第四十話 予想外の事態と三人の捕縛
姿がボロボロになっているけど、僕に向かって走ってきたのは間違いなく元パーティメンバーだった茶髪の短髪だった。
目が血走っていて、口から泡を吐きながら僕に向かってきます。
鬼の形相っていうのが、正しい表現ですね。
更に、少し離れたところから残り二人も走ってきました。
二人とも、かなりの怒りの表情です。
「「「キャー!」」」
「全員避難だ。聖騎士を呼んでこい!」
「近衛騎士もだ。早く逃げろ!」
会場設営をしていた人たちは一斉に大教会の中に逃げ出し、入れ替わるように多数の兵がやってきた。
僕もアイテムボックスから杖を取り出し、ナンシーさんとエミリーさんも魔法袋から剣を取り出して構えた。
しかし、他の人には目もくれず、茶髪の短髪は僕に一直線に走ってきます。
「ナオーーーーー! 死ねーーー!」
シュイン、シャキーン。
僕は杖を構えて、周りの人を守るように大きめの魔法障壁を展開しました。
念の為に、魔力を込めてかなりの硬さにします。
茶髪の短髪は、僕の前に魔法障壁が展開されているのを知らずに思いっきり右の拳を振りかぶってきました。
「死にやがれーーー!」
ブオン、ボキャン!
「ギャァァァーーー!」
ドサッ、バタバタ!
「あっ、あーーー! 手が、手がーーー!」
茶髪の短髪の拳が魔法障壁に当たった瞬間、拳が砕ける音が大きく響きました。
茶髪の短髪は、あまりの激痛に左手で砕けた右の拳を添えながら地面に転がっています。
間髪入れず、エミリーさんが練り込んだ魔力を一気に解放した。
「ナオに何をした!」
シュイン、バリバリバリ!
「ガァァァァ!」
茶髪の短髪は、怒れるエミリーさんの容赦無い雷撃を受けて完全に戦闘不能となった。
プスプスと煙が上がっているけど、ピクピクと動いているので死んではなさそうです。
ガキン、ガキン。
「ちっ、しつこいわね。今度は、風魔法と石を投げつけてきているわ」
魔法障壁に新たな衝撃があったかと思ったら、茶髪のツンツン頭が少し離れたところから路上に落ちている石を投げつけていた。
そして緑髪のセミロングが自称お得意の風魔法を使ってくるけど、怒りで全く魔力が制御できていないので少し強めの風が吹いている程度だった。
流石にナンシーさんも、怒りメーターがずずすと上がっていきました。
「魔力を溜めて、二人を吹き飛ばします」
「じゃあ、ナオ君が魔法を放った後に一気に突っ込むわ」
「私もよ。それにしても、本当に下手くそな魔法ね」
僕たちも、直ぐに作戦を決めて準備をします。
しかし、この下手くそな風魔法がとんでもない事態を引き起こしました。
「ナオ! 死に晒せ!」
「くたばりやがれ!」
ひゅん、ふわっ。
バキャーン、バキャーン!
「あっ、馬車と教会の窓ガラスが!」
あろうことか、緑髪のセミロングが放った風魔法の勢いにのって茶髪のツンツン頭が投げた石がとんでもない方向に飛んでいき、なんと王家の馬車と大教会の窓ガラスを粉々に割ってしまったのです。
これには僕だけでなく、ナンシーさんとエミリーさんもビックリです。
そして、この事がより状況を悪化させました。
「抜剣許可! 無力化を第一に!」
「「「はっ」」」
ガシャ、ガシャ!
「「ひっ……」」
僕の魔法障壁の後ろにいて様子を見ていた近衛騎士と聖騎士が、一斉に剣を抜きました。
沢山の剣が抜かれた音に、二人は悲鳴を上げて石や魔法を放つのを一瞬やめました。
今がチャンスだ。
僕は、溜めた魔力を一気に放ちました。
「いけー!」
シュイン、ズゴゴゴゴ。
ズドーーーン!
「「うぎゃーーー!」」
ざざざっ、ずさー。
僕が放った「エアロカノン」という風魔法の強烈な空気の塊が、無防備な二人を吹き飛ばしました。
魔法の直撃を受けた二人は、地面を何回もバウンドしながら転がっていきます。
「突撃!」
「「「うおー!」」」
この瞬間を、近衛騎士と聖騎士は逃しません。
十人以上が、二人に向かって走っていきます。
「うっ、うう……」
「ぐ、ぐぐっ。ち、ちっくしょー!」
シュイーン。
茶髪のツンツン頭は仰向けのまま動けないでいたが、緑髪のセミロングはうつ伏せのまま僕の方に右手を伸ばして魔力を溜め始めました。
どうも、最後の悪あがきをするつもりです。
しかし、彼の魔法は放たれることはありませんでした。
「とおー!」
ザシュ、ボタッ。
「ギャァァァーーー!」
「「「確保ー!」」」
近衛騎士の一人が、魔法を放とうとした緑髪のセミロングの右手首を切り落としたのです。
手首を切り落とされた激痛に、緑髪のセミロングが絶叫を上げています。
しかし、近衛騎士はそんな彼のことなど気にせず、手首を縛って止血をしながら縄で厳重に拘束します。
もちろん、先に倒れた茶髪の短髪に茶髪のツンツン頭も、厳重に拘束されて連行されていきました。
この間、僅か数分だったけど、僕にとってはとても長く感じました。
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