第六十三話 何故か僕も謁見に……

 昼食は、前にも行ったことのある大食堂に向かいます。

 残念ながら、マリアさん、アーサーちゃん、エドガーちゃん、それにスラちゃんとドラちゃんは、シャーロットさんとナンシーさんと一緒に王族用の食堂で食事をします。

 でも、大食堂に着いて僕も王族用の食堂の方が良かったと後悔しました。

 というのも、前回と違って沢山の貴族と官僚が食事をしていたからです。

 ヘンリーさんと共に食堂に入ったら、「誰だこの子どもは?」って視線を浴びちゃいました。

 そんな中、ランディさんと何とか落ち合いました。


「ナオ君、どうした? 何だか緊張しているぞ」

「その、沢山の視線が僕に集まっていて……」

「そういうことか。前回は人も少なかったからな」


 ランディさんも僕の態度に納得して貰ったけど、お腹は空いちゃいました。

 早速昼食を注文して、ヘンリーさんと話し始めます。


「ナオ君、明日は今日の裁判の事後処理があるから同行はできないけど、融通はきくと思うよ。何かあったら、遠慮なく連絡してくれ」

「何もないのが一番ですけどね」

「私もそう思う。しかし、ギルドマスターの勘はとても良いから、何かあるのは間違いないだろう」


 ヘンリーが、定食を食べながらあまり良くない予想を口にした。

 実は、僕も何かあるのではと思っていた。

 そもそも、スラム街の中に怪しいところがあるってだけで緊張しちゃうんだよね。


「私もスラム街を何回か視察をしたけど、不審者もいるから十分に気をつけることだ。ナオ君の魔法なら大丈夫かもしれないが、容姿が良いから誘拐される可能性もある」


 あの、ランディさんも不安をあおるような発言は止めて貰えると助かります。

 部下の人も、うんうんと頷かないでくださいよ。

 昼食は終わったけど、確かこの後は謁見だったよね。

 僕は関係ないから、シャーロットさんのところに戻ろうとした時でした。


「では、ナオ君を頼みます」

「殿下、お任せ下さい」


 あれ?

 ヘンリーさんが席を立って、どこかに行っちゃったよ。

 思わず横に座るランディさんの方を向いたら、ニコリとするだけでした。

 あの、僕はこれからどうなっちゃうのでしょうか。


「ナオ君は何も心配する必要はないよ。私と一緒に、あるところに行って貰うだけだよ」

「ランディさん、そのあるところって何処ですか?」

「それは、着いてからのお楽しみだ」


 もう不安でしかなくなっちゃいました。

 でもランディさんの後をついていくしかないので、僕は部下の人と共に席を立ちました。


 ぞろぞろぞろ。


「あの、ランディさん。大食堂にいた他の貴族の人も、僕たちと一緒に来ているのですけど」

「目的地が同じだからね」


 この時点で、僕はやられたと思いました。

 午後いちにあるのは、陛下の謁見です。

 というのは、僕たちは謁見の間に向かっていることになります。


「もしかして、僕も何かあるんですか?」

「正解だ。前に言っていた勲章を貰うだけだから、特に気にしなくて良いよ」


 いやいやいや。

 大勢の人の前で勲章を貰うなんて、ドキドキものじゃないですか。

 というか、既にドキドキが止まらなくなっちゃったよ。

 そのまま人の波に乗ったまま歩いていき、遂に豪華な扉のある部屋の前まで来てしまった。


「うわあ、凄い彫刻があるよ」

「威厳を保つ必要があるからな。では、中に入ろう」


 ギギギギと重そうな音を鳴らしながら扉が開き、僕とランディさんは謁見の間に入りました。

 中は想像以上に広いスペースが取られていて、真ん中に赤い絨毯が敷かれていた。

 二段高くなったところに豪華な椅子が置かれていたけど、あれが玉座っていうものだね。

 周囲を近衛騎士が警備していて、中には何回か一緒になった人もいます。

 そして、マリアさんやシンシアさんのお父さんも近くに来ていて、ニコリとしていました。

 対して、絨毯を挟んで反対側には少し太っていて、何とランディさんよりも豪華な服を着ている数人が僕の事を睨みつけていました。

 えっ、えっ、僕何かしたのかな?

 でも、さりげなくランディさんが小声でフォローしてくれた。


「ナオ君、睨んでいる連中は気にしなくて良いよ。ハイラーン伯爵と近い貴族で、ナオ君のせいでハイラーン伯爵家が潰れたと思っているんだよ」

「それって、思いっきり逆恨みじゃないですか」

「本人としては、大真面目だよ。まあハイラーン伯爵の捜査をしていたら、彼らにも別の犯罪の疑いが見つかったから、ナオ君は彼らとはもう会わないと思うけどね」


 ランディさん、さりげなく怖いことを言わないで下さい。

 そんな話を聞くと、僕を睨んでいる人たちが可哀想に思えちゃいますよ。

 でも、それも自業自得だから仕方ないですね。

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