第六十一話 怪しいギルドマスターからの怪しい情報

 数日はハイラーン伯爵への捜査が忙しくて、ヘンリーさんたちは王城に缶詰でした。

 その代わりにドラちゃんの体調は良くなり、リハビリ代わりのセードルフちゃんとの追いかけっこも元気よく行っています。

 そのおかげで、ドラちゃんの精神面もかなり良くなりました。

 相変わらず、スラちゃんと一緒だけどね。

 そして、ドラちゃんは正式にハイラーン伯爵から軍が押収して、スラちゃんが保護したことになりました。

 なので、僕たちはナンシーさんとエミリーさんと一緒に、ドラちゃんを連れて薬草採取に向かいました。


「はあ、久々にストレス発散できる……捜査の間、ちょうど良いとずっと勉強を入れられていたんだよね……」

「あはは……」


 馬車内で、エミリーさんが僕に抱きつきながら愚痴をこぼしていました。

 僕も、勉強ばっかりだったらとっても疲れちゃうよ。

 ナンシーさんも仕方ないって表情で僕のことを見ているけど、エミリーさんを引き離してはくれませんでした。

 そして、いつもの王都郊外の薬草採取ポイントに到着です。


 ガチャ。


「キュー」


 馬車のドアが開くと、ドラちゃんが勢いよく空に飛び出しました。

 木々の間を飛んだり空をアクロバティックな飛び方をしたりと、とても楽しそうにしていますね。

 スラちゃんがドラちゃんに木にぶつからないようにと注意しているけど、気持ちよさそうにしているから暫くはそのままにしてあげます。

 その間に、僕たちは交代で監視をしつつ薬草採取を始めました。


 ごそごそ、ごそごそ。


「やっぱりスラちゃんとシアちゃんがいると、凄い量が集まるわね」

「毒消し草もこんなに沢山集まるなんて、本当に凄いわ」


 僕が近衛騎士と一緒に周囲を警戒していると、森の方から楽しそうな声が聞こえてきました。

 僕も、さっきスラちゃんと一緒に薬草を集めていたら沢山採れたんだよね。

 やっぱりスライムの能力は凄いです。


 シュッ。


「キュ」


 ガッ。


「おお、ドラちゃん凄いよ!」

「キュー!」


 ドラちゃんは木の枝から飛び降りて、見事にうさぎを捕まえていました。

 得意げにひと鳴きしているドラちゃんは、何だか誇らしげですね。

 こうして、午前中いっぱいで薬草を集め終え、僕たちは冒険者ギルドに戻りました。

 買い取りブースのおじさんがギルドマスターが呼んでいると言ったので、僕たちは個室に向かうことに。

 すると、ギルドマスターがとんでもない事を伝えてきました。


「信頼できる冒険者から聞いた話だが、どうもスラム街の一角で違和感を感じたという。魔力が高い奴だから、もしかしてと思ってな」


 ギルドマスターは勇者パーティが謎の黒い霧を追いかけているのを知っていて、これは怪しいと思ったのだろう。

 地図を出して、王都のどのあたりかを確認しました。


「王都南側にあるスラム街だ。確か、この教会の周辺って言っていたぞ」

「何だか、如何にもって感じの怪しい場所ね」

「シンシアお義姉様に頼んで、怪しまれずにこの教会で活動できるように頼みましょう」


 エミリーさんの提案に、ギルドマスターとナンシーさんも頷きました。

 急ぎの案件なので、屋敷に帰る前に王城に向かうことになりました。


「急ぎ、お父様に連絡を取りましょう。明日は駄目だけど、明後日なら動けるわ」


 王城に行くと、ちょうど昼食のタイミングだったヘンリーさんとシンシアさんと落ち合いました。

 直ぐにシンシアさんが動いてくれたけど、明日二人が動けない理由はヘンリーさんが教えてくれました。


「ハイラーン伯爵の裁判が、明日行われる事になった。動機の解明、供述内容、物的証拠、全てが整った。大逆罪だからエミリーも裁判に参加するのと、捜査に携わったということでナンシーとナオ君にも王城に来てほしい」

「もちろん王城に行きますけど、何だか随分と裁判を行うのが早いですね」

「言い逃れのできない証拠も押さえてるし、私への殺人未遂もある。無駄に裁判の日にちを延ばしても、何も意味はない」


 どうも全員が吹っ切れてベラベラと喋ったらしく、裏付けも行われたという。

 なぜ証拠を破棄しなかったのか全くもって意味不明だけど、屋敷の中で捕まえた執事や関係者の証言や証拠も整っていました。

 詳しいことは明日教えて貰える事になり、明後日の対応もその時に伝えるそうです。

 エミリーさんとはここで別れ、僕とナンシーさんはオラクル公爵家に帰りました。


「今回は王太后殿下殺人未遂という重罪だから、午後に緊急で謁見が行われるそうよ。主人はもちろん参加するし、ナオ君もキチンとした服を着ていった方が良いわね」


 屋敷に着くと、昼食を食べながらレガリアさんが明日の事の補足をしてくれました。

 全ての貴族家に召集がかかったらしく、地方の領地を持っている貴族は王都屋敷の執事などが代理で出るそうです。

 それだけシャーロットさん毒殺未遂事件は、大きなインパクトがあるんですね。


「元々ヘンリーさんにも王城に来るようにと呼ばれていますけど、沢山の貴族が来るとなるとキチンとした服を着ないと駄目ですよね」

「ふふ、そうね。そうとらえてくれて構わないわ。他にも色々とあるけどね」


 おや?

 レガリアさんが、何だか含み笑いをしていたよ。

 イザベルさんとナンシーさんも何かに気がついたみたいで、僕を見て苦笑していました。

 うーん、いったい何だろうか。


「ドラちゃん、おいしい?」

「ガブガブ、キュー!」


 うん、良く分からないので美味しそうに昼食を食べているちびっ子たちと一緒にいよう。

 因みに、スラちゃんはレガリアさんの含み笑いの意味に気がついたみたいです。

 でも、僕には教えてくれませんでした。

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