第二十話 謎の黒い霧みたいなもの
道中はとても平和で、一時間半で目的地の子爵領に到着しました。
ヘンリーさんから沢山の話を聞くことができたので、僕もスラちゃんもとっても満足です。
「ナオ君は知識の吸収力が凄い。教えている私も、とっても驚いたよ」
「ヘンリーさんの教え方が上手だったので、直ぐに覚えられました」
「そう言って貰えると、私も嬉しいよ」
僕に教えてくれたヘンリーさんも、充実した表情を見せてくれました。
今まで勉強する機会が少なかったので、勉強するのがとっても楽しいです。
「「へあ……」」
「ほらほら、二人とも終わったわよ」
一方で、シンシアさんに勉強を教わっていたナンシーさんとエミリーさんは、燃え尽きちゃったみたいです。
シンシアさん、ビシバシと二人に勉強を教えていたもんね。
見た目以上に、シンシアさんは厳しいんですね。
そんなこんなで、目的の森の前に到着しました。
僕たちも馬車から降りて、準備を整えます。
準備が整ったところで、ヘンリーさんが僕たちに説明をしました。
「見た目は普通の森なんだが、動物や魔物が攻撃的になっている。何かを感じたという証言も出ている」
「モヤみたいなものが出たって話だよね。ゴースト系の魔物かと思ったけど、どうも違うみたいだわ」
シンシアさんが追加で情報を付け加えてくれたけど、正体が全然分からないなあ。
でも、目の前の森を見て感じることがあります。
僕だけでなく、スラちゃんも同じ事を感じました。
「ヘンリーさん、目の前の森から息苦しさを感じます。あと、微かに黒い霧みたいなものも感じます」
「ナオ君もそう感じたか。私も微妙に何かを感じている。黒い霧というのが、キーポイントになるのかもしれない」
いやーな感じが、目の前の森から感じるんだよね。
この嫌な感じのものを浴びたから、動物や魔物が攻撃的になったのかな?
ヘンリーさんがふむふむと頷いていると、今度はシンシアさんが僕に話しかけました。
「ナオ君、あとスラちゃんも、試しにこの森に浄化魔法を放ってくれないかしら?」
「私も、ナオ君の浄化魔法なら良くなるんじゃないかなと思います」
「魔力が強いものが感じるとなると、魔法的なものだと思うわ」
どうやら、ナンシーさんとエミリーさんも目の前の森から何かを感じたみたいです。
僕は杖を構えて、スラちゃんと同時に魔力を溜め始めました。
シュイン、シュイン。
「魔力が溜まったので、浄化魔法を放ちます」
「ええ、やって頂戴」
浄化魔法なら、森にいるものを傷つける恐れも少ないです。
僕とスラちゃんは、シンシアさんの合図で一気に魔力を解放しました。
シュイン、シュイン、シュイーン!
ぴかー!
森の広範囲に浄化魔法を放つと、何かを浄化する手応えがあった。
しかも、ピンポイントではなく森全体を浄化する手応えです。
「なっ、何だこの魔法は?」
「森全体が光り輝いているぞ」
浄化魔法の光がキラキラと森から漏れ、その様子を見た近衛騎士が目を見開いています。
今日ついてきた近衛騎士は昨日とは別の人なので、僕の魔法を初めて見ました。
ヘンリーさん達は、特に普通に森を眺めていますね。
そして目の前の森を浄化し終えると、明らかに様子が変わりました。
「あっ、圧迫感がなくなった。普通の森になったよ」
「私も変化を感じました。明らかに変わりました」
ナンシーさんもエミリーさんも、森の変化にかなりビックリしています。
森の変化は、ヘンリーさんとシンシアさんも感じ取っていました。
「ここまで変化するとは。明らかにおかしいな」
「ええ、普通じゃないわ。作為的なものを感じるわ」
二人は、誰かがわざと森に悪いものを放ったと思っています。
となると、誰がこんな事をしたんだろうか。
うーん、全く分からないなあ。
「しかし、ナオ君とスラちゃんの浄化魔法は物凄いな。こんなに広範囲を浄化するとは。では、森に入って生態調査を行う。ナオ君とスラちゃんは、浄化魔法に専念だ。新入りばっかりに、良いところをとられるなよ」
「「「はい!」」」
ヘンリーさんが、他の人に激を飛ばしました。
僕も杖を構えて、いつでも魔法を放てる様にします。
近衛騎士と共に、僕たちは森の中に入りました。
「うーん、やっぱり見た感じは普通の森だね。動物もこちらの気配を伺っていて、攻撃する様子もないわ」
「たまに襲ってくるのも、いつもの動物や魔物ですね。森の中の空気も、嫌な感じはないわ」
時々浄化魔法を放つ事はあっても、嫌な感じは全くありません。
ナンシーさんとエミリーさんも、特段変わったものは感じていません。
「やはり、ある程度進むと圧迫感すらない。となると、特定のエリアだけ何かをした可能性はあるぞ」
「うーん、ナオ君の言った黒い霧が引っかかるのよね。王城に戻ったら、文献を調べましょう」
ヘンリーさんとシンシアさんは、やはり森から感じたものをおかしいと思っていた。
王城なら、どんなことでも分かりそうですね。
そして、森を移動しながら浄化を続け、お昼前には森からの圧迫感が綺麗さっぱり無くなりました。
僕たちは、再び馬車を置いてあるところに戻りました。
「予想以上に早く終わった。それに、調査の手がかりも掴めた。それとなく子爵に説明するから、領都に向かおう」
お互いに生活魔法をかけて、体を綺麗にします。
話には全員参加するそうなので、僕も同席するそうです。
子爵様って、一体どんな方なんだろう?
そんなことを思いながら、馬車は進んでいきました。
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