第12話 人生で二度と会いたくない元カレ

 「なんで弁護士さんにもタイムスリップの話したのよ。このバカ。」


「えーん。私嘘つくの苦手なんだもん」 


 カナエは嘘泣きしながら、三つ葉のついた生クリームを口に運んだ。昨日から話していた念願のパフェだ。


 「もう弁護士さんに本当のこと話したからね」と私は少しぶっきらぼうに答えた。


 「ええ! どんな反応してたの?」


「まぁ普通。これだけ顔が似てたらタイムトラベルを信じてくれたよ」


 私は息をするように平然と嘘をついた。


 本当はタイムトラベルと嘘をついたことがバレたんだけど…。


「未来ちゃん…?」


「ん、別になんでもないよ」

 私はアイスレモンティーを勢いよく飲んだ。よくスーパーで紙パックで売ってる紅茶と同じ味がした。高校生の時に飲んでたなこの紅茶。

 

 どうしてメニューに“こだわりのレモンティー”って書いてあるんだろう。不思議だ。私の味覚が終わっているのかな。すごい高い茶葉だったらどうしよう。


 そんな、くだらないことを考えていると、「はぁ〜パフェ美味しいなぁ」とカナエは左手を頬に当て、こちらに美味しさを全力で表現した。可愛い。


 カナエと行ったこの店はカレーが少し有名な何処にでもある普通の喫茶店だった。場所が新宿にあるから少し値が張るくらい。パフェなんて抹茶と苺の2種類しか置いていない。


 「もっと美味しいパフェの店知ってたんだけどな。カナエなんでこの店が良かったの?」


 「あーいやー…それがさー」とカナエは何故かはぐらかした。


 「なに?この店好きなの?」


 「まぁー…そんな感じかな。」とカナエは私の目を意地でも合わせないようにしている。


 あぁ…やっぱり…この子嘘が下手だ。何考えているんだ。私は席を見回した。客に特別何かあるわけじゃなさそう。あ、パパ活ペアみたいなお客さんもいる。なんだ…何考えて…。




 「未来ちゃん…その…事件のことなんだけど…」


 「うん。」

 いきなり話を変えてきた。

 

 「裁判になる前に起訴、不起訴っていうのがあるんだね。」


 「そ、そうだね…」

 

 「起訴になったら裁判で、不起訴になったら釈放。検事さんが判断するみたいなんだけど。」


 「うん」

 私は話を聞きながらストローでアイスティーに入っている輪切りのレモンを潰した。果肉がアイスティーの中を舞った。昔、顕微鏡で見た微生物を思い出した。


 「火曜日に検察庁に行って取り調べなんだ。事件のことをもう一度聞かせて欲しいって」


 「付いて行こうか?」


 「いや…多分、未来ちゃんは中には入れないから、終わったらどこかジョイポリスとか行きたい…」

 

 「もちろん。いいよ。」


 「ありがと。」


 カナエと3日間一緒に居て分かったことがある。


 カナエは他者に何をして欲しいかきちんと伝えて行動に移す力がある。事件に遭ったら警察。裁判になる可能性があるなら弁護士。メンタルが病みそうだったら気分転換に私を呼ぶ。


 この子は自分が抱えている壁や、何が今後ストレスになるかを考えて動いている。冷静に頭を回転させている。


 私がタイムスリップしたことを気づかないのは置いといて。


って…いや…本当はそれすらも気づいているのか…。


 カナエはタイムスリップの細かい設定とか、お互いの共通話題である幼い時の自分の話とか、私が困るような質問を一切してこない。


 普通はするんじゃないのか。

 

 じゃあ仮に私のタイムスリップが嘘だと知った上で、カナエが私に近づく理由はなんだ。


 …。あぁダメ。分かんない。普段頭使わないからもう回らない。日々の学習の大切さを実感する。


 「未来ちゃん…紅茶おかわりしなくて良いの?」とカナエは私の顔を覗き込んで心配そうな様子で聞いた。


 「あぁ…もう大丈夫。店出ようか」と私は黒い伝票を持って立ちあがろうとしたところ、カナエは私の手を掴んだ。


 「あ、もうちょっと、いようよ…」とカナエは言って、もう片方の手でスマホの電源をつけ時間を確認した。


 「なんで? 」


 「え、なんでって…その…」

 カナエの目がきょろきょろ泳いでる。泳ぎすぎだって。眼球何処か飛んでいくんじゃないか心配になる。


 そんな焦るカナエを見つめていると、カナエの肩に細くてゴツゴツした長い指が置かれた。


 見覚えのある指。



 『俺がこの店を指定したんだ。」


 さっき病院で聞いた声。いや、高校時代に何度も聞いた声。


 「なっー」


 私は焦るカナエの顔から視線を上に移動した。


『タイムトラベルのことで…助手として急遽お話があって来たんだ。』



 その男は先程の白衣姿とは違って、黒いスキニージーンズに薄手の柄シャツを一枚着ていた。私の方を見てニヤリと笑った。


 「と、冬馬。」


 私は思わず名前を呼んでしまった。


元カレは私のタイムスリップの助手として再び現れた。

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