第十四話 王都近郊の村に到着

 王都を出発して一時間後、僕達を乗せた馬車は予定通りに王都近隣の村に到着しました。

 村といってもそこそこ大きなところで、食堂兼宿もありました。

 まずは、村長さんのところにご挨拶に向かいます。

 何回か来たことがあるらしく、ヘンリーさん達は普通に村長さんの家に入っていきました。

 村長さんは、頭は髪の毛がないけどとっても立派なアゴヒゲを生やしています。


「ヘンリー殿下、こんな小さな村に来て頂き真に申し訳ない」

「村長、この村は王国直轄の村になる。私達が対応しないとならないので、お気になさらず」


 第二王子が直々に小さな村に来ているので、村長としては心苦しいのでしょう。

 でも、ヘンリーさんとしては謎の調査を兼ねてやってきているので、全く気にしていません。

 すると、村長さんはエミリーさんの隣にいる僕の存在に気が付きました。

 というか、爆弾を投げ込んできました。


「ヘンリー殿下、こちらの可愛らしい少女はどなたでしょうか?」

「ナオと言いまして、とても優秀な魔法使いです。あと、その、ナオは男の子です……」

「これは大変失礼しました。とても可愛らしいので、てっきり……」


 あの、女性陣に限らず護衛の近衛騎士も村長さんの発言を聞いて肩を震わせています。

 ヘンリーさんも苦笑いしているし、僕も苦笑しかできないです。

 取り敢えず話は終わったので、目的の森の近くまで馬車で移動します。


「ぷぷぷ、村長さんはナオ君を女の子と本気で勘違いしていたわね」

「お、お腹痛い。悪気も全く感じなかったわ」

「ふふ、ナオはとっても可愛いから仕方ないわね」


 馬車に乗って少し進んだところで、シンシアさん、ナンシーさん、エミリーさんが大爆笑していました。

 うう、今までもたまに女の子に間違われる事があったけど、こうも面を向かって言われるとショックです。


「流石に私も対応に困ったよ。村長も悪気はないから許してやってくれ」

「はい、もう、それは……」

「ナオ君が女の子みたいに綺麗な顔なのは、私も同意するがね」


 ヘンリーさんも、思い出し笑いしながら僕に話しかけてきました。

 はあ、帰りに村長さんと会うからどうやって顔を合わせればいいんだろうか……

 どよーんとした気持ちのまま、目的の森の前に到着しました。

 馬車から降りると、直ぐにヘンリーさんが僕に話しかけてきました。


「ナオ君、大体でいいから感じる範囲でどのくらい動物がいるか確認してくれ。あと、何か感じる事があったらそれも教えてくれ」


 さっそく初めてのお仕事ですね。

 僕は買ってもらった杖を構えて、魔力を溜め始めました。


 シュイン、シュイン、シュイン、ぴかー!


「ナオ君、いきなり凄いところを見せてくれたわね」

「ええ、この規模の探索魔法を使えるなんて、本当に凄いわ」

「もうこの時点で、ナオが凄腕の魔法使いだと分かったわ」


 僕の後ろで女性陣が何か言っているけど、まずは感じ取った事を伝えないと。

 僕は、探索魔法の結果をヘンリーさんに伝えました。


「大体周囲五キロほど探索をしましたが、右手側一キロほどに沢山の動物の反応がありました。多分シカだと思います。その先に、とても大きな反応が一つありました。大型のイノシシかなと。あと、特に悪意とかは感じません」

「分かった。シカは二十頭は間引いてもいいから、そこから使おう。イノシシはビッグボアの可能性もあるな」


 ヘンリーさんは、僕の探索結果を聞いて直ぐにこの後の作戦を立てていました。

 調査もあるけどあくまでも害獣駆除の依頼だから、村人の為に頑張らないと。


「よし。では、行くぞ」

「「「「おー!」」」」


 僕達は、ヘンリーさんの掛け声に合わせて一気に動き始めました。

 シンシアさんもシカの大体の場所を把握していて、ヘンリーさんに軽く頷いていました。

 そして、森の中に入りました。


 ガサガサガサ。


 森の中を進むこと二十分、僕達の少し先にシカの群れが見えてきました。

 とはいえ、僕達のところから少し距離があるし、これ以上近づくと逆に臭いで気づかれます。


「さて、エリアスタンで纏めて倒しても良いが、ナオ君ならどうする?」


 ヘンリーさんが真剣な表情で僕に聞いてきたけど、もしかしたら僕の実力を試そうとしているのかも。

 この位置からだと拘束魔法は決まり難いので、確実に広範囲で痺れさせるエリアスタンは第一候補になります。

 ただ、魔力消費も激しいので、出来れば避けたいところです。

 ですので、僕は別の魔法を使います。


「僕は、闇魔法のスリープを使います」

「ほう。なるほど、その手もあるのか。では、ナオ君にやってもらおう」


 ヘンリーさんの指示も出たので、僕はシカに気づかれないようにこっそりと魔力を溜め始めました。

 距離はあるけど、ここからなら大丈夫です。


 シュイーン、もわーん。


「ピッ、ピィ……」


 バタンバタンバタン。


 僕のスリープの魔法が上手く効いたのか、シカの群れは一斉に地面に倒れました。

 近衛騎士が先行して、僕たちもシカの群れに近づきます。


「す、凄い。全て寝ております」

「後は、トドメを刺すだけです」


 近衛騎士の報告を聞いて、ヘンリーさんが僕達にコクリと頷きました。

 そして、キラリと剣を抜きました。

 あっ、この方法を提案してみよう。


「ヘンリーさん、スラちゃんはスライムの特性を生かして綺麗に血抜きができますよ」

「それは助かる。オオカミなどに気づかれない為にも、素早い血抜きは必要だ」


 こうして僕も手伝う中、あっという間に必要な分のシカの間引きと血抜きが完了しました。

 スラちゃんも、とっても張り切って血抜きをしています。

 血抜きが終わったシカは、僕のアイテムボックスに収納します。


「本当に楽に倒し終わったわね。エリアスタンは結構激しい光が出るから、他の動物や魔物が逃げたり逆に興奮して襲ってくるんだよね」

「そうそう。それに、スラちゃんが完璧な血抜きをしてくれたから、買取価格もアップするわ」

「ナオもスラちゃんも、本当に凄いわ。しかも、余裕でこの数のシカをアイテムボックスにしまっているわ」


 シンシアさん、ナンシーさん、エミリーさんにも高評価を貰って、僕もスラちゃんもホッと一安心です。

 次は、大きな反応のあったところに向かいました。

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