第16話 手紙の謎
「おかしい。そんなことあり得ない。」
冬馬は顔面蒼白になっていた。きっと私も同じ顔をしているだろう。
『カナエのことを宜しくね(^-^)』
手紙の最後に書かれたこの一文に、私と冬馬は激しく混乱した。
「どうして10年前の私…高校生の私がカナエのことを知っているの。」
「元々知り合いだったのか?」
「いや…そんな記憶ない…。」
私が高校生の時に8歳のカナエに会っていたってこと?いや…仮にそうだったとしても10年前のことだし覚えていない。10年覚えているほどの出来事じゃないのは確かだ。
冬馬は改めて手紙を最初から黙読した。
「じゃあなんだコレ…。手紙の内容も10年後の自分に宛てたものじゃなくて、10年前の自分に宛てた手紙のようにも受け取れるぞ」
「確かに。」
未来の自分が過去の自分にエールを送っているように感じる。
「しの…あぁ未来、本当に何も思い出せないのか?」
「ごめん。本当に何も思い出せないの…」
またお互い黙り込んでしまった。日もすっかり暮れて蝉の鳴き声も気付けば聞こえなくなっていた。私達はいったん手紙のことを考えるのを辞めて、近所のカフェの話や高校の卒業生がオリンピック選手になった話をした。
一通り話してふたたび沈黙になった後、冬馬はソファから立ち上がりペットボトルをゴミ箱に捨てた。
「あ、未来、今日…その…うちに泊まっていく?」
後ろ姿だけしか見えないが、冬馬の耳は真っ赤に染まっていた。
「しなくても良いなら泊まっても良いよ」
冬馬は焦ったようにこちらに振り返った。
「別にそういう意味で言ったんじゃない!ただもう暗いし送るの面倒くさいなって思ったから!」
「あぁ…それならタクシー呼ぶから良いよ」と言って私はスマホを取り出した。
「まだ一緒に居たいから泊まってください!」
冬馬の顔面は真っ赤だった。
私は我慢することができず吹き出して笑ってしまった。
10年越しの元彼とのお家デート
デリバリーでピザを頼んだ。28歳は胃袋も弱くなってきている。食事の後半は吐き気を催した。ピザは全て食べきれなかった。「まぁ年取ったもんな」と冬馬は呑気に言って、ピザを一つずつラップに包み冷凍庫に入れた。
ピザを食べた後はホラー映画を見た。血の吹き出し方に納得がいかなかったようで冬馬はぶつぶつ文句を言っていた。セックスシーンになると今度は私が演出に納得がいかなかったのでブツブツ文句を言った。
冬馬の家のベットはセミダブルだった。
私も冬馬も何も言わずベットに入った。
お互い足を絡ませてキスをした。また射精されたら困るので舌は入れなかった。
「今日は疲れた」と私は冬馬の目を見て言った。
「俺も。1日中ジェットコースターに乗っている気分だったよ。」
「火曜日、カナエは検察で取り調べがあるの」
私は仰向けの体勢になり、左手でおでこを抑えた。
「ちゃんと上手く話せると良いけどな」
「カナエは今とてつもないプレッシャーの中で生きてる…」
「そうだな。クラスに自分が被害者って隠して学校通っているんだろ」
「そう…」
「しかも否認事件だ。ゴミ教師は同意のある性行為だったって言ってんだろ」
冬馬の口からゴミ教師という言葉が出たことに少し動揺した。
「未来…カナエちゃんのこと頼んだぞ。」
「うん…」
「わざわざ未来からタイムスリップしてきたんだ。ちゃんと爪痕残さなきゃな」と言って冬馬はクスクス笑った。
そう。私はカナエの心の支えになるんだ。あの時ゴミ教師の欲を受け止められなかった罪を償わなきゃ。
私みたいに間違った道には歩ませない。
カナエには明るい未来を…。
そう強く誓いながら私は眠りに落ちた。瞬間、冬馬が私の唇にキスをした気がする。
まぁ…どうでもいいや。
こうして私の長い1日がようやく終わった。
そして3日後、私は検事調べを終えたカナエと日比谷で合流した。残暑も残り僅かと思わせる日だった。
カナエの心はその日、限界を迎えた。
弁護士に抱えられながら泣き叫ぶカナエの姿に、私はただ立ち尽くすことしか出来なかった。
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