第五話 三人の醜い自己主張
話が終わったので、全員個室から出ます。
個室から冒険者ギルド内に僕たちが姿を現すと、不機嫌な表情を隠さない三人がドカドカと足音を立てながら近づいてきた。
どうも僕たち、というか僕に話があるみたいだ。
「おい、お前! 勇者パーティに入ったって、一体どういうつもりだ!」
「どうせ賄賂でも贈ったんだろう? お前は実力のないチビだからな」
「お前じゃなくて、俺たちにその立場を代わりやがれ!」
何となく想像がついていたけど、三人は我に返って僕がヘンリーさん達に連れられたのをおかしいと思ったんだ。
周りにいる冒険者を見るとうんうんと頷いていたから、誰かが僕が勇者パーティに入ったと言ったんだろう。
だから、三人は激昂して僕に文句を言っているんだ。
そして、僕の気持ちにも変化が起きていました。
今までは三人の暴言を聞いてビクビクおどおどしていたけど、ヘンリーさん達が側にいるので少し平気になりました。
スラちゃんも、僕の頭の上に乗りながら触手をふりふりして三人に抗議していますね。
でも、どうやって目の前でギャーギャー騒いでいる三人に個室で話した内容を説明すれば良いんだろうか?
僕が何かを言っても、絶対に納得しないはずだよ。
すると、スッと僕の前にヘンリーさんとギルドマスターが歩み出ました。
更にシンシアさんとナンシーさんも、僕の両側についてくれています。
後ろ姿だけど、ヘンリーさんとギルドマスターがとても怒っているのが何となく分かりました。
「ナオ君は、私たちからスカウトした。そもそもナオ君と直接話したのも、今日が初めてだ。ナオ君が私たちに何かをする事は、今まで一切無かったと断言しよう」
「そもそも、お前らがナオを追放したからこそ事態が動いたんじゃねーのかよ。それを自分に代われとか、余りに都合が良すぎるぞ」
「「「うっ……」」」
ヘンリーさんとギルドマスターから正論を言われて、三人は明らかにたじろいていた。
しかし、ヘンリーさんとギルドマスターの話は止まりません。
二人から放たれる怒気も、更に増した気がします。
「ナオ君は、もう私達のパーティの一員だ。ナオ君を侮辱する事は、私たちを侮辱する事に繋がる。その意味を、君たちは理解しているのかな?」
「お前らは、ナオが邪魔でパーティ追放したんだろう? 冒険者なんだから、ナオが悔しがるくらい自分たちで金を稼いでみろ! そのくらいの根性を見せろ!」
「「「く、くそー!」」」
ダッダッダッ。
三人はヘンリーさんとギルドマスターに更に正論を言われてしまい、捨て台詞を吐いて冒険者ギルドから走り去っていきました。
僕たちの周りにいた冒険者も、やれやれって表情をしていますね。
あっ、ヘンリーさんとギルドマスターにお礼を言わないと。
「ヘンリーさん、ギルドマスター、助けてくれてありがとうございます」
「良いんだよ、このくらい何ともないよ」
「奴らは、自分の都合の良い意見しか聞かないだろう。いくらこちらが注意しても、逃げて聞く耳を持たないだろうな」
ヘンリーさんとギルドマスターは、お礼をいう僕の頭を撫でました。
でも、やっぱりギルドマスターはガシガシと頭を撫でるね。
そして、周りにいた冒険者も僕に声をかけてきました。
「ナオ、あの馬鹿のパーティから抜けて本当に良かった。ナオには悪いが、あの馬鹿は一ヶ月以内に間違いなく潰れるぞ」
「みんながナオを心配していたぞ。ナオならソロでも十分にやれるが、ヘンリー達のパーティに入ったなら安心だ」
「あんな馬鹿を何人も見てきたが、ある一線を越えると一気に転げ落ちる。あいつらも、その一線を越えたんだ」
「ナオは今後絶対に手を貸すなよ。奴らと一緒に転げ落ちる事になる。逆に言うと、ナオが奴らのストッパーだったんだよ」
「俺は、あいつらは一週間持たないと思うぞ」
僕のことを心配している冒険者もいれば、あの三人に手を出すなって忠告する人もいる。
でも、総じて僕にもう大丈夫と笑いかけてくれたよ。
ここで、ある意味傍観者だったシンシアさんとナンシーさんが僕の手を握ってきました。
「さあ、邪魔者はいなくなったから新しい服を買いましょうね」
「たまに購買は使うけど、結構揃っているんですよね」
そして、僕は手を繋がれたままギルド内にある購買に連れられて行きました。
何故か僕の後ろには、女性冒険者がぞろぞろとついてきました。
「ふふふ、前からナオ君にオシャレしてあげようと思っていたんだよね。あの綺麗なプラチナブロンドに似合う服を見繕ってあげたいんだよね」
「可愛いお顔だから、どんな服でも似合いそうだよね。フリフリのスカートとか似合いそう」
「ちょっ、それは反則だわ。想像したら、は、鼻血出そう……」
な、何だか不穏な事を言っているけど、きっと大丈夫だよね?
大丈夫だよね?
スラちゃんはヘンリーさんのところに逃げちゃっているし、ヘンリーさんも購買から離れた受付に避難しています。
ギルドマスターも既に業務に戻っていて、男性冒険者も遠巻きに見ているだけでした。
「いらっしゃい。大勢で来たわね」
「おばちゃん、こんにちは。今日はナオ君の装備を買いにきました」
「ナオ君に似合う服はありますか?」
「あら、遂にナオ君の服を買うのね。ちょうど新作が入荷したのよ。きっとナオ君に似合うわよ」
更に購買のおばちゃんも、シンシアさんとナンシーさんの発言を聞いて盛り上がっちゃいました。
こうして約一時間、僕は女性陣に囲まれながら着せ替え人形となってしまいました。
女性陣のあまりの迫力に、男性陣は僕が解放されるまで購買に近づく事が出来なかったそうです。
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