第六十二話 ハイラーン伯爵家への判決
翌朝、僕は朝食後にキチンとした服に着替えてランディさんとナンシーさんと共に王城に向かいます。
ランディさんも裁判に参加する予定だけど、そこまで緊張していません。
「判決は決まっているものだ。弁護役の貴族もいるが、ほぼ弁護するだけの材料はないだろう。それに、大逆罪は通常の裁判とは別の仕組みで行われる。それだけ、統治者とその一家への犯罪は重いのだよ」
馬車内でランディさんが真剣な表情で話をしたけど、ハイラーン伯爵一家には厳しい判決が下される可能性が高いですね。
大逆罪ってことは、ってとあることに気付きました。
「ランディさん、僕の元パーティメンバーも大逆罪が適用されていますよね。ということは、三人も特別な裁判を受けるんですか?」
「三人とも、特別な裁判を受けることになる。ただ、今回みたいに大勢の貴族を集めて報告することはないだろう。それに、家族の情報も集めているが、判決には大した影響はでないだろう」
いずれにせよ、三人の裁判が行われるのはもう少し先だそうです。
そして、僕たちの乗った馬車はあっという間に王城に到着しました。
ランディさんとは玄関で別れ、僕たちは王族のスペースに向かいました。
案内されたのは、シャーロットさんの部屋でした。
「シャーロットさん、アーサーちゃん、エドガーちゃん、おはようございます」
「皆さんおはようございます」
「おはよう、ナオくん、ナンシー」
「おはよー!」
「あー!」
シャーロットさんだけでなく、アーサーちゃんとエドガーちゃんもお世話係の侍従と一緒に部屋にいました。
マリアさんは裁判に参加するからなのだろうけど、シャーロットさんは何で裁判に参加しないのだろうか?
その理由は、シャーロットさん自身が教えてくれました。
「被告が、私の姿を見て興奮しないようにとの配慮なのよ。私自身、彼らの姿を見たくないのものあるの」
「自分を殺そうとした人たちと再び会うのは、うーん、僕も嫌です」
「ナオ君もあの三人に襲われたのよね。ナオ君も、三人の裁判に参加することはないわ」
僕が三人の裁判に参加する場面を想像すると、何となくシャーロットさんの気持ちが分かりました。
ついでということで、ひ孫の面倒を見ることになったんですね。
「キュー!」
「待てー」
「あー」
当のひ孫二人は、スラちゃんとドラちゃんと一緒に部屋の中で追いかけっこを始めていました。
元気にはしゃぐみんなのことを、シャーロットさんはにこやかに見つめていました。
ナンシーさんはシャーロットさんと一緒に二人の面倒を見ることになっているみたいだけど、いつの間にかスラちゃんが二人の面倒を見ていますね。
追いかけっこの後は、絵本を読んだりアーサーちゃんは文字を書く勉強をします。
ドラちゃんも、みんなと一緒になって絵本を読んでいますね。
三時間ほど経ったところで、シャーロットさんの部屋にヘンリーさんとマリアさんが入ってきました。
「あっ、おかーさまだ!」
「あー!」
二人は元気よく駆け出して、笑顔でマリアさんに抱きつきました。
マリアさんも、そんな二人の頭を優しく撫でています。
「二人とも、ちゃんとお留守番できたかな?」
「うん!」
「あー!」
二人ともキチンとお勉強もしたし、僕から見ても問題ないと思いました。
というか、結局スラちゃんがずっと二人の面倒を見ていたんだよね。
因みに、遊び疲れたドラちゃんはシャーロットさんのベッドでスヤスヤと眠っていました。
「じゃあ、スラちゃんにお礼を言って部屋に戻りましょうね」
「スラちゃん、ありがとう!」
「あう!」
二人の可愛らしいお辞儀に、スラちゃんも触手をフリフリしてこたえていました。
そしてマリアさんが二人を連れて部屋を出たところで、本題に入ります。
ヘンリーさんが、裁判結果を伝えました。
「あまり長く話してもしょうがないので、簡潔に話します。ハイラーン伯爵夫妻並びにムーランドは死刑、ハンカチにクリームを塗っていた使用人は無期の強制労働刑だ。後はそれぞれの罪に応じて判決が下される。そして、ハイラーン伯爵家は爵位剥奪の上でお家取り潰しだ」
厳しい刑罰は予想されていたけど、やっぱり死刑になったと実際に聞くと僕も緊張しちゃいます。
因みにハンカチにクリームを塗るようにと指示をしていた侍従はムーランドから金品を貰っていて、そのうち愛人にすると言われていたそうです。
クリームに毒が入っているとは全く知らなかったそうですが、ムーランドにそそのかされて間違った方法を他の侍従に指導したのも大きな罪の一つです。
「犯行理由ですが、やはり王家から王女を迎えて権力を得ようとしたからです。しかし、エミリーを手にするのにお祖母様が反対して邪魔だったと言っていました。更にムーランドは、気の強いエミリーを屈服させて意のままに操ろうとも考えていたそうです」
「ドラちゃんを檻の中に入れていたのも、あの馬鹿が強いものを屈服させようとする性格が現れているのね。権力欲というのは、本当に怖いわね」
「ムーランド自身は大した能力もないのにと、付け加えておこう」
貴族として発展する為なら何をしても良いという、誤った考え方がハイラーン伯爵の根底にありました。
ヘンリーさん曰く、そういう貴族にとって権力というのは何よりもの美酒だそうです。
ハイラーン伯爵家は、その美酒に溺れてしまったのですね。
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