第十九話 焦りだした三人と馬車内での勉強

 翌朝もいつも通り早く起きて、スラちゃんと一緒に魔法の訓練を行います。

 今日もヘンリーさんたちの役に立てればいいなと思いながら、魔力循環の訓練を行います。

 あの三人といる時も、こっそりと寝ながらやっていました。

 だから、今ではそこそこの魔法制御ができるようになりました。

 でも、覚えていない魔法は沢山あるし、これからも頑張って覚えないとね。

 訓練を終えたら、着替えてスラちゃんと一緒に食堂に行きます。


「ふわあー。にーに、おはよー」

「おはよう、セードルフちゃん」

「むにゃむにゃ……」


 朝食を食べていると、イザベルさんと一緒に眠そうなセードルフちゃんが食堂に入ってきました。

 席につくと、セードルフちゃんはもしゃもしゃと眠そうにパンを食べ始めました。

 そんな息子の様子に、イザベルさんも苦笑していました。


「おはよー、むにゃむにゃ」


 そして、ナンシーさんも眠そうに目をこすりながら食堂に入ってきました。

 ナンシーさんも、眠そうにしながらパンを食べています。

 こういうところは、血が繋がっているって感じですね。

 僕もスラちゃんも、ちょっと微笑ましく思いました。

 僕は先に食べ終わったので、部屋に戻って出発の準備をします。


「うーん、今日も良い天気だね!」


 ナンシーさんも、着替えを済ませて庭に出てきました。

 良いタイミングで馬車が入ってきたけど、予想外の人が乗っていました。


「ナオ、おはよう」


 ヘンリーさん、シンシアさんに続いて、エミリーさんも馬車から降りてきました。

 えーっと、確かエミリーさんは今日は勉強があるからお休みのはずです。

 昨日と同じく騎士服にライトプレートを身に纏っているけど、もしかして一緒にくるのかな?


「へへへ、昨日頑張って勉強終わらせていたのよ。それに、家庭教師の先生に用事ができたから、今日はフリーになったの」

「毎回これくらいやる気を見せてくれると、こっちとしてもありがたいのだが」


 得意げにしている妹のことを、ヘンリーさんが複雑そうな表情で見ていました。

 とはいえ、今日は一緒に冒険者活動をするんですね。

 全員揃ったので、馬車に乗って冒険者ギルドに向かいます。

 すると、昨日と同じ光景がまたもや冒険者ギルドの受付で行われていました。


「何でこの依頼が受けられないんだ!」

「この依頼は制限依頼です。あなた達の実績では、この依頼を受ける事はできません」

「おい、ふざけるな!」


 またもや、あの三人が依頼を巡って受付で揉めていました。

 どうもレベルの高い依頼を受けようとして、受付で拒否されています。

 レベルの高い依頼ほど高額な報酬が貰えるけど、僕があの三人と一緒にいた時もレベルの高い依頼はできなかったよね。

 他の冒険者の苛立ちもかなり増してきたタイミングで、ようやく三人は受付から離れました。

 その間に、僕たちも手早く手続きを済ませました。

 直ぐに、馬車に乗って目的地に出発します。


「あの三人、何だか焦っている様にも見えたよ」


 馬車の中で、エミリーさんが受付の様子を見て首を傾げていました。

 確かに、今まで経験した事のある依頼ならあの三人にもこなせるはずです。

 確かに、お金を得ようとして高額な依頼を受ける可能性はあります。

 ヘンリーさんも、とある事を予想しました。


「可能性として高いのが、手持ちの金が尽きた事だ。一昨日ナオ君を追放してからまともに金を稼いでいないから、一気に浪費した可能性はある」

「僕の予想ですと、僕をパーティから追放した段階で三人の手持ちのお金は殆ど無かったと想います」

「元々ナオ君は殆どお金を分けてもらえていないのに、手元にあるお金まで奪ったんだ。この事は、予想された事だ」


 僕も、ヘンリーさんと同じく三人の手元にあるお金が尽きたんだと思います。

 昨日も結果的に依頼に失敗しているし、もしかしたら追い詰められているのかもしれない。

 そんな事を考えていたら、ヘンリーさんが場を仕切り直しました。


「奴らよりも、この後の事を話そう。今日は、王都から二時間かからずに着くワークス子爵領だ。既に子爵には話を通しているから、直接現場に向かう。その後、屋敷に行って報告する予定だ」

「「「「はいっ」」」」


 僕たちは、今日の仕事に集中しないといけないね。

 スラちゃんも、分かったとヘンリーさんに触手をふりふりとしていました。

 怪しい気配がすると昨日聞いていたので、僕とスラちゃんの聖魔法が役に立つのかも。

 でも、怪しい気配ってどんなものなんだろう?

 ヘンリーさんの話はこれで終わって、今度はシンシアさんが話し始めました。


「エミリーとナンシーは、現地に向かう間勉強しましょうね。私が教えてあげるわ」

「「ええー!」」


 ニコリとするシンシアさんだけど、何だか否定しづらい圧力があるよ。

 予想外の事に、エミリーさんとナンシーさんは悲鳴に似た叫び声を上げていた。

 あっ、そうだ。

 ナンシーさんにある事を聞いてみよう。


「ナンシーさん、お屋敷にある本を読んで良いんですか? 知らない事ばっかりで、僕も読んで色々と覚えたいんです」

「えっ、問題ないわよ。侍従も、普通に読んでいるし」


 ナンシーさんがきょとんとしながら答えてくれたけど、色々な事が足りないって思っているんだよね。

 すると、ヘンリーさんが僕にある提案をしました。


「なら、今は適当な本がないから後で昔私が使っていた本をあげよう。もう、私が使うことはないからね」

「ええ、良いんですか?」

「全然問題ないよ。その代わり、今日は簡単に話をしてあげよう」


 ということで、現地に着く間に僕もヘンリーさんに色々と教えて貰うことになりました。

 そして僕とスラちゃんが頑張って勉強するので、必然的にエミリーさんとナンシーさんも勉強せざるを得なくなりました。

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