変かと思うが、油断なきよう頑張ってくれ」

「「「はっ」」」


 兵に併せて、僕たちも訓示を行ったヘンリーさんに敬礼しました。

 スラちゃん、ドラちゃん、そしてエミリーさんの従魔のシアちゃんも可愛らしく敬礼ポーズをしていますね。

 そして、それぞれ動き出したので、僕たちもドラちゃんに乗る準備をします。


「キュー!」


 シュイーン、ぽん!


「ギュー!」


 ドラちゃんも大きい体になったので、僕たちも背中の鞍に乗り込みます。

 スラちゃんとシアちゃんも、準備完了です。


「それでは、私たちも出発する。何かあったら、通信用魔導具で連絡する」

「はっ、畏まりました。道中お気をつけて」


 兵がヘンリーさんに敬礼すると、ドラちゃんがバサバサと羽ばたきます。

 そして空高く飛び上がると、一気に目的地まで飛び出しました。


「ヘンリーさん、今日行くところは結構とおいんですか?」

「馬車だったら、間違いなく五日以上かかる。ドラちゃんだと、一時間はかからないかもね」


 ドラちゃんの飛ぶ速さって、そんなに凄いんだ。

 確かに、眼下の景色があっという間に過ぎ去っていきます。

 あまりにも速いから、地上の人は飛んでいるドラちゃんを認識できないかもね。

 そして、出発から四十分が経った頃、目の前に軍の施設が見えてきました。


「よし、ドラちゃん、軍の施設の上を三回旋回してくれ」

「グォー!」


 きっと、この旋回がベストリア伯爵領の領都に軍が向かう合図なんですね。

 ドラちゃんがキッチリと三回旋回すると、軍の施設から兵が出発していきました。

 こんなに大きくて目立つ合図は、他には中々ないですね。


「では、我々も向かおう。もう数分で着くぞ」

「「「「はい!」」」」


 ここからは、僕たちの出番ですね。

 ドラちゃんは再び目的地に向かって飛び出したけど、実際には一分もかからずに目的地に到着しました。


 バサッ、バサッ。


 一見すると、街道沿いにある一軒家の前にドラちゃんが着陸しました。

 しかし、もう異常さが分かりました。


「スラム街で感じた、ものすごい濃密な何かを感じます」

「でも、スラム街の時よりも弱く感じるわ」


 僕の意見を、シンシアさんが補足します。

 確かに、スラム街の時よりも弱く感じますね。

 僕とスラちゃん、それにドラちゃんは魔力を溜め始めました。

 そして、ヘンリーさんにこくりと頷きます。

 ヘンリーさんも、こくりと頷きました。


「では、突撃開始する」

「はっ」


 ヘンリーさんたちも剣を抜き、シンシアさんも今日はレイピアを構えました。

 そして、一緒についてきた近衛騎士が、一軒家のドアを開けました。


 ドーーーン!


「ナオ君、浄化を!」

「はっ、はい!」


 ドアが開いた瞬間、一気に濃密な魔力が吹き出しました。

 黒い霧、もといダークミストが一気に一軒家から吹き出しました。

 間髪入れず、僕たちも浄化魔法を放ちます。


 シュイーン、ぴかーーー!


「な、ナオ君大丈夫?」

「こ、今回は前回よりも平気です。大丈夫です」


 浄化を進める僕たちをシンシアさんが心配してくれたけど、やっぱりスラム街の時よりも平気です。

 もちろんスラちゃんとドラちゃんも大丈夫で、ドラちゃんも小さいままでも平気でした。


 シューーーン。


「ふう、ヘンリーさん、浄化が終わりました」

「よし、では中に入る。暗黒杯があるだろうから、シンシアは集められた血の凍結準備を」

「任せておいて。ナオ君たちは、少し休んでいてね」


 ヘンリーさん、シンシアさん、ナンシーさん、そして近衛騎士が一軒家の中に入りました。

 僕たちは建物の壁によりかかり、エミリーさんの護衛を受けながら休憩します。


「エミリーさん、すみません。ドラちゃんも、お肉を食べてね」

「あれだけの浄化をしたんだから、ナオは立派に仕事をこなしたのよ。堂々と休憩しなさい」

「キュー!」


 エミリーさんは自分は何もしていないと言っているけど、エミリーさんが護衛をしてくれるから僕たちもゆっくりと休めるんだよね。

 ドラちゃんは高速移動もしたし、お腹が空いたのかお肉にかぶりついています。

 僕とスラちゃんも、甘いものを食べています。

 とりあえず、最初のミッションはクリアなのかな。

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