第十二話 新たな王女様との出会い

 ちゅんちゅん。


「うーん、うん? ここはどこだ?」


 ふかふかのベッドの中で、僕は目を覚ましました。

 体を起こして眠い目をこすりながら、周囲を見回します。

 えーっと、ここは確か……

 あっ、思い出した。

 僕は豪華な部屋を見て、昨日の激動の一日を思い出した。

 夢のような出来事だったけど、僕はパーティを追放されて本当に勇者様に助けられたんだ。

 そして、とっても豪華な屋敷に泊まったんだ。

 枕元で寝ているスラちゃんをちょこんと突っついてから、僕はお手洗いに行きました。

 今日からヘンリーさん達と一緒に行動するんだ、僕も頑張らないとね。


「よっと、じゃあ始めようと」


 僕は気持ちを落ち着ける為に、ソファーに座って毎日やっている魔力制御の訓練を始めました。

 実家は魔法使いが多いので、自然と両親に色々な魔法訓練の方法を教えて貰いました。

 そして、今日は体の中の魔力をぐるぐると回す魔力循環を行います。

 魔力循環なら危なくないし、どこにいてもできるもんね。


 ぴょーん。


「わっと、スラちゃんおはよう」


 魔力循環をしている間にスラちゃんが目を覚ましたみたいで、僕の膝の上に飛び込んできました。

 スラちゃんと一緒に再び魔力循環を再開して、訓練後は冒険者服に着替えました。


「おはようございます」

「やあ、ナオ君おはよう」


 部屋を綺麗にして荷物を持って食堂に行くと、ランディさんが朝食を食べていました。

 ランディさんは、朝早くから王城に行ってお仕事をするそうです。

 偉い人って、本当に大変なんですね。


「ナオ君は、起きるのが早いんだね」

「その、魔法の訓練をしていたのもあったんですけど、三人の道具を用意する必要もあったので……」

「はあ、朝早く起きざるを得なかったのか。それは失礼した」


 ランディさんは僕が早く起きる理由を聞いて思わず謝っちゃったけど、実家でも魔法の訓練をしていたからどっちにしてもいつも早起きだったんだよね。

 朝食をもしゃもしゃと食べながらそんな事を思っていたら、とっても眠そうなナンシーさんとそんな娘を心配するレガリアさんが食堂に入ってきました。


「おはよー、ござい、ますー」

「この子ったら、昨夜ナオ君と冒険できるとワクワクして寝不足になったそうよ」

「あふー」


 大あくびをしているナンシーさんを他所に、レガリアさんはちょっと苦言を呈していました。

 道中馬車で移動するから寝ても大丈夫だけど、ここまでフラフラになるまで夜更かしをするのは駄目だよね。

 朝食を食べ終わったところで、食堂に元気の良い声が響きました。


「にーに、あそぼー!」

「もしゃもしゃ、ねむーい……」


 ひと足先に朝食を食べ終えていたセードルフちゃんが食堂に入ってきたけど、ナンシーさんが朝食を食べ終えるのに時間がかかりそうです。

 僕は食堂を後にして、セードルフちゃんと一緒に庭に移動しました。


「じゃあ、こっちまでおいで」

「いくよー!」


 僕とスラちゃん、それにセードルフちゃんは、庭で追いかけっこをしています。

 セードルフちゃんはとっても元気いっぱいで、一生懸命に庭を走り回っています。

 ガイルさんは屋敷の執務室でお仕事をしていて、イザベルさんはレガリアさんと一緒に無理のない範囲で接客などの対応をしているそうです。

 みんながお仕事の間はセードルフちゃん一人になっちゃうので、僕を遊びに誘ったみたいですね。


 パカパカパカ。


「おー、ばしゃだー!」

「危なくないように、こっちに行こうね」

「はーい」


 ここでオラクル公爵家の敷地内に、少し大きめの豪華な馬車が入ってきました。

 騎馬隊の護衛もついていて馬も二頭で馬車を引いているし、幌馬車よりもずっと大きいかも。

 セードルフちゃんと手を繋いで待っていると、馬車の扉が開いて昨日出会った人達が降りてきました。


「ヘンリーさん、シンシアさん、おはようございます」

「やあ、ナオ君おはよう。昨夜はゆっくりと寝れたかな?」

「セーちゃんも、朝から元気いっぱいね」


 今朝も勇者様スマイルが眩しいヘンリーさんに、セードルフちゃんの頭を優しく撫でるシンシアさんの姿がありました。

 二人とも、冒険者スタイルですね。

 そして、もう一人女性がついてきていました。

 金髪の髪をツインテールにして、騎士なのかナンシーさんとよく似たライトプレートを装備している元気いっぱいって感じの女性です。

 髪の毛の色がヘンリーさんに凄く近いけど、もしかして……

 すると、僕の視線に気がついたヘンリーさんがその女性を紹介しました。


「ナオ君、紹介しよう。私の妹で今年十歳になるエミリーだ」

「は、初めまして。僕はナオです、このスライムはスラちゃんです。宜しくお願いします」

「エミリーよ。ナオ、宜しくね」


 エミリーさんはぺこりと頭を下げた僕にニコッと笑いかけると、僕に近づいてきました。

 握手でもするのかなと思っていたら、僕も僕の頭の上に乗っているスラちゃんもビックリする行動をとってきました。


 ぎゅっ。


「あれ? エミリーさん?」

「うーん、髪の色もとっても綺麗だし目の色も綺麗だし、女の子みたいに肌もスベスベね」

「えーっと……」

「ぼくもぎゅーする!」


 エミリーさんはいきなり僕に抱きついてきて、色々なところを触ったり頬擦りしたりしてきました。

 突然の事で、僕もスラちゃんも思わず固まっちゃいました。

 セードルフちゃんがエミリーさんに対抗して僕の足に抱きついてきたけど、そんな事を気にする余裕はありませんでした。


「ふむ、好き嫌いがハッキリしているエミリーがあそこまで気にいるとは」

「私は、ナオ君なら当然だと思いますわよ。既に王都の女性冒険者を虜にしていますし」


 ヘンリーさんとシンシアさんも、微笑ましいものを見ているという表情をしているだけで、僕の事を助けに来てくれません。

 もちろん、セードルフちゃんを引き剥がす事もできません。


「ふわあ、おはよー。って、何が起きているの?」

「「ギュー」」


 結局、騎士服に着替え終わったナンシーさんがやってきても、エミリーさんとセードルフちゃんは僕から離れてくれませんでした。

 二人が僕から離れたのは、抱きついてたっぷり五分が経過してからでした。

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