第六十七話 強烈な黒い霧と暗黒杯

 僕とスラちゃん、そしてドラちゃんは、走りながら魔力を溜め始めました。

 そして、近衛騎士が怪しい建物の扉を開けた瞬間でした。


 ズザザザザー!


「わっ、これは!」

「強烈な黒い霧だわ。ナオ君、浄化を!」


 突然建物の中から濃密な黒い霧が溢れ出し、少し焦っているシンシアさんは僕に指示を出しました。

 僕たちは、一斉に浄化魔法を建物の中めがけて放ちました。


 シュイン、シュイン、シュイン、ゴアーーー!

 ズガガガガ!


「ぐっ、ぐぐ……」


 強烈な手応えと共に僕たちの放った浄化魔法と、濃密な黒い霧が激突します。

 周囲は光の渦に包まれ、一進一退の攻防が続いています。

 その間に、近衛騎士が周囲の住民を避難させます。

 僕とスラちゃん、ドラちゃんは、周りを気にする余裕すらありません。

 というのも、黒い霧の浄化は出来ているけど、もしかしたら僕たちの魔力が尽きるのが早いかもと思っていました。


「ぐぐぐ、こ、このままじゃ……」

「ナオ君、無理をしないで!」


 シンシアさんの声が響き渡るけど、今更引くに引けない状況になっています。

 ここで何とか黒い霧を抑え込まないと、もっと酷いことになると思いました。

 そして、僕もスラちゃんも、魔力が尽きかけてもう駄目だと思った瞬間でした。


「キュー!」


 キュイーン、ぴかー!


 急に、眩い光がドラちゃんを包みました。

 そして、ドンドンとドラちゃんの体が大きくなっていきます。

 あまりの変化に、僕もスラちゃんもびっくり仰天です。


「グギャー!」


 キュイーン、ズドドーーーン!


 そして、ドラちゃんはなんと二メートル程の大きさまで大きくなりました。

 更に、口から強烈な聖属性のブレスを放ちます。

 すると、一気に黒い霧が浄化されていきました。

 僕は助かったと思い、思わず地面にペタリと座り込みました。

 ドラちゃんは念入りに聖属性のブレスを建物の中に吐いてから、いつもの大きさに戻りました。

 因みに、聖属性のブレスは浄化だけなので建物が燃える事はありません。

 本当に、ドラちゃんのファインプレーですね。


「ドラちゃん、助けてくれてありがとうね」

「キュー」


 座り込んでいる僕のところにやってきたドラちゃんを、僕とスラちゃんで撫で撫でしてあげます。

 ドラちゃんも、気持ちよさそうな声を出していますね。

 その間に近衛騎士が先行して建物の中に入ったけど、直ぐに応援を呼ぶことになりました。

 なんと、広い一室に三十人以上が倒れているそうです。

 しかも、全員が黒いフードを深く被っているそうです。

 もうそれだけでも、怪しさ満点ですね。

 暫くすると、なんと追加の兵と共にヘンリーさんが馬に乗ってやってきました。


「全員捕縛するように。治療は、留置所に入れてからでよい」

「「「はっ」」」


 そして、黒いフードを被って気を失っている人が、次々と拘束されて護送されていきます。

 僕はてっきり全員を治療すると思っていたのですけど、どうも様子が違います。

 しかも、ヘンリーさんは確信めいていたのか、即座に兵に指示を出していました。

 そして、部屋の中に入ったら物凄い光景が広がっていました。


「こ、これは?」

「壁一面に貼られているのは、魔封じの札だ。魔力が外に漏れないように、こうして細工をしていたんだ」


 壁一面に、何かの模様が描かれた紙が沢山貼られていました。

 ヘンリーさんも、もちろん他の人も壁を見て驚いています。

 しかし、何よりも異質だったのは、部屋の中でした。

 炊事場みたいなところは別にあったけど、それ以外は壁が取り外されていて二階建てだと思ったのにもの凄く大きな部屋になっていました。

 床には絨毯が敷かれていて、全ての窓に暗幕がしてあります。

 そして、一番凄かったのが壁際に置かれた祭壇みたいなものでした。


「うっ、凄い生臭いです……」

「これは、まさかの暗黒杯だな。杯に入っているのは人の血だ。ナオ、中に入っている血を凍らせてくれ」


 とても大きな杯で、魔石みたいなのが宝石として飾り付けられていて、並々と人の血が入っていました。

 ヘンリーさんに言われて、僕は杯に入っていた血を凍らせます。

 ちょっと生臭い臭いが、マシになりました。

 すると、ヘンリーさんとシンシアさんが、杯に付いていた魔石をガチャガチャと外し始めました。

 そして、大きな魔石を四つ外すと、急に周囲の空気が変わりました。


「あっ、何だか圧力みたいなのが無くなりました」

「ナオ、室内に充満していた黒い霧を発生させたのは、この暗黒杯だ。魔導具の性質を持っていて、魔石を外すと効果が無くなる」


 ヘンリーさんがこの魔導具について色々と教えてくれたけど、何でここまで知っているのだろうか。

 いずれにせよこれでもう大丈夫らしいので、僕も一安心です。

 現場保護の兵を残して、僕たちは今後の事を話し合う為に王城に行くことになりました。

 そこで、色々な事を教えてくれるそうです。

 僕の知らない何かが、この王国で動いているのは間違いなさそうです。

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