第6話 突然ですが、冒険者登録します

(三人称視点)


 ウォルラント王国の豪華絢爛な王宮。


 その中で日々響くのは中央貴族の話し合い、噂話、それから陰口。


 とはいえ近年のもっぱらの話題といえば、やはり魔王軍との戦争についてだ。


 国家の一大事であり、大貴族も人ごとではないのだから当然である。


 しかし最近になって、王宮を去ったある宮廷魔術師・・・・・・・の話も盛んにされるようになった。


 その日、数人の上級貴族が集まった会議中でもそのことが話題に上がった。


 一人の貴族が言う。


「しかし、あれはなかなかに痛快でしたな」


 それに応え、周りの貴族数人もうなずく。


「おっしゃる通りです。最近は『弟子を取る』とか言いだして、宮廷内での影響力がさらに拡大しかねない様子でしたから、ちょうど良かった」

「まさしく。まさかあのような神託・・・・・・・があるとは、日々信心深くいた甲斐があったと言うもの」


 あの日、神託が知らされた当初の焦りとは裏腹に、しばらく経った宮廷内では気に食わない政敵をていよく追い出せたことに対する安堵感が広がっていた。


 とはいえ当然、不安を感じる者もいる。


「しかし……彼女がいなくなって国軍は大丈夫なのか」


 するとすぐ別の貴族が答える。


「そこは問題ないだろう。なにせ我らが国王軍には、ユニフォードに匹敵する人材がまだまだいる。例えば他の宮廷魔術師や昨日も絶大な活躍をなさった勇者様。それに大魔導師様や魔法学園の生徒。……あとはなんと言ったか、ユニフォードの弟子の……」


 いいよどむが、すぐ他の者が補足する。


「ビブリオカスター」

「そうそう、ビブリオカスターたちだ。彼女らも国軍に入ったということではないか」


 ユニフォードの弟子の多くはその後国王軍にスカウトされ、すでに戦果を上げている。


「ああそうだ、勇者様といえば。今まさに我々が話し合っている本題の件についても勇者ユリウス様がお手を貸してくださるそうだ」

「なんと! いやはや、ユリウス様の仕事ぶりときたら素晴らしいですな。何より出自が上級貴族と申し分ない。用無しの低級貴族崩れユニフォードとはわけが違いますな」


「同感です。おっといけない、そろそろその本題に戻りますか」

「ああそうだった。話を戻そう」


 貴族らはそう言い、資料に向き直る。


「さて、ニアリンゲン・・・・・・近くの平原に現れたグレイワイバーンの変異種の件だが……」



   - -



「冒険者登録?」

「ええ」


 一晩が経った。


 結局モノウィッチの説得に押され、二人で魔王を倒す旅をすることになった。


 旅の目的地は魔王軍との戦争の最前線、すなわち北方。


 果たして、モノウィッチは本気でやるつもりなのだろうか?


 まあモノウィッチの実力は確かだし、その点では安心できるが……。



 そして今、私はモノウィッチに言われるがまま街の冒険者ギルドに来ている。


 冒険者……すなわち国軍とは別に民間で活動している戦士のことで、主に魔獣駆除などをやっている。


 中でも上級者とされる者は魔王軍との戦争に動員されることもある。


 ……らしいのだが、私はずっと国軍で働いていたので詳しくは知らない。


「私たちの旅の生活費は冒険者をして稼ぎましょう」

「なるほど」


 確かに、旅をすると言っても金がなくては成り立たない。


 冒険者として仕事を得つつ旅を続けるというわけか。


 話によると冒険者ギルドは、全国にネットワークがあり一箇所で冒険者登録をすると各地のギルドで仕事を得ることができることから、旅と相性がいいらしい。


 まさに“冒険”の旅というわけだな。



「それに、魔王軍と戦うならいずれにせよ登録が必要です。冒険者ランクというものがあって、その中で一定以上の冒険者が魔王軍戦に参加できるんです。国軍と魔王軍の戦場に一般人が乱入するわけにはいかないですから」

「それもそうか」


 何はともあれ、モノウィッチの話を聞きながら受付に向かう。


 期待半分、不安半分だ。

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