第十三話 受付で騒いでいた三人

「いやあ、思った以上に美少年だったわ。とっても性格も良さそうね」

「あら、エミリーもナオ君の可愛らしさに気がついたのね」

「本当にナオ君は可愛いよね。思わず食べちゃいたいくらいね」

「にーに、かわいーよ!」


 ようやく離れたエミリーさんと共に、女性陣が不穏な話をしています。

 セードルフちゃんも混ざって、何を話しているのやら。

 それはさておき、王城に仕事にいくランディさんも出てきたので今のうちに挨拶をします。


「ランディさん、一晩泊めて頂きありがとうございました」

「「えっ?」」


 あれれ?

 僕とスラちゃんがペコリとお礼を言ったら、ランディさんとヘンリーさんが僕を見て固まっちゃいました。

 ワイワイと話をしていた女性陣とセードルフちゃんも、話を止めて驚いた表情をしながら僕の方を向き直しました。

 僕、何か変な事を言っちゃったかな?

 そんな事を思っていたら、ヘンリーさんが何かに気がつきました。


「ナオ君、もしかして依頼料が入ったらオラクル公爵家から宿に移る気では?」

「はっ、はい。そのつもりです」

「ああ、うん。ナオ君の性格ならそう言うよね」


 ヘンリーさんは、何かに納得したかの様にウンウンと頷いていました。

 公爵家の屋敷だし、あまり長居してはいけないと思ったんだけど。

 何か間違っちゃったのかな?

 するとヘンリーさんは、表情を改めて僕の方を向きました。


「ナオ君、暫くオラクル公爵家に滞在して貰う。これは決定事項だ。あの三人か安宿から別の宿に泊まっているから、思いがけずはち合わせする可能性も否定できない」

「あっ、そうでした……」

「最低でも、あの三人の件が片付くまでは宿に泊まるのは禁止だ。冒険者ギルドにも、必ず誰かと一緒に行く事。誰も同行できない場合は、冒険者活動自体お休みだ」


 昨日あの三人と別れたけど、まだ何かをしてくる可能性は否定できない。

 だからこそ、ヘンリーさんは僕に制限事項を話したんだ。

 他の人も、ヘンリーさんの話を聞いてウンウンと頷いています。


「ナオ君、我が家に泊まることは気にしなくてよい。勇者パーティに保護されたのに、またトラブルになるのは極力避けないとならない」

「分かりました。今夜も宜しくお願いします」

「わーい!」


 ランディさんは、僕がペコリと頭を下げると満足そうに頷きました。

 セードルフちゃんも、僕が泊まると分かって大喜びですね。

 そろそろ時間なので、それぞれの馬車に乗り込みました。


「じゃあ、行ってくるぞ」

「行ってきます」

「いってらっしゃーい!」


 元気なセードルフちゃんの声に見送られながら、ランディさんは王城に、僕達は冒険者ギルドに向かいます。

 僕は、ナンシーさんとエミリーさんに挟まれる形で座りました。


 パカパカパカ。


 馬車に乗って直ぐに、エミリーさんが僕に話しかけてきました。

 どうも、エミリーさんはスラちゃんにも興味があるみたいですね。


「ねえナオ、スラちゃんっていつから一緒なの?」

「僕がとっても小さい時からです。それこそ、セードルフちゃんよりも小さい時ですよ。スラちゃんは、僕よりもお兄さんです」

「そんなに昔から一緒だったのね。ふふ、それに、スラちゃんの方がナオよりもお兄ちゃんなんだ」


 スラちゃんが僕の頭の上でドヤってしているけど、僕にとっては家族とは別のお兄ちゃんって感じなんだよね。

 昨日もいっぱい助けてくれたし、本当に助かっています。

 そして、あっという間に冒険者ギルドに到着しました。

 僕たちは指名依頼なので、受付で手続きをしてそのまま現地に向かいます。

 順番に並んでいると、前の方から罵声が聞こえてきました。

 姿は見えないけど、この声は間違いなくあの三人でした。


「おい、何でこの魔物討伐の依頼が駄目なんだよ! いつも受付していただろうが!」

「この依頼は、四名からになります。ですので、三名では受けられません」

「くそっ」


 えーっと、もしかしなくともあの三人は依頼票をよく確認しないで受付に持って行ったんじゃないかな?

 受付できるレベル云々じゃなくて、そもそも募集要項にあっていないのはまずい気がしますよ。


「はあ、依頼票も確認しない程度のレベルだったとは。相手にするのも馬鹿馬鹿しいわね」


 エミリーさんが、嫌そうな顔を隠さずあの三人に思いっきり毒を吐いていますね。

 というか、他の冒険者も口々に「何をやっている!」とか「さっさとどけ!」ってあの三人に思いっきり怒鳴っています。

 結局、三人はこの人数で受付可能な依頼を探しに行ったので僕たちははち合わせする事なく受付を済ませる事ができました。

 そして、余計なトラブルを避けるためにささっと馬車に乗り込んで目的地に向かいました。


 パカパカパカ。


「あの、すみません。ヘンリーさんが言った意味が良く分かりました。まさか、ここまで酷いとは思いませんでした」

「分かってくれればいいよ。それに、トラブルが重なるたびに奴らはナオ君に恨みを募らせるだろう。自分勝手な理論だがな」

「何となく分かるわ。今までナオ君が色々やっていたのを、あの三人は自分たちでやらないとならない。自分たちがナオ君を追い出したのに、更に自分勝手に色々と思うわよ」


 あの三人が僕を追放してたった一日で依頼の受付トラブルまで起こすとは思ってもいなく、僕も考えが甘かったと反省しました。

 ヘンリーさんとシンシアさんが、ショボーンと項垂れている僕の頭を優しく撫でてくれました。


「あの三人はナオ君に何も言うなって強要していたんだから、ナオ君がいくら良いことを言っても無駄よ」

「それに、今はナオには私達がついているから。安心してね」


 ナンシーさんとエミリーさんも、僕に優しく話しかけてくれました。

 何だか、心がとっても軽くなったよ。

 スラちゃんも大丈夫って慰めてくれるし、心配してくれる人がいるって心強いね。

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