第七十二話 再びの浄化作業
ヘンリーさんは取り調べの立ち合いとかで忙しかったのですが、どうもその取り調べでトラブルが起きているという。
ということで、今日はナンシーさんとみんなとともに軍の施設に向かいました。
「どうも長時間暗黒魔法の影響下にあった為か、未だに洗脳状態から抜けられていない。全員がぼーっとしていて、会話もろくにできないのだよ」
軍の施設でヘンリーさんたちと合流したけど、あのスラム街にあった邪神教の拠点で捕まえた人たちの様子がかなりよくないらしい。
黒い霧を浄化する際に中にいる人も浄化したけど、もしかしたら全て浄化しきれなかったのかも。
実際に検証してみようということになり、僕たちは女性が入っている牢屋の前に向かいました。
「殿下、こちらでございます」
「案内ご苦労」
「……」
牢屋の中には、囚人服を着た若い女性がぼーっとしながら座っていた。
食べたり寝たりは出来るそうだけど、とにかくぼーっとしているそうです。
さっそく、ヘンリーさんの指示でスラちゃんが女性を鑑定しました。
「あっ、スラちゃんが女性は状態異常だって言っています」
「ふむ、やはりそうだったか。では、さっそく浄化魔法を使ってくれ」
自らの仮説が正しいと思ったのか、ヘンリーさんは深く頷いていました。
ここはお任せと言わんばかりに、ドラちゃんが牢屋の前に出ました。
シュイン、ぴかー!
「キュー!」
聖魔法独特の黄色っぽい光が、若い女性を包みます。
すると、ドラちゃんの浄化魔法が効いたのか、急に目をパチクリとしていました。
「あれ? ここは? えーっと、私は何をしていたのかしら……」
突然スイッチが入ったかの様に、女性はキョロキョロと辺りを見回していました。
そして、自分がいる場所と服装を見てビックリしていました。
「え、え? こ、これは? 私はどうしてここに?」
「お嬢さん、落ち着いて。あなたは、邪神教の拠点から運び出されたのです」
「えっ、邪神教?」
ここは女性が話した方が良いということで、シンシアさんが女性に優しく話しかけました。
でも、女性は邪神教というキーワードを聞いても、ピンときていません。
うーん、これはどういうことでしょうか?
「もしかして、どこかで自分の思っていることを叶えるとか言われたのですか?」
「えーっと、あっ、そんなことがありました。街角で声をかけてきた人がいまして、軽い気持ちで一回だけ集まりに参加しました。そこからの記憶が、ぼんやりとしていて思い出せず……」
女性の話を聞くと、最初は軽い気持ちで始めたのに、その時点で洗脳状態にさせられたんだ。
そして、邪神教関連のことが思い出せなくなったと。
それほど、暗黒魔法の影響が大きかったんだ。
「事情はまた改めて聞くとして、聖魔法の浄化が効果的だと判明した。悪いが、ナオ君はスラちゃんとドラちゃんと手分けして連行した者の浄化を行ってくれ」
「直ぐにやります!」
「キュー!」
手分けして行えば早く終わるので、僕はエミリーさん、スラちゃんはシンシアさん、ドラちゃんはナンシーさんとタッグを組んで浄化作業を始めました。
人によって状態異常の程度は違ったけど、全力で聖魔法を放たなくても良いのはとっても助かった。
中には怪我をしている人もいたので、併せて治療しちゃいます。
こうして、二時間かけて連行された人の浄化作業が終わりました。
全員が我に返ったけど、やっぱり一部の記憶が欠落している人もいました。
「今はこれでいい。時間が経てば、記憶が戻る者もいるだろう。大半は洗脳状態で邪神教に使われていたみたいだし、数日事情を聞いたら釈放できるだろう」
「さっきのお姉さんは、どこかで勧誘されたみたいな言い方でしたね。きっと、今でも邪神教に勧誘している人がいるかもしれません」
「言葉巧みに、人々を勧誘していたのだろう。そして、洗脳状態にされるから本人としては悪いことをしている認識がないのだろう。これが、邪神教の怖いところでもある」
人々を洗脳して、暗黒杯に血を溜めたり黒い霧の元になるのを作らせていたんだ。
とっても卑怯なやり方で、僕もスラちゃんもプンプンです。
でも、僕は聴取はできないし、後は軍の人にお任せです。
予想以上に魔力は使っちゃったけど、その分効果抜群でした。
軍の施設は王城に隣接しているので、王城に移動して休憩兼昼食を食べることになりました。
「そうか、やはり状態異常だったか。しかし、対応できるならこちらにもやり方はある。先ずは、事情聴取を進めるのが先決だ」
「得られた情報の分析も、優先的に行います。どこかに別の拠点があるのは、間違いないと思っております」
「余もそう思う。とにかく、二百年前の惨事を繰り返してはならない」
昼食を食べつつ、陛下とヘンリーさんが今後の対応を話していました。
もちろん、同席しているジョージさんとブレアさんも真剣に話を聞いていて、時々こうしたらいいのではと意見を言っていました。
「ナオ君、あっちは気にしなくていいのよ。いわゆるランチミーティングなのだから」
「ああなると、みんな白熱しちゃうからしょうがないのよ。せっかくの昼食が冷めちゃうから、私たちは先に食べましょう」
「「もぐもぐ」」
王妃様とマリア様からもしょうがないと言われてしまったので、僕たちも目の前の食事に注力します。
きっと何か決まったら教えてくれるはずだし、僕もアーサーちゃんやエドガーちゃんのようにお肉を食べようっと。
こうして、今日の僕の勇者パーティーとしての活動は終わりました。
でも、アーサーちゃんとエドガーちゃんがお肉を食べながら僕に遊んでって視線を送るので、この後第二回戦が始まりそうです。
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