第六十八話 暗黒魔法と邪神教

 王城に着くと、なんと陛下やランディさんたちも会議室にいました。

 更に、大教会から教皇猊下もやってきました。

 それほど、先程の件が重要ってことなんですね。

 そして、ヘンリーさんがおもむろに報告を始めました。


「あまり良くない知らせとなります。暗黒魔法と邪神教の件についてになります」


 この言葉を聞いた瞬間、特に陛下と教皇猊下の顔が歪んだ。

 でも、僕とエミリーさんはなんのことだか分からないので、まずシンシアさんが暗黒魔法について教えてくれた。


「暗黒魔法は、闇魔法とは全然違うものよ。人の心の奥底にある欲望や願望を、魔法の発生源にしているの。そして、人や動物、それに魔物を操ったり攻撃的にしたりできるわ」

「えっ、それってまさか」

「そう、黒い霧の正体でもあるの。この辺はもう少し詳しく話をするけど、恐らく動物や魔物が攻撃的になったのは暗黒魔法によって生み出された黒い霧のせいだわ」


 闇魔法には色々な魔法があるけど、心を操る魔法は存在しない。

 阻害魔法とは、また違った魔法なんだ。

 しかも、浄化魔法がよく効くということは、明らかに普通の魔法と違った特性を持っているようだ。

 そんな魔法を何で使っているのかを、教皇猊下が教えてくれた。


「王国は、別に宗教を制限しておらん。その土地に根付いた宗教や信仰もあり、教会も無理に信仰させようとはしておらん。しかし、邪神教だけは駄目だ。人の欲望や願望を集め、破壊的な行動を引き起こす」

「もしかして、あの血が溜まっていた真っ黒な杯の事ですか?」

「暗黒杯は、欲望を持った者の血を集める事により、暗黒魔法をより強める効果を持っている。また、あの血を地面に振りかける事により、周辺に黒い霧を発生させることもできる。今から二百年以上前、邪神教を利用した貴族による大混乱があったのじゃ」


 王国を巻き込む大事件が、過去に起きていたなんて。

 これには、僕もエミリーさんもビックリです。

 そのため、邪神教は王国唯一の禁教になっているそうです。

 これを聞いただけでも、既に大事になっていると分かりました。


「元々何らかの原因で淀みがあるところは、暗黒魔法の影響を受けて黒い霧が発生する可能性がある。あれだけ大掛かりな暗黒杯があれば、王都周辺で黒い霧が発生するのも納得できる。更に、暗黒杯に注がれた血を撒けば、淀みがなくても黒い霧が発生する」

「もしかしたら、王都周辺で現れた黒い霧は、意図的に発生させたものかもしれませんね」

「その可能性は高い。そして、地方でも邪神教が広まっていると思った方が良いだろう」


 ヘンリーさんの推測に、僕だけでなく他の人も頷いていました。

 もちろん、王都にもまだまだ邪神教が潜んでいる可能性が高いそうです。


「いずれにせよ、私たちがやる事は変わりない。捕まえたものの尋問を続けつつ、王都周辺の黒い霧を浄化していく」


 ヘンリーさんの方針に、勇者パーティはこくりと頷きました。

 捕まえた人はまだ気絶しているそうなので、尋問は明日からの予定だそうです。


「キュー」


 ここで、僕の横で丸くなっていたドラちゃんが、あることを提案してきました。

 えっと、これは大丈夫なのかな?


「あの、ドラちゃんがもう少ししたら力を全部取り戻すので、そうしたらみんなを乗せて飛べるそうです」

「それはありがたい。この件を調べている際に、昔ドラゴンに乗っていた記録も見つけた。それを参考に、鞍を作らせよう」


 あらら、ヘンリーさんはあっさりとドラちゃんの提案を受け入れちゃった。

 どのくらいの大きさになるかがポイントらしいけど、少なくともスラム街の時よりももっと大きくなりそうです。

 そして、ナンシーさんとエミリーさんは、ドラちゃんに乗れると知ってワクワクしていました。

 僕はこれで席を外す事になり、残った人で細かい調整をするそうです。

 どうしようかなと思ったので、スラちゃんとドラちゃんとともにシャーロットさんのお部屋に行くことになりました。


「ギュー」

「おー! おっきいー!」

「おおー!」


 ちょうどアーサーちゃんとエドガーちゃんもシャーロットさんのお部屋に遊びに来ていて、ドラちゃんがいつもよりも少し大きい姿を見せていました。

 もうアーサーちゃんとエドガーちゃんは大興奮で、大きくなったドラちゃんに抱きついていました。


「今日はドラちゃんが大活躍したらしいし、昼食はご褒美をあげないといけないわね」

「ギュー!」


 大きくなっても、ドラちゃんはドラちゃんです。

 シャーロットさんの提案に大喜びで、笑顔で頬ずりをしていました。

 シャーロットさんも、ドラちゃんを優しく撫でていますね。

 もっとも、いつもシャーロットさんのお世話をしている侍従は、ハラハラドキドキしながら一人と一匹のやりとりを見守っていたそうです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る