第二十一話 ワークス子爵代理

 森から馬車で十分進むと、ワークス子爵領の領都に到着しました。

 街は沢山の人で賑わっていて、市場も活気に溢れています。


「このワークス子爵領は、王都にも近い好立地で産業も農業も盛んだ。子爵領の中では、かなり裕福な方と言えよう」

「人々はとっても良い笑顔ですね。幸せそうです」

「領主が代々良い統治をしている。そのおかげで、領民も裕福だ」


 馬車の窓から見える光景も、とても良い感じです。

 これから会うワークス子爵様も、きっと良い人なんですね。

 そんな期待を胸に、僕たちを乗せた馬車は屋敷の中に入りました。

 直ぐに出迎えの侍従がやって来て、僕たちを応接室ではなく食堂に案内しました。

 確かにお腹ペコペコだけど、タイミングが良いですね。


 ガチャ。


「皆さま、お待ちしておりました。どうぞお座り下さいませ」

「マーサ殿、お心遣い痛み入る」

「お昼の時間に来られましたので、まだお食事をとられていないかと思いまして」


 あれ?

 ピンク色のロングヘアの美人さんが、食堂の当主席で僕たちを待っていたよ。

 てっきり男性の当主かと思っていたから、僕もスラちゃんもビックリしちゃったよ。

 僕たちも、進められるがままに席にすわります。


「あら、とても可愛らしい男の子がおりますね」

「初めまして、僕はナオと言います。このスライムはスラちゃんです」

「ご丁寧にどうもね。私はマーサ、このワークス子爵家の当主代理をしておりますわ」


 僕が席を立ってペコリと挨拶をすると、マーサさんもニコリとしながら挨拶をしてくれました。

 でも、当主と当主代理ってどう違うんだろうか?

 僕とスラちゃんがはてな顔をしていたら、マーサさん自身がその理由を教えてくれました。


「ふふ、不思議そうな表情をしているわね。実は、当主だった夫が半年前に病気で亡くなったのよ。息子が二人いるけどまだ未成年だから、私が代理となっているのよ」

「そ、そうだったんですね。その、ごめんなさい……」

「ナオ君、謝らなくて良いわ。ヘンリー殿下と共に行動するのなら、逆に知っておいた方が良いわ。それに、私も微力ながら統治のお手伝いをしているわ」


 しゅんとしちゃった僕とスラちゃんを、マーサさんは優しく慰めてくれました。

 とっても良い人だからこそ、旦那さんが亡くなっても統治できているんだね。

 ここで、ヘンリーさんがマーサさんに調査報告をしました。


「マーサ殿、簡潔に報告する。森は異常な状態だったが、ナオ君の浄化魔法で解決できた。ただ、原因についてはまだ不明だ」

「ヘンリー殿下、恐れ入ります。しかし、浄化魔法が効くのは限られるはずです。何にせよ、対策は打てそうです」

「流石はマーサ殿、ご慧眼恐れ入る。何かあったら、連絡をお願いします」


 ヘンリーさんの話を聞いたけど、マーサさんはとっても頭が良いんだ。

 浄化魔法というキーワードで、直ぐに色々な事を考えていた。

 それに、ヘンリーさんと話ができるだけでも、知識とかがないと駄目だよね。

 シンシアさん、ナンシーさん、エミリーさんも、真剣な表情で二人のやりとりを見守っていました。

 そして、ヘンリーさんとマーサさんの話が終わると、直ぐに食事が運ばれました。


「皆さまのお陰をもちまして、ワークス子爵領も平穏を取り戻しました。ささやかではございますが、お料理をご用意いたしました」


 想像以上に豪華な料理が出てきたけど、僕は料理のマナーを知らないよ。

 ど、どうしようか……

 迷っていたら、救いの手が差し伸べられました。


「ふふ、ナオ君、好きなように食べて良いのよ。マナーとかは気にしないで良いわ」

「なら、私がマナーを教えてあげるわ。ナオなら、直ぐに覚えるはずよ」


 マーサさんがニコリとしてマナーは関係ないと言ってくれるし、隣に座っているエミリーさんが嬉々として僕に簡単なマナーを教えてくれます。

 お陰で、失敗することなく昼食を食べられました。

 やっぱり、豪華な昼食はとっても緊張するね。

 昼食後は、少し休んでから王都に向けて出発します。


「では、私たちはこれで失礼します」

「皆さま、どうか道中お気をつけて」


 マーサさんに見送られて、僕たちは馬車に乗って王都に向けて出発しました。

 早いうちに対応が完了して、僕も他の人もホッと一安心です。

 すると、ヘンリーさんが明日以降について話しました。


「明日と明後日は、今日判明した事象の調査を行う。元々明後日は公務も予定していたから、私とシンシアは冒険者活動には参加できない」

「あっ、私も明日は礼儀作法の勉強があったんだ……」


 ヘンリーさんの話を聞いて、エミリーさんも勉強を思い出してがっくりとしちゃいました。

 となると、明日はナンシーさんと二人で冒険者活動をするのかな?

 すると、ナンシーさんもあることを思い出しました。


「あっ、明日は私もブレアと会うことになっているんだ。私も王城にいかないと駄目ね」

「ブレアも、ナンシーの事を気にかけていた。会って安心させてやりな」


 ナンシーさんの予定を聞いて、ヘンリーさんも是非にと言っていた。

 となると、明日は冒険者活動はお休みですね。

 せっかくだから本を読もうかなと思ったら、予想外の展開になってしまった。


「せっかくだから、ナオ君も王城に来ると良い。両親も兄夫婦も、ナオ君に会いたがっていたよ」

「あ、あの、ヘンリーさんのお父様とお母様って……」

「もちろん、この国の国王と王妃だ。だが、普通の家族として会うのだから気にしなくていいよ」


 ヘンリーさんが勇者様スマイルで僕に話しかけたけど、僕とスラちゃんはガチガチに固まっちゃいました。

 まさか、この国の国王陛下と王妃様に会うことになるなんて……

 ヘンリーさんもエミリーさんもとても良い人だから、国王陛下と王妃様も良い人なはず。

 失礼な事をしないかとか、どんな格好で会えば良いのかとか、帰りの馬車の中で色々と考えちゃいました。

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