第十五話 村での奉仕作業

 実は時々探索魔法を使っていて、その結果をヘンリーさんに共有していました。

 大きい反応は段々と僕たちに近づいてきていて、もしかしたら僕たちをテリトリーに入ってきた邪魔者だと思っているのかもしれません。

 そして、数分もしないうちに大きい反応と接触しました。


「ブブー!」

「やっぱりビッグボアか。それにしても、丸々と太っているな」


 とても大きなビッグボアが、僕たちの少し前に姿を現しました。

 鼻息も荒く、僕達と戦闘する気満々ですね。

 でも、実際に戦闘は起きませんでした。


 シュイーン、もわーん。


「ブ、ブ、ブ……」


 ドシーン。


 今度は、スラちゃんが闇魔法のスリープを使ってビッグボアを眠らせました。

 ビッグボアは大きな音を立てて地面に倒れたけど、全く起きる気配がありません。

 またまた近衛騎士が近づいて、ビッグボアの状態を確認します。


「で、殿下、ビッグボアはぐっすりと眠っております」

「全く起きる気配がありません」

「じゃあ、トドメを刺してスラちゃんに血抜きして貰おう。これだけ大きいと、取引価格もかなりのものになるな」


 ビッグボアも、あっさりとトドメを刺してスラちゃんに血抜きをしてもらいます。

 血抜きもササッとしてくれるので、とても助かります。

 その後もイノシシやオオカミなどと遭遇したのですが、スリープや拘束魔法で動けなくしてから安全にトドメを刺します。

 こうして、誰一人怪我をする事なく昼食前に必要な分の害獣駆除が終わりました。

 馬車に乗り込んで、村長さんの村に向かいました。


「ナオ君は、動物討伐にも慣れているのね。とても感心したわ」

「その、たまに僕とスラちゃんだけで討伐をさせられたので、安全対策をして倒していました」

「うん、訂正するわ。ナオ君は、安全な討伐に慣れざるを得なかったのね」


 シンシアさんが僕の話を聞いて微妙な表情をしているけど、あの三人は面倒くさいって言って全く動かなかった事もあったんだよね。

 でも、その経験が今回生きたのかもしれません。

 そして、村長さんのうちの前に今日の成果をどーんとお披露目しました。


「こ、こりゃ凄い。時間をかけずにこんな量を狩るとは……」

「すげー、ビッグボアだぞ。こんな大きいのは見たことがない」

「血抜きも完璧だ。いったい、どうやったらこんな血抜きができるのだろうか?」


 村人も沢山集まってきて、今日の成果を見てビックリしていました。

 村には必要な分を卸して、残りは冒険者ギルドに卸します。

 うーん、予定よりもかなり早く終わっちゃったけど、この後どうするのだろうか?

 すると、僕たちのところに一人の女性が赤ちゃんを抱いてやってきました。

 赤ちゃんは、熱があるのか苦しそうにしています。


「あの、殿下、大変申し訳ありません。どうか、この子を治療してくれませんか?」


 女性は、涙を浮かべながらヘンリーさんに懇願しています。

 僕はヘンリーさんの方を向くと、ヘンリーさんもコクリと頷きました。


「直ぐに治療しますね。えーっと、熱だけでなく胸にも悪いのがあります」

「なっ、そこまで分かるのですね」


 赤ちゃんに軽く魔力を流したけど、あまり具合が良くなさそうです。

 僕は赤ちゃんが元気になるようにと、魔力を溜め始めました。


 シュイン、ぴかー!


「ああ、この子の顔色が良くなりました」

「ふう、これで大丈夫ですよ。ゆっくりと寝かせてあげて下さいね」

「ありがとうございます。本当にありがとうございます」


 女性は涙をこぼしながら、何回も僕にお礼を言ってきました。

 僕としても、赤ちゃんを無事に治療できてホッとしています。

 そんな僕を見て、ヘンリーさんがとある提案をしてきました。


「ナオ君、まだ魔力は残っているか?」

「全然大丈夫です。スラちゃんも、沢山魔力が残っています」

「なら、昼食後に奉仕で治療を行おう。村長、村の教会を借りるぞ」

「大変ありがたい申し出です。本当に助かります」


 こうして、昼食後に村の教会で治療をする事になりました。

 村人が元気になるのなら、僕も頑張って対応するよ。


「私も回復魔法が使えるから、治療の手伝いをするわ」

「私もよ。ナオばかりに、負担はかけさせないわ」


 シンシアさんとエミリーさんも回復魔法が使えるそうなので、僕とスラちゃんと一緒に治療を手伝ってくれます。

 回復魔法が使えないナンシーさんが、僕達の事を羨ましそうに見ています。

 ま、まずはお腹をいっぱいにしましょう。

 みんなで、村の食堂に移動しました。


「はい、焼き肉定食です」

「久しぶりね。ここの焼き肉定食は、とても美味しいのよ」


 みんなで焼き肉定食を頼んだけど、いの一番にナンシーさんがお肉を食べ始めました。

 僕も焼き肉を食べるけど、焼き加減が絶妙でとっても美味しいです。


「ヘンリーは、こういった肩肘張らないでいい食事は好きよね」

「やっぱりマナーを守って静かに食べる食事は、私でも肩が凝るよ」

「お兄様の肩が凝るなら、私なら余計に肩が凝るわ。やっぱりお肉にかぶりつくのって、とても良いわね」


 ロイヤルな方々も、焼き肉定食を楽しみにしていたみたいですね。

 思い思いに、お肉を食べていました。

 そして、僕もスラちゃんも焼き肉定食を完食しました。

 昼食後は、村の教会に移動します。


「急に場所を借りて申し訳ない」

「いえいえ、こうして皆さんに治療をして頂けるのなら、きっと神もお喜びになると思います」


 ヘンリーさんが教会の人と話をしている間に、僕達は治療の準備を進めます。

 既に教会内に沢山の人が集まっていたので、直ぐに治療を始めました。

 何故か、僕の前には男性が沢山並んでいました。

 何でだろうって思っていたら、並んでいた人が理由を教えてくれました。


「やっぱり若い女性に治療を受けるのって、気が引けるんだよな。あんちゃんとスライムがいてくれて助かったぞ」


 うーん、僕は気にしないけど他の男性はシンシアさんとエミリーさんが偉い人ってのもあって気が引けるそうです。

 因みに、スラちゃんは子ども達にも大人気でした。

 スライムが魔法を使うのが、とっても珍しくて面白いそうです。

 こうして昼食後の一時間を治療に費やし、僕たちは村から王都への帰路につきました。

 僕としても、みんなの力になれてとっても嬉しかったです。

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