職人気質

ヤマシタ アキヒロ

第1話

  職人気質かたぎ



理屈はあくまで設計図である

精巧な図面を作り

それを基に

大まかな完成図を思い描く


素材選びに間違いはないか

段取りにごまかしはないか

見えない所に手抜きはないか


直観に頼りすぎてもいけない

日によってムラがあるのは

職人ではない

日々 体調コンディションを万全に保ち

欠点の言い訳にしない


それは建築にも似ている

外枠を組み立て

創造の神とたわむれ

そして最後に足場をはずす


苦心の跡があってはならない

縫い目のない

天女の羽衣はごろものような

あくまで自然なたたずまい


自己のパターンに陥ってもいけない

成功例にとらわれ

時々の吟味を怠ってはいないか

経験というよろいに身を包み

初心を忘れてはいないか


急ごしらえの不安はないか

じっくり寝かせたか

とはいえ

寝かせすぎてもいけない

作品は時間との勝負でもある


そして最後に

そこに「感動」はあるか―――


テーブルを整え

暖簾をかかげ

お客を迎える


それにしても

うまい拉麺を作るのはなかなかに難しい

お客様の「うまい!」

これが職人の喜びのすべてである


                  (了)

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