第四十四話 気分転換の薬草採取とエミリーさんの新しいお友達

 翌日は、気分転換を兼ねて薬草採取に行きます。

 長時間はやらない予定で、午前中で切り上げます。

 薬草採取は、僕の中でも好きな依頼です。


「ヘンリーさんとシンシアさんは、やっぱり不参加なんですね。王族って、とても大変ですね」

「成人の王族となると、公務とかで中々忙しいのよ。そのうち規則で王太子一家以外の王族は、後継者不足などがない限り法衣貴族になるわよ」


 冒険者ギルドに向かう馬車内で、ナンシーさんが色々と教えてくれました。

 王族から貴族になったとしても、沢山のお仕事や行事に参加したりするのは変わらないそうです。

 本当に、皆さんご苦労さまです。

 そして僕たちが冒険者ギルドに姿を見せると、わっと冒険者が集まってきました。


「おいナオ、昨日は大丈夫だったか? 教会前であの馬鹿が大事件を起こしたと、町中で話題になっているぞ」

「ナオだけでなく、その場にいた王家や教会にも被害を出したんだろう? 大逆罪どころの話じゃないな」

「私、昨日教会に様子を見に行ったの。そうしたら、教会の一室の窓ガラスが本当に割れていたのよ。板で仮止めしていたけど、普通にありえないわ」


 昨日の事件が、冒険者の間に広まっていたんだ。

 そして、あの三人が関与していたので、僕のことを気にしてくれたんだ。

 ちょっと、嬉しくなっちゃいました。

 因みに、冒険者への説明は僕と同じく現場にいて対応したナンシーさんとエミリーさんがしてくれました。

 微妙に僕のやったことが誇張されていて、その度に冒険者たちがわっと湧き上がっていました。


「うう、ちょっと恥ずかしかったです。僕が大活躍したと言わなくても……」

「何も間違ってはないわよ。ナオ君が強力な魔法で、二人を吹き飛ばしているしね」

「私も、ナオの作った魔法障壁で自爆した馬鹿を雷撃でトドメを刺しただけだわ。事実に相違ないわよ」


 森に向かう馬車内で僕が二人に文句を言っても、僕の愚痴は軽くスルーされました。

 むしろ、当然って感じの表情です。

 アーサーちゃんとエドガーちゃんと一緒にいて現場を見ていなかったスラちゃんは、二人の話を聞いて凄いと触手で拍手をしていました。

 スラちゃんも、ちょっと誤解をしていそうです。

 そんなこんなで、王都近郊の街道沿いにある薬草採取ポイントに到着しました。

 王家の皆さんがいつも薬草採取をしているところで、沢山採れるそうです。


 シュイン、ぴかー。


「周囲に特に危険なものはないです。動物や魔物も、僕たちの様子を伺っています」

「でも、警戒はするに越したことはないわ。勉強の一環として、周囲の警戒を順番でしましょう」

「「はい!」」


 基本は近衛騎士や兵が僕たちの護衛をするけど、何かあった時の為にとナンシーさんが提案しました。

 エミリーさんと僕だけでなく、スラちゃんも了解と触手をふりふりとしています。

 でも、念の為にスラちゃんは僕と一緒に護衛を行います。

 すると、探索範囲外の遠くの山に何かが飛んでいるのが見えました。


「あっ、遠くの山に飛んでいるドラゴンが見えました」

「王都近くの山には、ドラゴンが住んでいるからね。普段は、めったに見られないわ」


 ドラゴンは人里から離れたところに住んでいるので、ナンシーさんでも中々お目にかかれないそうです。

 それに大きいドラゴンになると、ヘンリーさんが相手でも敵わないくらい強いそうです。

 その前に、僕たちは目の前にある依頼をこなさないと。

 ではでは、最初は僕とエミリーさんで薬草採取を行います。


 ごそごそ、ごそごそ。


「あっ、ここにも沢山あります。薬草だけでなく、毒消し草もありますよ」

「うん、薬草の採れる量がおかしすぎる。ナオ君の鑑定能力もだけど、スラちゃんが次々と薬草を見つけるわね」


 ナンシーさんも驚くほどの薬草が集まっているけど、実はスラちゃんは薬草採取の名人です。

 僕でも見つけられない薬草を、いとも簡単に見つけます。

 制限なく薬草を採って良いそうなので、スラちゃんも張り切っています。


「うーん、やっぱり森の中は気持ちいいわね。ずっと建物の中に入っていると、何だか疲れるのよ」

「僕も分かります。森の中の空気って、何だか気持ちいいですよね」

「うんうん、そうよね。ストレスが和らぐってのもあるし、良い感じだわ」


 エミリーさんがうーんと背を伸ばしているけど、僕も昨日あったことから気持ちが解放されていきます。

 街道沿いだから基本的には安全だし、お天気も良いから本当に気持ちいいです。


 ぴょんぴょん。


 ここで、薬草を探していたスラちゃんが茂みからひょっこりと出てきたけど、スラちゃんの上に小さな透き通った白色のスライムが乗っているよ。

 えーっと、このスライムは一体なんだろうか?


「ナオ君、どうし……あー! ヒールスライムだ!」

「エミリー、叫んだりしてどうし……うそ、マジックスライムだわ!」


 そして、スラちゃんを見たエミリーさんが叫んで、今度はナンシーさんが叫んで。

 一体、何が起きているんだろうか?

 その答えは、ナンシーさんが教えてくれました。


「スラちゃんはナオ君と魔力循環して進化した特別例だけど、普通のスライムは殆ど魔力を持たないのよ。でも、極稀に魔力を持ったスライムが生まれることがあるの。とても珍しいスライムで、使える魔法の種類によって体の色が違うのよ」

「そんな貴重なスライムがいるんですね。初めて知りました」

「因みに、水魔法が使えるマジックスライムは、普通のスライムよりも濃い青色だそうよ」


 凄いなあ、この世界には色々なスライムがいるんだ。

 それが知れただけでも、僕はとっても嬉しいです。

 今度はどうして珍しいスライムがスラちゃんの上に乗っているのか、スラちゃんに聞いてみました。


「このスライムは生まれたばっかりで、他のスライムに虐められていたそうです。なので、スラちゃんが保護したって言っています」

「スラちゃんは優しいね。流石はナオ君のお兄ちゃんだわ」


 エミリーさんが僕の脇に座って、スラちゃんを指で撫でるとスラちゃんも嬉しそうにふるふるしています。

 すると、スラちゃんが保護したという白色のスライムが、エミリーの手の上にぴょーんと飛び乗りました。

 そして、つぶらな瞳でエミリーさんを見上げています。

 その瞬間、エミリーさんが壊れました。


「か、かわ、可愛いわ! 今日からあなたはシアよ。私が、沢山可愛がってあげるわね」

「あの、エミリーさんが挙動不審です……」

「エミリーは、昔から可愛いものが大好きだもんなあ。部屋の中はぬいぐるみでいっぱいだし、こんな可愛いスライムに懐かれたらイチコロだわ」


 白色の小さなスライム改めシアちゃんを、エミリーさんが満面の笑みで頬ずりしています。

 まあ女性なら可愛いもの好きでも問題ないけど、流石にシアちゃんはビックリしているよ。

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