第六十四話 国家反逆罪

「静粛に、陛下がご入場されます」


 急に謁見の間に近衛騎士の声が響き渡り、周りにいる人が一斉に臣下の礼を取り始めました。

 僕もランディさんの真似をして、何とか形を整えます。

 すると、袖口から王族と共に陛下が入場してきました。

 シャーロットさんも、車椅子に乗って入ってきました。

 シャーロットさんの姿を見て一瞬ざわめきが起きたけど、直ぐに静まり返りました。

 陛下も、いつもの親しみやすさと違って威厳たっぷりです。


「皆のもの、面をあげよ」


 陛下の声で、全員が顔を上げました。

 陛下の表情はとても険しく、まるでこの場にいる全員を睨んでいるようにも感じました。

 それほどの気迫を感じます。


「今日は残念な知らせをしなくてはならない。ハイラーン伯爵を、反逆罪ではなく国家反逆罪で裁かなければならなかったのだから」


 陛下の言葉に、大きなどよめきが起きました。

 僕も午前中聞いた話では、反逆罪って聞いていたからです。

 でも、ちらりと見たランディさんは、僕に向かって頷いていました。


「直接の容疑は、余の母上であるシャーロット王太后の殺人未遂だ。これだけでも、反逆罪に値する罪状だ。逃れない証拠も掴んでいる」


 ここまでは、僕も聞いた話だった。

 そして、陛下は一度僕を睨みつけてきた貴族を一瞥してから話を続けた。

 気のせいか、僕を睨みつけてきた貴族は顔が真っ青でダラダラと汗をかいていた。


「屋敷の捜索をした結果、犯罪組織と手を組んで複数の王族を殺害しようと計画していた事が判明した。例として、炊き出しの際に襲撃をかける、ヘンリーを中心としたパーティを王都郊外で襲う、更には毒物を手にして余を殺害するなどだ。エミリーに嫡男を婿入りさせ、次代の王の親戚となる壮大な計画だ」


 この話は、僕も初めてだった。

 しかも、とんでもない話なので再び大きくざわめき出した。

 普通にあってはならない話だし、考えることがおかしすぎます。

 でも、襲撃方法があまりにも具体的だよね。


「ヘンリーを中心とした軍が、分析した情報を元に犯罪組織を壊滅させた。そして、さらなる情報を手にした」


 ここで、陛下が右手をさっと高々とあげました。

 すると、近衛騎士が一斉に動き出し、僕を睨みつけていた貴族を縄で拘束しました。

 拘束された貴族は、既に観念している表情です。


「奸臣の途方もない計画だが、準備段階にあったのは間違いない。きっかけは、ヘンリーのパーティに新たに加入した優秀な魔法使いが母上を治療したことによる」


 一瞬陛下が視線を僕に合わせて、直ぐに捕まえた貴族を睨みつけていた。

 まさに凍るような冷たい視線とはこのことでしょう。

 そして、捕まった貴族が近衛騎士によって連行される際、僕の事を睨みつけた。


「このちびが! 余計な事をしやがって!」

「完治させやがって! 老いぼれは、そのまま死ねば良かったんだ!」

「お前を、さっさと殺せば良かったんだ!」


 僕への罵倒、そしてシャーロットさんへの罵倒を聞いた瞬間、僕は我慢できなくなりました。

 絨毯のところまで歩いていき、僕は叫びました。


「僕は、目の前で苦しんでいる人を治療しただけです。シャーロットさんはとても優しくて、素晴らしい人です。欲に取られて、人の痛みも分からなくなったあなたに言われたくないです!」

「「「なっ……」」」


 三人は、僕が言い返すとは思ってなかったみたいで、驚愕の表情に変わりました。

 しかし、それも僅かで、あっという間に近衛騎士に連行されました。

 僕は、陛下に頭を下げました。


「陛下、勝手なことをして申し訳ありません」

「ナオ、何を謝っている。そなたは、私の思いを代弁しただけだ。まさに、奴らは欲にかられ飲み込まれ、そして人ではなくなってしまったのだ」


 僕は陛下に一礼して、ランディさんの隣に戻りました。

 ランディさんが小声で涙を拭いたほうが良いと言って、初めて涙を零していたのに気が付きました。

 僕は、慌ててハンカチで涙を拭きました。

 陛下は目をつぶり、そして何か考える素振りをしてからもう一度話し始めました。


「余も含め、王族貴族もただの人だ。人は欲を持っている。それは、余とて同じだ。その欲をコントロールしてこそ、人である。欲をコントロールできなくなり、欲望のままに動けば人でなくなる。まさに、今回の事件はそうであった。権力欲に溺れた愚か者による犯行だ。皆も、自分は大丈夫だと思わず、常に自問自答を繰り返すのだ」

「「「畏まりました」」」


 陛下の言葉に僕も含めて頭を下げたけど、僕は心の中であることを思ってしまった。

 もしかしたら、僕の元パーティメンバーの三人も、欲が抑えきれなくなっていたのかもしれない。

 だから、お金のことしか考えなかったり僕を見て暴走していたんだ。

 もう話を聞くことはないけど、僕は少し確信めいていた。

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