第13話 突然ですが、“ヤツ”が現れました

 「──というわけで、不穏な動きを見せるおまえたちの監視として、私が遣わされたのだ! さっきの魔法書と魔符はそのために軍から支給された。特にモノウィッチ、おまえは何を考えているかわからないしな!」

「監視する以外の意見はあったんですか?」

「監視がみんなの総意だよ。ただ、サイコフィールドさんは直接攻撃をすればいいと言っていたな!」


 この子、全部しゃべってくれるな。


「オートデン君、君はこれからどうするんだ?」

「そりゃ一旦城に帰って、……いいのか?」


 途中まで言いかけて、不安そうにこちらを見る。


「いいですよね、先生」


 意外にも、モノウィッチが肯定した。


 まあ、無駄に長時間拘束して異常を察知した幹部レベルが出張って来ても面倒だからということだろう。


 十分情報は得たし、一旦は帰ってもらうというのが妥当だ。


「私はそれで構わないよ」

「その代わり、スパイをやらせましょう。……いいですかオートデン」

「いいです」


 オートデンは帰りたい一心といった感じで頷く。


 ところで、気になっていることがある。


「オートデン君、なぜ木の上で固有魔法を?」


 さっき「木の上で固有魔法を使おうとして落ちた」と話をしていたが、ただ監視するだけなら固有魔法を使う必要はないだろう。


 オートデンは思い出すような仕草をしたのち、ポン、と手を叩いた。


「ああ! それは、強化変異したグレイワイバーンがこちらに向かってきてると上司から連絡あったからだ。それでパニくっちゃって」



 ……モノウィッチと私は、顔を見合わせた。


「「……え?」」



 その瞬間、上空からバササササッとやかましい翼の音が響く。


 そして突風と共に私たちの頭上を大きな影が通り過ぎた。


 ……嫌な予感がする。


 そしてその嫌な予感が当たっていることを、ニアリンゲンの市街地方面へと飛んでいくそれ・・を目撃した私とモノウィッチは確信した。


 ……十枚羽グレイワイバーンだ。


 一方のオートデンが胸を撫で下ろす。


「よ、良かったな。私たちに気づいていたら危なかった」


 街が破壊されそうなのは全然良くはないのだが、まあ、確かにオートデンの気持ちもわかる。


 ……いや、ちょっと待て。


「ギルドに預けた私の杖は……?」


 私とモノウィッチは、再び顔を見合わせた。


「「ギルドのある街ごと滅ぼされる・・・・・・・・・・・・・・!!」」



   - -



 どうにか杖を回収したい一心で、私たちは街まで戻ってきた。


 街の門までたどり着くと、どうやら外壁の向こうの街は火の海といった感じで、大混乱をしているようだった。


 一体なぜグレイワイバーンは本来行くべき山脈ではなくこの街へ飛んできたのだろうか。


 とまあ魔術師としては気になるが、今はそれどころじゃないだろう。


 街の外へ避難している人たちの噂話に耳を傾けると、どうやらグレイワイバーンの襲撃で、研究所に捕獲されていた他のドラゴン類も脱走してこの有様らしい。あーもう、めちゃくちゃだよ。


 こりゃ杖の回収は無理だろうか……いやしかしどうにか……。


 そう不安に思いながら私たちが街の門に近づくと、衛兵に止められた。


「ただいま十枚羽グレイワイバーン襲撃により、ブロンズランク相当以下の方の入門を禁止しています。冒険者証をお持ちですか?」


 なるほど。まあ、そうなるか。


 うぬぬぬぬぬぬぬぬぬ。どうにかして入れないだろうか……


 いやしかし、ここは師匠として大人の対応をすべきだ。


 私はモノウィッチたちに言う。


「ここまできてすまない、モノウィッチ君オートデン君。仕方ないから杖は諦めて──」


 するとモノウィッチが耳打ちしてきた。


「先生、ランクアップのチャンスを逃すわけにはいきません。彼らには悪いですが、ここは強行突破と行きましょう。認識阻害をかければ後日バレることもありません」


 ……。


 ……え、ええ〜!? じゃあ いっちゃうぅ!!??

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