第十六話 重大な問題を起こした三人

 パカパカパカ。


 馬車に乗っている最中、ヘンリーさんが僕に申し訳ないように話してきました。


「ナオ君、今日はナオ君を試すようにして済まなかった」

「いえ、僕もどれだけ皆さんの力になれるか分からなかったので、とっても助かりました」

「そう言って貰えると助かる。シンシアも、ナオ君は魔法使いとして良い素質を持っていると褒めていたよ」


 シンシアさんに顔をむけると、僕にニコリとしてくれました。

 今日は合格点を貰えたみたいで、僕としてもホッとしています。


「ナオ君が安全を考えて対処してくれるので、我々もとてもやりやすかった。如何に効率良く依頼をこなせるかが、冒険者として必要だと私は考えている」

「僕も、確実性は必要だと思っています。派手に戦っても、成果が得られなければ意味はないので」

「冒険者は、報酬を貰って生活する。ナオ君の考え方は、正しいと考えているよ」


 あの三人は派手に戦うことしか考えていなかったから、獲物がズタボロになる事が度々あった。

 もちろん買取価格も悪かったけど、三人はおかしいってギルドの職員に食って掛かったよなあ。

 僕が三人を止めても突き飛ばされたし、結局ギルドマスターが出て来て三人を叱っていたっけ。

 そんな事を思いながら、僕達は冒険者ギルドに到着。

 すると、僕が馬車の中で思っていた事が繰り広げられていました。


「お前ら、薬草じゃなくて雑草を採ってくるとはどういう事だ! こんな適当な仕事をして全部買い取れだと? ふざけた事をぬかすな!」

「「「ヒィィィ……」」」


 買い取りブースで、ギルドマスターが三人に説教をしていました。

 どうも朝受けようとした依頼は諦めて、誰にでもできる薬草採取を選んだみたいです。

 雑草を集めてきて、とんでもないトラブルになっているみたいですが。

 流石にこの状態では今日捕まえた獲物を卸す事が出来ないので、僕達は受付の後ろを通って買い取りブース裏手にある倉庫に案内されました。


 ドサドサ。


「よーし、これで全部だな。ナオがいると、血抜きも完璧だ」


 僕とスラちゃんの事を知っている職員が、今日みんなで倒した獲物を見て上機嫌になっていました。

 査定をしてくれる事になったのですが、どうもこの職員があの三人の対応をしたみたいです。


「あいつら、いつもナオ一人で薬草採取に行かせていただろう。ナオができるなら俺たちもできるって言って、採ってきたのは全部雑草だ。ナオを馬鹿にするにも程があるぞ」

「あ、あはは……」

「ナオはいつも完璧に薬草を集めるから、薬草採取と言えども良い金額になったがな。何であいつらが、ナオの薬草採取の成果を知っているかは知らねーが」


 あっ、職員が余計な事を言っちゃったから、全員が僕の方を向いちゃった。

 えーっと、これは素直に話さないと駄目なケースですね。


「あの、その、三人がお酒を飲んで翌日動けなくなる時があります。そんな時は、僕とスラちゃんで薬草採取をしてお金を稼ぎました。その、殆どお金を取られましたけど……」

「うん、分かったわ。あの三人がクズって事ね」


 エミリーさんが短く纏めて、他の全員が頷きました。

 というか、呆れを通り越して溜息をついていました。

 しかし、職員は別の意味で呆れていました。


「幾らパーティを組んでいたとはいえ、薬草採取はナオ個人が受けた依頼だ。それを、他の連中が受け取るのはあってはならない事だ。薬草採取の件は、ギルドマスターに報告しよう」


 腕を組みながらうーんと考えちゃっていたけど、ギルドマスターまで話がいくとなるとかなり大変な事になる気がするよ。

 でも事実だし、報酬の件は既にギルドマスターが動いているんだよね。

 取り敢えず倒した獲物の卸は終わったけど、まだ買い取りブースでのギルドマスターの怒鳴り声が聞こえてくるので僕たちは個室で待機する事になりました。


「あの三人のことは置いておいて、明日の話をしよう。明日は、王都に隣接する子爵領での調査だ。怪しいものが報告されているので、気を抜かないように。なお、調査の進展によっては一泊する可能性もある」


 どうやら、明日の調査がヘンリーさん達の本命みたいです。

 危険も伴う可能性があるから、僕もスラちゃんも気をつけないと駄目だね。

 そして、ヘンリーさんがエミリーさんにとある事を告げました。


「エミリーは、勉強がある日だからそっちを優先だ。明後日は礼儀作法の勉強だったな」

「そ、そうだった……」


 エミリーさんは、この世の終わりみたいな表情をして落ち込んでいました。

 王族だから、色々な勉強があって大変そうですね。

 シンシアさんもナンシーさんも、こればっかりは仕方ないという表情をしていました。

 すると、このタイミングでギルドマスターが個室にやってきました。

 どうも、説教タイムは終わったみたいです。

 喋って喉が渇いたのか、僕の紅茶を一気飲みしました。


「馬鹿だとは分かっていたが、ありゃ超弩級の馬鹿だな。あのメンツで、よくナオがやってくれたと思うぞ」


 僕以外全員が、ギルドマスターの発言にウンウンと同意していました。

 若干、スラちゃんの同意の仕方が激しい様に思えたけど。


「重大な事態を二回引き起こすと、冒険者ライセンスは停止になって懲罰対象となる。既にナオへの不当な対応を調べているから、奴らは近日中に今日の大騒ぎと併せてライセンス停止になるだろう。ナオをパーティから追放して、僅か一日でこうなるとは流石に思わなかったぞ」


 冒険者ライセンス停止のルールも、確か登録時に受け取った冊子に書いてあったっけ。

 いずれにしても、あの三人は近い内に冒険者として活動できなくなるんだ。

 そう思ったら、何だか少し気持ちが軽くなりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る