第5話 突然ですが、魔王を倒しませんか:続き

「実家に帰るのはやめて、私たちで魔王を倒しませんか?」


 ──は?


 一体何を言っている。


「魔王を倒す? 私が。何を言ってるんだ、もう私は魔法が使えないんだぞ」

「でも、先生には魔法の知識と経験、それを活かす頭脳もあります」


 困惑する私に、モノウィッチは間髪入れずそう答える。


「……今更おだてても何も出ないぞ。私に出せるのは今君が食べているので全部だ」

「何かが欲しくて言っているわけじゃないです」

「ではなぜそんなことを言う?」

「本当のことだからです」


 そう言って、モノウィッチはジョッキを机に置き立ち上がった。



 ……そんなことを言われても、魔法が使えなくなった私はただの無職だ。


 ちょっとばかり知識があるからといって、戦士の心得もない私はその場にいるだけでも邪魔だ。


 弟子の世辞を本気にして無謀な旅を始めたところで、モンスターに殺されるか、良くて野垂れ死にが関の山だ。


 私はできるだけ冷静に、諭すように言う。


「モノウィッチ君。私に期待してくれるのはありがたいが、私も自分がかわいいのでね。今の状態で魔王に喧嘩売るなんて御免だ。それに、この後に及んで無謀な挑戦をして弟子を危険な目に遭わせるわけにはいかない」

「いつまでそうやって不貞腐れているんですか?」


 私の答えに対し、モノウィッチは食い気味にそう言った。


 もちろん、いつも通りの愛想のない態度でだ。それどころかいつもよりキツい態度ですらあった。


「先生は弟子がどうとかそんな周りのことを考える人格者ではないはずです」

「おい待て、それはどういう……」

「心配いりません。魔法の使い手である私が同行しますから」


 モノウィッチはいつになく饒舌に、しかし相変わらず落ち着き払った様子でそう言う。


 しかし……。


「確かに魔王を倒せたら、私の魔法も元に戻って万々歳なんだが……。それは夢物語というものというか、流石に」

「あんなにバカにされて、先生は見返したくないんですか? そんなわけはありませんよね? 何せ人格破綻者ですから」


 おい。


「そりゃ腹立つさ! なぜなら私は私よりすごくて、もてはやされていて、私をバカにしてくるやからが大嫌いだからな! あと! ちょっとさっきから人格がどうこうとか聞き捨てならない言葉が」


 そこまで言うとモノウィッチがずい、と顔を近づけてきた。


「それなら魔王を倒すしかないですね。でなければ、一生貧乏くじです」

「いや、しかしそれは……」


「──答えてください。先生は一生実家で土いじりをして人生を終えたいんですか? それとも、私と一緒に世界を変えますか?」

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