第三話 僕は冒険者にさせられた
「何故こんな事を聞いたのかは、後程改めて話そう。実は、以前からナオ君のとあるところに目をつけていたんだ」
キリリと勇者様スマイルに戻ったヘンリー様がこういうので、僕の中から何かを見つけたんだ。
どんなところかなと考えていたら、ギルドマスターが割り込んできました。
「ナオ、取り敢えず冒険者ギルドで何があったかを話してくれ。そうだな、出来れば冒険者になった辺りからだな」
ギルドマスターが、真剣な表情をしながら僕に話しました。
確かに、何があったかをキチンと話さないと駄目だね。
僕は、姿勢を正して話し始めました。
「僕は、昨年の夏に冒険者になりました。というか、させられました」
「冒険者にさせられたとは、一体どういう事だ?」
僕の話を聞いて、ギルドマスターだけでなくヘンリーさん達も怪訝な顔に変わりました。
でも、これは本当なんです。
「一応僕とあの三人は幼馴染になっていますが、本当は三人の家の力が強くて地元の人は逆らえない状況でした。そして僕の家は魔法使いが多く生まれるので、そこに目をつけられました。あの三人は一攫千金を目指して冒険者になろうとし、魔法使いだった僕を巻き込みました」
僕が淡々と話すのを、全員が真剣な表情で聞いていました。
スラちゃんもうんうんと相槌を打ってくれるし、これは間違いじゃないんだよね。
「僕は、家の外でスラちゃんと遊んでいたら着の身着のまま強引に三人にバンザスの街に連れて行かれました。そこで冒険者登録をしました。僕が、回復魔法を使えるのが大きかったみたいです。そして、数回目の依頼でたまたま大きなお金を得たのが失敗の始まりでした」
僕が冒険者登録をした経緯を聞いて、特にシンシアさんとナンシーさんが絶句していました。
ヘンリー様も厳しい表情に変わったけど、僕は話をつづけます。
「その、冒険者の仕事は簡単だと、楽にお金を稼げると思ったみたいです。王都に行けばもっとお金を稼げると、そう考えて年が変わって直ぐに王都に来ました。そして、王都に来て一ヶ月も経たないうちに三人のお金使いがとても荒くなりました。あと、依頼も適当にするので、いつも僕がフォローしていました。でも、余計な事をするなといつも言われていました。元々、殆どお金は貰っていなかったのですけど……」
「それで、あの馬鹿三人はナオが勝手な事をすると邪魔者扱いして、さっきパーティから追放したんだな」
ギルドマスターの問いかけに、僕はコクリと頷きました。
ここ一週間くらいは、僕は三人からいつも一方的に責められていました。
年下が年上に指示をだすなと、いつも機嫌の悪そうな表情で僕を怒鳴っていました。
でも、僕は年下だし何よりもあの三人の実家の件があるから何も言えませんでした。
「俺は最初お前らを見た時に田舎から来た近所同士って聞いたから、てっきり仲が良いと思っていた。だが、直ぐに様子がおかしいと気がついたよ。他の冒険者も、あの三人はおかしいと俺に言ってきた」
「えっ、そうなんですか?」
「そうだ。だが、まだ奴らは何も問題を起こしてないし、下手に手出しできなかった。っで、今日を迎えたって訳だ」
やっぱり他の冒険者も、あの三人はおかしいって思っていたんだ。
もっと早く、他の冒険者に助けを求めれば良かったよ。
僕もスラちゃんも、思わず項垂れちゃいました。
すると、ギルドマスターと同じ様な話をヘンリー様もしてきました。
「私も表情が暗いナオ君を冒険者ギルドで見かけていて、優秀な魔法使い抜きにして何とかしてあげたいと思っていた。あの三人は冒険者ギルド内で我が物顔でいたから、絶対に何かをやらかすと思っていたよ」
「その、ヘンリーさんにも気を使わせちゃったんですね……」
「ナオ君が気を病む事はないよ。今日は、別件でギルドマスターと話をしていた。そうしたら、目の前であの事件が起きたんだ」
ヘンリーさんが苦笑しながら話をしてくれたけど、そこまで考えてくれたんだ。
僕は三人によって冒険者にさせられてからずっとスラちゃんと一人と一匹かなって思っていたけど、沢山の人が僕の事を思ってくれていたんだね。
ちょっと、いや、かなり嬉しくなりました。
「取り敢えず、話は分かった。パーティの抜ける抜けないは良くあるが、金を要求するのは駄目だ。報酬を正しく分配する規定もあるし、他の者が一方的にお金を要求するのも禁止だ。登録時に配った冊子にも書いてあるぞ」
「僕は、冊子に書いてあるのを確認しました。でも、三人は冊子を直ぐに捨てました」
「こういうお金絡みのトラブルを起こす奴は、冊子を直ぐに捨てる傾向にある。そういう奴は、冒険者以前に人として駄目だがな」
流石はギルドマスターです。
細かい規定のところまで、しっかりと覚えているんですね。
でも僕は、もうお金は戻ってこないと思っています。
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