第六話 宿での事件

 一時間後、僕は女性陣からようやく解放されました。


「うんうん、良い感じに仕上がったわ」

「とても愛らしい装備ですわ」

「あっ、ありがとうございます」

「「「ナオ君可愛い!」」」


 僕が良い仕事をしたという表情の女性陣にペコリと頭を下げると、みんながニコニコしながら頭を撫でてきました。

 今の僕は、普段着にも使える長袖半ズボンに革の靴を履いていて、濃い青色のマントを羽織っています。

 更に、取り扱いやすいダガーと堅い木でつくられた杖も買ってくれました。

 因みに、ボロボロの服はアイテムボックスにしまいました。

 僕がアイテムボックスを使ったら、女性陣はとってもビックリしました。

 どうもアイテムボックスを使える人は多くないそうで、貴重な存在だと言われました。

 おや?

 スラちゃんを肩に乗っけているヘンリーさんが、側にやってきたギルドの受付のお姉さんから話を聞いて驚いた表情をしているよ。

 何かあったのかな?


「ナオ君、急いで泊まっていた宿に向かうよ。どうもトラブルがあったみたいだ」

「えっ、トラブルですか?」

「どうもお金絡みみたいだ。あの三人が、何かをやらかしたみたいだよ」


 ヘンリーさんの話を聞いたら、僕はシンシアさんとナンシーさんと思わず顔を見合わせてしまいました。

 とっても嫌な予感がしたので、僕たちは急いで僕と三人が泊まっていた安宿に向かいました。

 冒険者ギルドから安宿まですぐ近くなので、あっという間に到着です。

 カウンターに行くと、衝撃の事実が待っていました。


「あの三人、ナオ君に支払いを押し付けて別の宿に行っちまったよ。あと、ナオ君の荷物っぽい物も持ち出していたよ。止めようとしても、走っていっちまったよ」


 宿のおばちゃんが困ったように話してくれたけど、僕はあまりの衝撃に固まってしまいました。

 またまた急いで僕達が泊まっていた部屋に向かうと、二段ベッドが二つおいてある部屋の中にあった物が空っぽです。

 荷物を色々と入れていた僕の大きなリュックサックも、僕の寝ていたベッドから綺麗さっぱりなくなっていました。

 衝撃のあまり、僕は床にペタリと座り込んでしまいました。

 スラちゃんが僕の肩に乗ってきて、大丈夫かと触手で僕の頬をペシペシとしてきました。


「あの、僕がみんなの荷物を持っていたんです。それで、移動用に大きな中古のリュックサックに色々な物を入れていました。テントや寝袋もです」

「という事は、三人は小さなナオ君に荷物持ちをさせていたのか。まるで奴隷みたいな扱いだな」


 ヘンリーさんは僕の側に座って、スラちゃんと反対側の肩をぽんぽんと優しく叩いてくれました。

 そして、シンシアさんとナンシーさんも優しく声をかけてくれました。


「冒険者ギルド内でもお金を要求していたし、いくらパーティの共有財産とはいえやっている事が窃盗犯だわ。半ば強引に追い出された上に、こんな目に合うなんて……」

「ナオ君は全く悪くないわよ。だから、今はショックかもしれないけど、私達が付いているから大丈夫よ」


 こうして僕がショックから立ち直るまでの間、ヘンリーさんたちはとても優しくしてくれました。

 流石に部屋の中に長時間いる訳にもいかないので、僕たちは再びカウンターに移動しました。


「そうかい、ナオ君はあのパーティから追い出されたのね。でも、いつも素直に挨拶をするナオ君が傍若無人な三人とくっついているのがおかしいと思ったんだよ」


 宿のおばちゃんに今日の事を説明すると、おばちゃんも僕の頭を優しく撫でてくれました。

 みんな揃って、僕があの三人と一緒にいるのはおかしいって言ってくれました。

 すると、ここでヘンリーさんがおばちゃんにとある事を言ってきました。


「女将さん、今回かかった費用は私が建て替えます」

「えっ! ヘンリーさん、僕が払わないと駄目ですよ」

「いや、これは私が払う。それで、もしお金を払う事になっても、後で私に払えばいいさ」


 僕は、ヘンリーさんに申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 僕の事を助けてくれただけでなく、お金まで払ってくれるなんて。

 かなり落ち込んじゃった僕の事を、スラちゃんとシンシアさんが優しく抱きしめてくれました。

 すると、ナンシーさんがこんな事を提案しました。


「女将さん、あの三人が泊まる宿は全て前払いだと他の宿に伝える事はできますか? このままだと、更にナオ君に全て押し付ける可能性がありそうです」

「直ぐに組合の会長のところに行ってくるよ。会長も、ナオ君の事は高く評価していたからね」


 宿のおばあちゃんは、宿のおじさんに話をしてから急いで何処かに走っていきました。

 そういえば、一週間前に道端に座り込んでいた体調が悪かったおじいさんを治療した事があったよね。

 もしかしたら、その人が会長さんなのかも知れない。

 すると、おばちゃんは直ぐに一人のおじいさんを連れて帰ってきました。

 やっぱり、前に治療したおじいさんだったんだ。


「ナオ君、色々あったと聞いたけど大丈夫かい? ヘンリー殿下と一緒なら、もう大丈夫だ。既に宿だけでなくて、食堂にも声をかけるように指示を出したぞ」

「会長さん、ご迷惑をおかけしました。色々とありがとうございます」

「何をいうか。ナオ君は何も悪くない。それに、儂はナオ君に命を助けられたから、このくらいやって当然じゃ」


 今日の僕は、本当に色々な人に助けられています。

 こうして会長さんにも、ニコリとしながら頭を撫でてくれました。

 いっぱい助けられちゃったから、今度はいつか僕が恩返ししないとね。

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